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未来のものづくりについて話そう ~B品・産業廃棄物編~

こんにちは!衞藤です。

マルヒロで焼き物に携わり始めて、早3年。

波佐見焼の魅力や新たな可能性を知った3年間でもあり、同時にこの3年間は波佐見焼が抱える課題について意識するようになった時間でもあります。「ものの価値」について以前より考えるようになりました。

「B品」と呼ばれる商品化されない物や、製造工程で産業廃棄物(以下、「産廃物」に省略)とされる様な端材資源の廃棄問題。

職人さんたちの細やかで素晴らしい手仕事に対して支払われる対価の低さへの疑問。

どちらもここ波佐見町で過ごし、波佐見焼を見てきたからこそ、考えるようになったことです。

このような産地が抱える課題を解決していくために、動き出している人がいます。

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ウラベメグミさんは、波佐見町にある「ウラベ生地」にて家業である生地屋(注1)の仕事をするかたわら、絵描きとしても活躍している、波佐見町の未来を担うひとりです。

有田工業高校デザイン科卒業後、福岡や東京、NYでの生活を経て、故郷である波佐見に帰ってきたウラベさん。「生地屋」と「絵描き」という生業を通じて、ウラベさんは持続可能なものづくりを続けるために、どのように波佐見焼を見つめているのでしょうか?

前編では、製造工程で産廃物とみなされる「資源」を軸に、後編では焼き物屋さんの「働き方」に焦点を当てて、ウラベさんにお話を伺いました。

(注1)生地屋とは?

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分業制で作られている波佐見焼には、たくさんの職人さんが関わっています。その一つの工程である「生地屋」は使用型と呼ばれるやきもの用の型を使用し、やきものの「生地」を成形する人たちのことです。


「B品」「産廃物」とは?

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ウラベさんのお話の前に波佐見町の「B品」「産廃物」について、少しだけ触れておきます。

傷や鉄粉が全くない「完璧な商品(A品)」へのニーズ、色味や質感の違いなど、焼き物の個体差が受け入れられない市場が当たり前になり、波佐見町の窯元や商社は行き場を失ったたくさんのB品を抱えています。

B品に加えて「産廃物」の存在も。大量生産を得意とする波佐見焼は、生産の効率化を図るために様々な技術や道具を生み出してきました。

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その1つに「石膏型」という、真っ白な石膏の粉を使って作られた焼き物用の型があります。石膏型があるおかげで、同じ形の焼き物をたくさん生産することが可能になりました。

しかし現在、B品や石膏型の処分を巡って、大きな問題点が浮き彫りになってきているのです。土に還らないB品や産廃物はこれまで波佐見町周辺に埋め立てて処分されていたのだが、その処分場が満杯になってきているそう。もし最終処理場が満杯になってしまったら…?私たちはどうするのだろう?

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「焼き物はもともと土や陶石からできているから、土に還るのでは?」と思う人もいるかもしれないが、一度窯で焼いてしまった焼き物は土に還りません。石膏型に関しては、摩耗してしまうと使えなくなってしまい、処分しない限り、どんどん型屋さんや窯元に溜まっていってしまいます。型はとにかく重く、保管すると言っても、積み重ね過ぎると型を取り出すのに一苦労だったりと、高齢化の進む産地では大きな負担になります。(HASAMI SEASON01 22㎝プレート 1枚を作るために、約10kgの石膏型が使われています)

「B品」や「産廃物」のリサイクル活用はまだ追いついておらず、処分場所が無くなるかもしれないという新たな問題が立ちはだかっています。

その中でウラベさんは「自分にできることを少しずつ」という思いで、この問題と向き合っています。

※廃石膏型の量は販売量から推測すると、年間700~800トンと言われています。(出典:平成31年度2月発行・はさみ議会だより


ものづくりへの疑問

(※以下、「衞藤→衞」「ウラベさん→ウ」に省略)

衞:ウラベさんの絵はとても鮮やかで、力強く、民族アートを想起させますね。

ウ:嬉しいです。トライバルアートとか好きで。柄について詳しいわけではないけど、色とかを見ることが好きです。

最近は自分の絵が鮮やかすぎるかなと思って、黒だけとかにも挑戦しています。マテリアルも絵の具だけではなく、他のものを使ったり。

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衞:他のものとは?

ウ:絵の具は基本的にアクリルを使っているけど、コーヒーを淹れた後の豆とかも使ってみたりします。着色が微妙だったり、粘土に埋めて窯で焼いたら焼け飛んでしまったりするので、マテリアルとして凹凸を出すために使うとかだったら絵を描く人にとっては使えるかもしれない。例えば、焼かないアクリル粘土で使ってみるとか。サスティナブルな作品を作りたいです。廃材とか使って作品を作れたらと最近考えています。

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衞:作ったものが環境の中で循環するような作品を作っていこうとしているのですね。

ウ:そうです。ゴミになるものをアートに変えたときの価値がどのようにとらえられるのかって気になっていて、人それぞれ答えは異なるから、そういうものをお客さんに投げかける展示が出来たらいいな。そこで「廃材を使いました」って謳わなくても、作品としてかっこよくなれば価値は上がるので、その作品をお客さん自身に値段をつけてもらう試みもしてみたいです。

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衞:ウラベさんのライフワークであるペインティングに「サスティナブル(持続可能な)」という視点が加わるようになったきっかけは何だったのでしょうか?

