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ステップ株主からみた公立高校合格実績の考察

 私の投資先企業であるステップ(東証1部/9795)は神奈川県を地盤とする学習塾です。そして2022/3/1に神奈川県公立高校の合格発表がなされました。合格実績は各学習塾における今後の評価を左右する事から注目されます。今回は決算ではありませんが、大きなトピックスもありますので、内容について考察していきたいと思います。あくまで、業界ド素人の私の個人的な妄想で書いていますので、おかしい点など適宜ツイッターでご指摘頂ければと思います。

1.各社トピックス

 まずは、各社目線で今春の合格実績のトピックスを挙げてみます。
 なお、以下でTOP校と表記をしていますが、これは私の主観です。
(横浜翠嵐,柏陽,希望ヶ丘,横浜緑が丘,神奈川総合,横浜国際,川和,横浜SF,光陵,湘南,厚木,平塚江南,小田原,相模原,茅ヶ崎北陵,大和,多摩,横須賀の計18校)

■ステップ

  1.  TOP校の合格実績が昨年比+211人(+10.3%)の躍進

  2.  最難関の横浜翠嵐で1位を臨海セミナーに譲る

 まず、1.についてはステップの順調さがこれだけで伝わってきます。ステップの生徒数はざっくり10%前年より伸びています。その生徒数の伸長と同程度TOP校の合格者を輩出しているということになります。実際にコロナ禍で学習不安のあった生徒さんの入会が10%の生徒数増の背景がとしてあるとした時、当然、偏差値60未満の生徒さんも多く入塾されていると思われます。そういう中で、TOP校の(しかも受験者ではなく)合格者の実績が+10.3%という実績はまさに躍進とみていいのではないでしょうか。神奈川県の公立高校TOP校志望者の方が必ずしも横浜翠嵐だけを志向しているわけではないですからね。多様的な選択の中で、万遍なく成果を示せている事に強みを感じます。
 そして、2.ですね。横浜翠嵐は東大合格者を多く輩出し、全国的にも注目されている公立高校ですし、ステップがここ数年で1位を取って今後これを岩盤なものとしていくという機運の中での1位陥落ですからね。詳細な数値は後述しますが、5人差と僅差な差でした。この部分は様々な考察が出来るわけですし、センシティブな要素も含むものですから、改めて詳細は後述したいと思います。ここでは、一言、全力で指導に当たった先生方と全力で学び続けた生徒さんに敬意を表したいと思います。

■臨海セミナー

  1.  横浜翠嵐で念願のTOPを奪取

  2.  シェア1位校は前期比減少も1位は堅持

  3.  TOP校の合格実績は昨年比+29人(+3.1%)で微増

 まずは1.ですね。横浜翠嵐は昨年の大学受験で東大合格者を多く輩出したという事で一躍注目されています。翠嵐の先生方もある種のスパルタ教育で鍛え上げ、従来の難関私立から東大という王道コースだけではない、公立高校から東大を狙えるという事で高校受験でも人気が高まっています。当然、県下の塾としてはこの横浜翠嵐高校のブランドが高まるからこそ、この学校の合格実績が宣伝効果に直結します。要するに塾としての集客という面での博がつくということです(個人的にはそもそもそんな単純かつ表面的な事で個々の塾が評価される事自体に違和感があるわけですけど)。ですから、業界内はもちろん、生徒さんやご家庭にとっても横浜翠嵐の実績No.1というのは是が非でも我が物にしたいということになるわけです。そして、今春の合格実績としては、僅か5人ではありましたが、ステップから1位を奪取し、臨海セミナーが1位を取ることになりました。もちろんこれには様々な前提というか留意すべき点がありますので、この辺りも後述にて考察をしていきたいと思います。
 2.については、元々臨海セミナーは光陵、多摩、横須賀の3校で1位をとっていました。今春についてもこの3校は臨海セミナーが1位を堅持しています。但し、これら3校はいずれも昨年比で減少しています。特に多摩と横須賀は各▲7%、▲9%と大きく減らしています。この辺りは1.とセットで考察すると色々仮説が浮かんできます。
 3.については、横浜翠嵐では前年比で+26人と+7%の伸びとなり1位を奪取となりましたが、その他のTOP校を含めた合計では相対的に伸びは抑制的で全体としては+3.1%を微増に留まったという事になります。臨海セミナーは上場会社ではないため、全体の生徒さんの増減がわからないので、この微増をどう評価するのかは難しいですが、ステップに比べるとこの点では劣後したという事になります。

