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WITHOUT YOU: EDDIE VAN HALEN

エディー・ヴァン・ヘイレンが亡くなりました。65歳。

突然の訃報を聞いた私の頭にまず浮かんだのは 「エディーって死ぬんだ…」

21世紀になってから出したアルバムは、DLR と再び組んだ "A Different Kind of Truth" 一枚だけ。それでも私の人生には、そして世界には、いつもヴァン・ヘイレンの音楽が寄り添い続け、サウンド・トラックのように響き続けていました。だから、エディーはいつまでも存在し続けると思っていたし、現実感がまったくわかなかったんですね…

ロックが肥大化、商業化を極めて以来、エディーほどの重要人物を失くすのははじめてだと思うんです。だから事が大きすぎて、フワフワしていて、まだ現実として受け止められない方も多いんじゃないでしょうか。

もちろん、ライトハンドにはじまって、両手タップにハミングバード、変則ハーモニクス、ディレイの魔法、アームの嘶き、ドリル・アタックとエディーの凄いところなんていくつでも挙げられます。だけどね、一番好きだったのはピュアな魂とキュートな笑顔なんですよ。

とにかく華やかなアリーナ・ツアーも、ド派手なギターギミックの数々も、キャッチーを極めた楽曲も、すべては世界を楽しませるため。そんなエディーの哲学は、満面の笑みでウルトラテクニックを放出する彼のステージングに、すべて集約されていたと信じています。

ロックにおいて、楽しませることと同時に、いかに個性が大切かを教えてくれたのもヴァン・ヘイレンでした。

アレックスなんて、ラーズの何十年も前からゴミ箱を叩いてダンボールをバスドラにしていたようなものだし、関節もたぶんガッチガッチなんですけど、あのドッコドッコドッコドッコが聴こえてくるとワクワクするじゃないですか。それでいて、エディーのリフと謎の化学反応を起こしまくって、裏拍のクールを極めてしまう。マイケルだって、ライブで突然発狂しベースをぶん殴り、頭突きをするだけの中年男性にしか見えませんが、彼のコーラスこそがヴァン・ヘイレンであることに異論はないでしょう。

そんなヴァン・ヘイレンが、おそらく売れなくても別にいい、人目を引かなくても別にいいと思いながら作ったレコードがたった一枚だけあるんです。1998年の "Van Halen Ⅲ" です。

世の中の評価は決して芳しくないアルバムです。それはきっと、エディーが楽しませるためじゃなく、楽しむために作った唯一の作品だから。そして、"A Different" をボーナストラックのように捉えている私にとって、このアルバムはエディーのラスト・アルバムで、とても大事な作品なんです。

もともと、アラン・ホールズワースを敬愛していて、ジェネシスとかイエス、フォーカスみたいなプログロックも聴いて育ったエディー。一方で、ダークでヘヴィーな音楽にも興味津々だったエディー。そんな彼がタイミングも符合し、遂に立ち止まってやりたいことを詰め込んだ。それが "Van Halen Ⅲ" だと思っています。

もちろん、それまでも "Summer Nights" みたいな変態ソングは少なからずあったんですが、それでも無理やりイヤーキャンディを配合して気がついたら変態が売れる曲になっていたんですね。それが才能なんですが。

"Van Halen Ⅲ" はその売れる曲に持っていくかわりに、アートの方向へと振りました。ベースもドラムも、実はエディーがプレイした楽曲が存在するようです。だから、素のエディー・ヴァン・ヘイレンが存分に味わえるんですよね。そして、だからこそ、シンガーはデイヴでもサミーでもなく、フレキシブルでギタリストに合わせられるゲイリー・シェローンなんです。つまり、ある意味でこれは唯一のソロアルバムなんでしょう

まさにアイデアの宝石箱。アコースティック・ギター、ピアノ、シタール、ディレイ、それにクリーン・トーンのバッキングを多用して荘厳とも言える雰囲気を醸し出すヴァン・ヘイレンなど、これまでではあり得なかったでしょう。変拍子やシンコペーションもこれまで以上に活用され、迷宮のごとき場面もしばしば登場。ファンクや低音に振り切った変則チューニングの導入も驚きでしたが、何より天国の階段をアイデアの上書きでアップデートした "Year to the Day" の扇情力は間違いなくアルバムのハイライトです。

作品を締めくくるのは "How Many Say I"。ストリングスとピアノで織り上げた美しき叙情。奇しくもエディー本人が歌っています。記憶違いかもしれないんですが、息子でヴァン・ヘイレン現ベーシストのウルフィー君がハーモニーをつけていたんじゃなかったかな。とにかく、アルバムの不思議で知的な雰囲気を象徴する一曲ですし、エディーの歌声を聴ける貴重な場所でもあるんです。そうか、もうエディーが "私" って言葉を発することはもうないんだ…エディーの音楽が届くことももうないんだ…うん、さすがにこれはくるな…

I just can’t do it all without you...without you!

エディーなしじゃたぶんやっていけないよ。でもなんとかやってみるよ。たくさんの笑顔とたくさんの名曲を残してくれたから…明日もヴァン・ヘイレンを聴きながら会社にいくよ…ありがとう。





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