見出し画像

少なくとも、好きだった瞬間はあったから

 実際には何だかよく分からない、傍から見たら恋人のような関係の人がいた。居心地が抜群に良い人。「それもう恋人じゃん」と言う人もいた。「本当にその人で良いの?」と言う人もいた。正直、私自身にもよく分からなかった。彼が他の人と会っていると言えば、もやっとする。だけど、長い目で見て、ずっと一緒にいたいかと聞かれたら、未来を想像できない人。

 「もう答えは決まってるね」と仲の良い友人は言った。私の気持ちは彼に傾いていると。続けて「告白頑張ってね!」と。彼女曰く、何が起こるか分からないこのご時世なので、とにかく私が後悔だけはしないようにね、と背中を押してくれた。そういえば、私に後悔は似合わない、と親友ちゃんも言っていた。

 だから、とりあえず伝えることにした。本当のことを言うと、言おうと決めた時と、言った時では、気持ちは変わっていたと思う。好きだよ。少なくとも、今この瞬間は。明日には変わっているかもしれない(そして言った瞬間には既に変わっていた)。正直、長い目で見て、ずっと一緒にいたいと思うかは分からない。だけど、少なくとも私にはそういう瞬間があったよ、ということを、知っておいて欲しかった。

 相手は戸惑っていた。明らかに困っていた。誰かと恋人関係になることは、相手が私でなくても、当分ないだろう。だから、待たないで欲しい。恋人を作りたかったら、作れば良い。とにかく私が傷つくことは避けたい。悲しませることはしたくない、ということを強調していた。

 「私は待たない」ときっぱりと言った。待つかどうか、恋人を作るかどうかは、私が決めることだ。相手に決められることじゃない。「彼に振り向いてほしい!」と頑張ることもしない。そういうことは無駄な努力だと、もう知っているからだ。相手はいくらかほっとしたようだった。大丈夫?最終的に見捨てられるのは、アンタだよ。

 「伝えられた相手にとっては重いよねぇ」と話を聞いた友人は言った。そうかもしれない。一方で「言いたいこと言ってスッキリしたなら良いんじゃない?」と言う友人もいた。多分、言わなかったらずっともやもやしていただろうから、私にとっては言うのが正解だった。それぞれ都合はあるだろうが、今回の件は私の都合を優先させたよ。後悔しない方を選んだだけ。

 居心地の良い人と離れるのは容易ではない。そんなに短くない期間、毎日やり取りして、割と頻繁に会ってもいた。だけど、カジュアルな付き合いが最終的には虚しく、後に何も残らず、つまらない、と私は既に知っている。もちろん、始まりは軽いものだったかもしれないけどね。それでも私はいつでもガッツリ相手に向き合いたい。熱中する楽しみにまさるものはない、と好きな小説にもあった。私はいつでもそれを求めてる。それに応えられないなら、お呼びでないよ。私は自分が欲しいものを、いつでも自分で選び取るのだ。バーイ!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?