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Dear Grower #016 カルロス・イトゥラルデ(ボリビア)


“天空の農園”

アンデス山脈

“天空の農園” アグロ・タケシ農園をひとことで表現するならば、それ以外の言葉は見つからない。切り立った山の急斜面に拓かれた農園は低いところでも標高1700m、高いところはなんと3000mにもなる(コーヒー栽培は2600mまで)。丸山珈琲が知る限り、ここ以上の高所に拓かれた農園はない。そんな“高い”農園は、“遠い”農園でもある。コーヒー農園はどこも日本から遠くにあるが、アグロ・タケシには心理的にも遠さを感じさせる関門があるのだ。

アグロタケシ農園

関門の数々

最初の関門は、ラパスのエルアルト国際空港。世界最高標高の国際空港だ。標高は4000m。富士山の頂上に空港があるようなものだ。飛行機から降りた瞬間にひどい頭痛に襲われる人もいる。高山病だ。この空港に降り立つときは、世界中を飛び回っている丸山健太郎も身構える。もうひとつの関門は、悪路。空港から農園への移動は、山岳地帯の崖道を避けて通れない。しかも、現地のドライバーは「どうしてそんなに急ぐのか」というスピードで車を走らせる。景色を楽しむ余裕はない。ただ祈るばかりだ。そんな思いをしてまで、なぜ“天空の農園” へ行くのか。そこに素晴らしいコーヒーがあるからだ。

アグロ・タケシに無事にたどり着くと、安堵感でほっとすると同時に、その風景に息を飲む。タケシとは現地の言葉で“人を目覚めさせる”という意味だが、まさにその通り。荒々しくそびえる山々。目の前の谷間を流れて行く雲。よくもまあこんなに険しい場所に農園を拓いたものだ。前述の通り、標高は1700~3000m。寒暖差の大きい高標高地でコーヒーは美味しくなるというのが定説だが、さすがにこの高さでは気温が下がりすぎて木が育たない。ではなぜアグロ・タケシではコーヒーが育つのか。秘密は土の中にある。この一帯は地中に石がたくさん埋まっていて、その石が日中の日差しで温められて熱を蓄え、朝晩の冷え込みからコーヒーの木を守っているのだ。その地にしかない特別な条件が特別なコーヒーを生み出すということを、分かりやすい形で体現している農園だ。

しかし、農園の環境条件だけがアグロ・タケシのコーヒーを特別にしているわけではない。特別な環境条件だということは、裏を返せば他にはない問題が起こるということ。例えば、雨が降ったり止んだりする気候により、一本の木の中に花が咲いているものや、青い実や赤く熟した実など様々な状態のコーヒーチェリーが混在することになる。そのため熟したチェリーだけを選んで摘み、極少量ずつ生産処理を行わなければいけない。また、農園のなかで1000m以上も標高差があるということは、上と下で6℃も気温差が生じる計算だ。この気温差を考慮して栽培や収穫をきめ細かく管理する必要があるだろう。条件を活かせるかどうかは、やはり人間次第なのだ。

農園主のカルロスさんは、高齢で脚が良くないのにもかかわらず訪問時は付きっ切りで農園を案内してくれる。そして、その側には必ず娘のマリアナさんが寄りそって彼を支えている。“天空の農園”を、手をつないでゆっくりと登っていく父娘の姿。美しい農園風景と、美しい人間風景。やはり、ここは特別な農園だ。


農園情報(2018年8月現在)

引用:Beans Menu 2018.8より


Discover Coffee Project 動画

今回は天空の農園、ボリビアの生産者「カルロス・イトゥラルデ」さんの魅力をお届けします!
コーヒーは、長い旅を経てあなたのもとへとたどり着く。
旅の出発点は農園だ。 あなたにも、素敵なコーヒーとの出会いがありますように。

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