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ある日大きな❌❌❌が届いた(58)カウンセラー側の日常

「ふぅ、、、疲れた、疲れた。」

中上は花とのセッションを終えて一息ついている。セッションで集中した後は疲労を感じる。心地よい疲労感もあれば、なんだかどんよりとした疲労を感じるときもある。

今日はほどよい疲労感のほうだ。もう一息の花とのセッション、このケースももうすぐ終結を向かえる。クライエント側も終わりを感慨深く一抹のさみしさのようなものを抱えて終了するものだが、

それはもちろんカウンセラー側も同じだ。応援する気持ちと少しのさみしさ。これは人間特有の感情だろう。

自分専用のマグカップにアールグレイのティーバッグを入れ、共有のポットの湯を注ぎ入れる。近くのテーブルには同僚たちが出張や旅行で買ってきた茶菓子が並んでいる。

全てに手を付けてしまうと簡単に太ってしまうので本当に食べたいものだけを選ぶようにしている中上だが、カウンセリングの後には疲労のせいか、ついついあんこやクリームを使っているこってりと甘いものに手が伸びる。

「あっ中上先生、お疲れ様です。冷蔵庫にお土産で頂いたお団子がありますよ。」

「えっ本当ですか?嬉しい。頂きます。」

受付の女性との簡単な会話を交わし、冷蔵庫を開けてみると綺麗なこしあんをまとった団子が並んでいた。1本をお皿に移す。

これは紅茶じゃなく緑茶を入れたら良かったかなぁと思いつつ中上は部屋に戻った。過去の記憶を扱ったり、未来の目標を立てたり、行ったり来たりするが、今、ここを心地の良い物にすることが何より大事だ。

休憩にお団子1本もらってテンションが急に上がるように今を心地の良いものにすることは案外簡単だ。食べること、寝ること、誰かと会話を楽しむこと、その少しずつ積み重ねたなんてこと無い時間がトラブルや危機に見舞われたときに

回復の助けになる。花とのセッションではそれが一番の肝だった。幼い頃から意味のあることを無駄のないように人から遅れを取らないようにして一生懸命だった花は、目の前の出来事を心から楽しむこと、とりあえず今に集中することがなにより苦手だった。

何かに追われ、次の課題に怯え、準備が必要だと考えながらも物事が手に着かない。遊びに行っても気もそぞろ、足が地面に着いているのか、着いていないのか、地盤の緩い場所を歩いていた。

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花のケースをまとめながら中上はセッションの内容を思い起こしていた。

今回の直近の出来事はうまく処理できたようだから、次回はその経過を観察。そして重要な14歳のときの出来事を扱わなきゃなぁ。

辛い出来事を振り返るのには勇気もパワーもいる。でもそれをきちんとまた取り扱うことで今にきっと変化は起こる。

花はその準備ができたひとだ。大変だからこそタイミングを計る必要がある。この試金石とも言える出来事を扱うことが次の目標だ。

その日々は近いだろう。


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