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ハリボテの豪華客船

先週の話。

突然頭の中に「明るくなれ」という声がした。

その時の僕がどんなだったかと言うと、連日のコロナ騒動の情報と、その裏で進んでいるとんでもない法案の件と、確定申告と、細かい締切の連続で描きたい絵が描けなくて悶々としていた。

まあ普通に考えて、今のこの状況で暗くならない方がおかしい。

コロナに対しては、海外の凄まじいまでの政府の対策に対して、日本政府の対応はどうにも曖昧で「オリンピックのために感染者数を少なめに見積もりたい」という思惑ばかりを感じる。

「いつものやつ」とは言え、今回もうんざりする。

自分たちの住んでいるこの国が「時限爆弾付きのハリボテ豪華客船だ」という事は30年前からわかっていた。
それでも政府、マスコミ、国民の殆どが「日本の未来は世界が羨む」だの「侍魂」だの「クールジャパン」だの、印象操作に負けて、国民は貴重な「改善のチャンス」を先送りにしてきた。

そしていよいよ「沈没船」の全容が顕になってきた。

船長以下「超1級スイート」のセレブの連中は数年前から資産をかき集め、脱出の準備に入っている。

彼らのチームは、庶民の覚醒を抑えるため「それでも日本は最高」という「空気操作」にも余念がなかった。

「このままではいけない」と立ち上がった若者達を「意識高い系」というパワーワードで撃沈させ「このままがいい」と思っている人達に「このままで大丈夫」というメッセージが隠されたあらゆる「麻酔」をかけ続けた。

そんなある日「謎のウイルス」が現れて各国の大都市が封鎖され、危機を認めたくない人達と不安に怯える人達が混乱の中「トイレットペーパー」を奪い合う日が来た。

なんだこれ。

まるで「安いSF小説」みたいだ。
現実とは思いたくないけど、ある程度は「現実」だし、海外からの情報を並べるとこの国の惨憺たる現状が見えてくる。

観光業の倒産から始まって、多くの会社の倒産と、それに伴う失業、株価の暴落、冷え込む国内消費、という流れが加速してる。
そんな2020年だ。


【1964年の日本】

「東京ブラックホール」という番組がNHKで放送された。
1964年当時の東京の様子をリアルに見つめた番組で、それは僕らがイメージしている「明るい60年代」「3丁目の夕日」の世界からは程遠いものだった。

海外に向けて「先進国になった日本」をアピールすべく猛烈な都市改造が行われ、貧しい地方の絵稼ぎ労働者が最悪のブラック環境の労働で命を削っていた。

表向きは「綺麗な東京」でも川や海には汚染物質が大量に流され、空は工場の黒煙が覆った。
乳飲み子を抱えた貧しい母親が「自分の血」を売って暮らしている。
牛乳瓶2本の血が千円だったという。

当時の庶民に向けたアンケートでは、オリンピックに興味がある人は全体の数%で、半分以上の国民が「オリンピックより大事なことがある」と言っていたという。

オリンピックに関する贈賄、不正なお金の流れも凄まじかった。

そんなふうにして今の「ハリボテの東京」が出来上がったというのだ。

何もかもが「今」に繋がる。


【アトムと鬼太郎】

そんな60年代に、アトムと鬼太郎という2人のヒーローが誕生している。
一方は「心優しい科学の子」であり、もう1方は「試験も何にもないおばけの子」だった。

今思うとどちらも「明るい」キャラクターだ。

でもその「明るさ」は決して現実逃避のための「安い麻酔」ではない。
「科学の希望」というイメージを持っているアトムも「ロボット差別」に苦しむ暗い現実を抱えている。

一方の鬼太郎は、闇に生きているけど「競争に取り憑かれた現代人」を笑っている。

「明るく見えるけど悲しい」アトムと「暗そうだけど明るい」鬼太郎は、この時期の日本人そのものに見える。

ハイスペでメンヘラのアトムの苦悩を救うのは、「競争」を笑ってる鬼太郎たち「おばけ」のものたちなのかもしれない。

つくづく手塚治虫と水木しげるはセットだったのだと感じる。


【「アキラ」の金田】

みんなが指摘しているけど、今年は大友克洋の「アキラ」に出てくる年だ。


漫画「アキラ」の2020年は東京オリンピック直前で、それを「止めさせよう」という落書きが壁に書かれている背景が出てくる。恐ろしく未来を予言している漫画だ。

アキラの連載当時には、あの漫画に出てくる金田の「俺たちは健康優良不良少年だ!」というセリフがどうにもダサく感じて嫌いだったけど、今となるとこのセリフが中々染みてくる。

色々あるけど、とりあえず心だけは「健康優良不良少年」でいこうと思う。

暗くなったところで、「できること」は変わらない。
深刻な顔になったところで問題は解決しないのだ。

事態から目を背けず、真剣に行動している人達を笑わず、曖昧で都合のいい「夢」に逃げず。
この地獄の季節を「明るく」乗り切る。
そう決めないと心が折れてしまうだろう。


思えば僕の人生は、世の中に期待しては失望して「悩んでばかりの人生」だった。
なんだかんだで、もう一生分の苦悩は「先払い」した気がする。
今後も悩むだろうけど、少なくとも「暗く悩む」のは終わりにすることに決めた。

水木先生が明るかったのは悩みがなかったのではなく「明るく」悩んでいたのだろう。
河合隼雄先生も寂聴さんも亀仙人もみんなそうだったのかもしれない。


今更ながら、僕らが言い続けてきた「ご機嫌主義」という選択はいい。
「ヤングサンデー」は「若い日曜日」だ。
若い時の日曜日は基本的に明るい。

こうなったら死ぬまで「ヤングサンデー」だ。


メルマガ2020 3月9日


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