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俺は天才犬むく①

俺は犬。名前はむく。天才犬だと思う。
俺は人の言葉が理解できる。俺の部屋はテレビがあって、常につけっぱなし。9年間観続け、世界の全てを理解した。

「散歩」と言われればすぐに玄関に行くし、「おやつ」と言われればすぐにお手をする。
散歩の途中ですれ違う犬を見ても、俺ほど賢いとは思えない。俺よりでかいけれど。
そもそも散歩スタイルが違う。飼い主が俺を散歩させているのではなく、俺が飼い主を散歩させている。俺が無理やりリードを引っ張り、帰ろうとすると駄々をこねる。そう、俺様に主導権がある。意識の違いだよね。

俺の飼い主は平日は家に居ない。仕事らしい。仕方がないから一人、いや一匹でずっと遊んでる。結構寂しい。

帰ってくると「仕事いやだったよおおおお」などと抱き着いてくる。なら行かなくていいと思うけど、どうやらそういうわけにもいかないらしい。

休日は煙草吸いながら酒を呑んでる。まじで臭い。そんな時は距離を置きたいのだが、あっちから抱きしめてくる。臭い。
俺が女の子だったら犯罪だよ?犬に人権は無いのかと思う。犬だから無いか。

しかし俺は鼻がひん曲がりそうになりながらとりあえず甘える。仕事だと割り切ってる。プロなので。おやつ貰えるし。

でも休日に誰とも話さない飼い主を観ると、心配になる。

飼い主は人間が嫌いらしい。人間なのに。
人間はおかしな動物だなとつくづく思う。
過去に傷つけられた過去があるのかもしれない。
出来る限り関わりたくないのかもしれない。
だけどいつも寂しそうにしている。

でも、俺は飼い主よりきっと先に死ぬ。そしたら本当に独りぼっち。
俺が死んだら新しい犬を飼うのだろうか。それはイヤだな。未亡人になって速攻再婚するようなもんじゃん。
あの世で泣いちゃうよね。

仕方が無いので飼い主に友人ができるように計画を立てることにする。
どうせうまくいく、俺天才だし。










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