■湘南ゼミナール

  1.  TOP校の合格実績は昨年比▲53人(▲6.0%)と減少

  2.  唯一のシェア1位の横浜SFも1位をステップに譲る

 湘南ゼミナールは表面的な実績としては、緩慢な状況となりました。もちろん、こんな数値だけで推し量れない部分もあるでしょうし、スプリックス傘下となった事で、路線を変えてきているとみる事もできるのかなと思います。TOP校の合格実績はここ3年の推移は877人→824人→720人と漸減傾向が続いています。また、川和の1位を2020年にステップに譲り、最後の1位であった横浜SFも遂に今春1位をステップに譲ったことになり、これでTOP校は全て他塾となった事になります。個別指導塾である森塾とのシナジーという側面で方針を大きく変えているのかな、なんて素人ながら感じるところです。

2.合格実績の概況

 それでは、各塾の開示している合格実績を手元でメモしたものをみていきます(目検で転記しているので誤記があればごめんなさい)。

2022年の実績
2021年の実績

 上段は今春、下段は昨春です。

 徒然なるままに色々見ていこうかと思います。全て業界に全く知識を持たない素人の私の妄想ですので、事実と全く違う可能性がありますし、個々の会社の名誉を傷つけるつもりは毛頭ありません。

 トピックスに挙げた翠嵐以外をみてみると、ステップの湘南、柏陽の伸びが特に大きいという点にまず目がいきました。湘南は元々ステップのお膝元で占有率も高い中で、更に伸びて68%まで上がっています。そして、柏陽も湘南地域や横浜県西地域からの利便性が良い立地という中で、占有率は62%まで向上しました。またもう一つの注目は川和高校です。同校は進学重点校に指定されたこともあり、一定の生徒さんへの訴求力も高まっているわけですが、ここの伸長も大きくなっています。同じ傾向は横浜SFにもみられますがここは絶対数がまだ少ないため参考です。
 このような状況と横浜翠嵐の高倍率を念頭において想像してみると仮説が浮かんできます。つまり、横浜翠嵐から他校に志願がシフトしたのではないかということです。ステップでは、塾の都合(実績をつくるために)で受験指導を行うことがありません。ですから、高倍率化した横浜翠嵐をごり押しするということもせず、ニュートラルにアドバイスをしていたと思うのですが、そういった中で横浜翠嵐の受験者数が伸び悩んだという側面があったのではないかと思うわけです。そう考えると横浜翠嵐の実績が思うように伸ばせなかった事とも符合します。
 一方で臨海セミナー視点でみると、臨海セミナーが1位をとっている多摩や横須賀を大きく減らしています。また人数は少ないですが、湘南や柏陽といった最難関TOP校も地味に減らしています。そして横浜翠嵐の高倍率という事を念頭に置くと、ステップとは逆に横浜翠嵐へ志望をシフトしてきたのかなと感じます。これまでの臨海セミナーの高い営業力も考慮すると、当然それ位のことはやってくるだろうなとも思います。結果、横浜翠嵐で1位を奪取する事が出来たというわけですね。
 この辺りは、合格率をみてみたいなとなんともいえませんね。当然横浜翠嵐がここまで高倍率になっていることから、両塾とも合格率は下げているものと思いますが、その中でこういった妄想がどう数値にみえるか、確認してみたいですね。

 次に気になったのは、ステップの多摩の実績です。多摩は川崎北部の南武線沿線の立地です。南武線といえば、足元でステップがドミナント出校に着手してきた地域です。当然、ステップにとってはフロンティアな地域ですから実績もまだ少ないんですよね。過去年度の実績推移は以下の通りです。

 ステップ  :28人→38人→40人→52人
 臨海セミナー:83人→95人→97人→77人
 湘ゼミ   :48人→51人→68人→61人

 まだ南武線沿線のドミナントは着手したばかりなので、その成果は今後となることもあり、まだステップの推移は漸増とはいえ3位という位置です。こういう状況をみると、そりゃ、南武線にドミナントしていこうって気になりますね。今年、受験者数もBレンジからCレンジに増えていますから、今後段階的な出校につれて、Dレンジまであがってくるだろうと思われます。

 ところで、この合格実績ですが、各塾が勝手な集計ポリシーは混乱のもとなので、全国学習塾協会の定める基準というものに基づき集計されるのが一般的です。その基準は以下の通りです(ステップのHPに記載のあった転記内容を使用しています)。

 要するに受験直前の6ヶ月のうち3ヶ月在籍していることと、30時間受講している生徒さんを自塾の合格実績とするというポリシーです。

 ステップは以下のようにポリシーが明記されています。

 湘ゼミは以下ですね。こちらも協会基準に沿っている旨記載があります。

 臨海セミナーは以下です。昨年の騒動の際にUPDATEされたものです。なお、この文言は合格実績の表記の箇所には明示的になっていません(私がみつけられてないだけ?)。

 まず、協会基準ではない自主基準ですね。協会基準に沿っていますって事ならわかりやすいと思うのですけどね。③をみると冬期講習後、入会した生徒さんも対象としている、つまり協会基準の3ヶ月以上より緩いものとなっています。実際、冬期講習後から入塾した生徒さんがどれだけいられるのかわかりませんが、少なくても基準が違うのでフェアではないですね。不都合がないのであれば、フェアな環境で比較出来るようにしたらいいと思うのですけどね・・・。

3.平均点からの考察

 平均点を見ていこうと思います。まず5科の状況です。理科の易化の一方、数学と国語が難化しました。5科で平均点は昨年より下がりましたが、翠嵐においてはステップ平均点が昨年より増えているという状況です。

  また、6科のステップ平均は以下のサイトより公開されています。

 特色試験のうち共通の1-2問が易化した一方、翠嵐型では個別の問題が得点がしにくく平均点が上がった中で、差がつきにくいという構造だったようです。

 社会の易化と特色のメリハリという構造はステップには不利に働いたのではないかと思います。私立色が高い生徒さんにとっては社会で差がつかない事はメリットですが、ステップでは相対的にバランスよく学んでいるような印象だからです(あくまで私の勝手なイメージです)。また特色試験も程よく難しければいいのですが、今年の翠嵐の個別の3-4問は鬼畜な問題でこれは訓練されていてもなかなか得点がしにくいものだったように思います。一方で共通の1-2問は比較的安易で両極端であることにより、結果差が生まれにくいということで、この部分でもステップ生には逆風だったのかなと感じます。

 ただ、この辺りは実際、ド素人の私なんかの妄想より、ステップでははるかに深く考察され、今後に生きる対策を検討されている事と思います。

4.参考コンテンツ

 さて、以下、関連のコンテンツを勝手にリンク貼っておきます。
 (ご迷惑ならすぐにリンク切ります…)

■カナガクさんの記事

■教育百貨店のyoutube動画

■dosh.さんのライブ動画

5.最後に

 ステップから合格率等詳細なデータが開示が今後ということなので、それを確認できればもう少し真っ当な考察もできるかもしれません。まぁその時にはステップの熱き考察も付加される事と思いますから、それを確認すれば万事解決です(笑)。そういったデータが出そろったタイミングでは改めてこの考察もUPDATEしたいなと思います。

 ステップの株主の目線で書いていることもあり、本来主役であるはずの生徒さんの目線に欠けていたりするかもしれません。何より一人でも多くの生徒さんが志望校に合格され未来を拓いたであろうことを思うと嬉しくなります。一方、翠嵐など高倍率の学校では一定数の不合格者が出ている事を思うとどうしょうもない事とはいえ複雑な気になります。だからこそ、学習塾においては生徒本位であるべきですし、フェアに切磋琢磨していただきたいなと改めて思います。

 そして、翠嵐やTOP校を中心に考察をしてきましたが、そもそも学習塾の意義としては何も上位層だけをターゲットにしているわけではありません。私も自分自身が上位校の受験を戦ってきたので、なんとなく上位校を中心に考えてしまうのですが、個性が重んじられる現在においては、より多様的な生きていくスキルを総合力として身に付ける、それは学力だけではなく、精神的な部分も含めてだと思います。そういう所にまで真摯に生徒本位で、そして自らが社会の公器として恥じぬ運営をされ、その中で切磋琢磨されることを願うばかりです。

 ステップにとっては、翠嵐の1位を明け渡したわけで、株主としても残念ではあります。しかし、これが先生方の怠慢、経営の不信が根底にあるわけではないと私は信じています。むしろ、彼ら自身が忸怩たる思いにあると思います。今後、より高めるためにはある意味よいタイミングで一度点検をするという機会としてよかったのかもしれません。

 最後に、dosh.の一角である慧真館さんの記事です。最後の「残念ながら不合格になったあなたへ」の部分が最後まで生徒本位の神髄を見た気がして、教育の奥深さを改めて知った気がします。(こちらも勝手にリンク張ってます…)


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