ウ:やっぱり「石膏型」ですね。家業の生地屋で仕事をするようになってから、石膏型の問題と向き合うようになりました。

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あと、正直にお話すると、生地屋でこんなにたくさんのものを作っていることが罪悪感でもあります。「こんなにものが売れるのかな」っていう。

すでにたくさんものがあるのに焼き物を作って、土には還らない。そういった部分で罪悪感があって。もちろんいいものを作らなきゃという気持ちがある反面、いっぱい作ることへの疑問がすごい生まれています。欠品がいっぱい出るとなおさら。

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生地屋として

衞:波佐見で焼き物に関わるからこそ生まれる疑問ですね。私も波佐見に来てから大量生産について考えるようになりました。

ウ:「こんなに誰が使うの?買うの?」という疑問があって。でもそれで生計を立てている自分がいる。これから生地屋としてどういう方向でやっていこうかなということを考えている段階です。双子の姉・彩子も同じ考えで、2人でよく今後について話しています。

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大量にものを作る時代でもないし、自分たちもそのマインドではない。注文が入ってくればもちろん作ります。生地屋のベースは残しつつ、自分たちの腑に落ちるやり方でやっていこうって。

商社や窯元に利用権限のある石膏型をこんなに抱えていて、私たちには2次的に利用する権限はないから、捨てることしかできない。

先日、型を捨てに行ったときのことです。全部埋め立てで、無理やり詰め込んでいる感じでした。見た感じ満杯なのに、埋め立て業者さんは「あっちの山を崩すから大丈夫」とか言っていて。正直理解できません。けれど、自分たちも型を捨てに行ってて、その矛盾がもどかしいです。自分たちが焼き物を作ることを辞め、生地屋が無くなってしまったら、産業として成り立たなくなってしまいます。

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石膏型の活用方法を考える

衞:石膏型の活用について、今考えていることはありますか?

ウ:使えないなら「使える何か」に変えれたらと思っています。今、ある解体業者さんが石膏型のリサイクルをしようとしていて、でもものすごくお金がかかるから、実際に実現するかどうかはまだ分からないけど、そういう人たちと一緒に何か商品開発できないかなと思っています。

あと、石膏型の再活用には直接的には関係ないのですが「農業」にも興味があります。器は食べるためのツールで、基本的にはその部分がメインです。食べることの延長線上に「器」があると思っていて、自分たちの暮らしの中で外せない「食」と関わりたいです。

自宅に畑はあって、今は知識がないから、お母さんや周りの人に教えてもらいながらしています。土づくりとか、ゴミを堆肥化することも勉強になるのかなと思っています。生活の中で自分たちがやっていることが、石膏型の活用とかにつながっていったらいいなと。

焼き物は自然の資源を使っているから、自然への敬意、自然のサイクルの中でするということが大切なことなのかなと思います。

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小さなことから少しずつ

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衞:生地屋でお仕事をされるようになってでてきたものづくりへの疑問やサスティナブルな考えは、アートワークにも反映されており、2つの生業が良い方向に相互作用しているように見受けられます。

ウ:今、環境問題がすごく取り上げられているけれど、大きなことはできないと思っていて。だから小さなことからアートワークや日々の生活でも実践するようにしています。

環境問題を考えるようになってから、自分の作品を作るときに「絵の具もゴミになるな~」とか、とにかく考え始めるときりがないんです。けれども少しずつ、例えば湯むきしたトマトの皮を乾燥させて、コラージュしたりしています。自然の色ってすごくきれいだから、そういうことをちょっとずつできたらと思っています。

環境問題は人間のエゴから発生したもので、人間がいる限りは止まらない。けれどもちょっとでも何かできたらなと。

生地屋として長く使えるものをきちんと作るとか、なま生地の時点できちんと検品して、まだ土に還せる状態のときに還すとか、責任を持ってきっちりやりたいと思っています。

※なま生地:窯に入れて焼く前、型から出したばかりの柔らかい状態の土のこと。(下写真)

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ー完

未来のものづくりについて話そう ~働き方編~もぜひご覧くださいませ!


マルヒロの一歩

マルヒロも少しずつ「B品」「産廃物」の活用方法を模索しています。

<約2万5千個のB品を床に。「マルヒロ直営店」>

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(Photo by:Takumi Ota)

マルヒロ直営店の入口に立ったお客様の多くは「わっ!この上歩いてもいいの?」と驚かれます。

マルヒロ直営店の床はたくさんの食器が積み重ねられています。その数なんと、約2万5千個!商品化されない「B品」を波佐見町全体から集めて床を制作しました。

歩いても大丈夫なように設計されており、食器の上を歩くという非日常感をお楽しみいただけます。


<”B級判定”を豊かに超える”S級品”を生み出すプロジェクト「MYSTERY CIRCLE」>

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ミステリーサークルは、生産工程において現状規格ではB級と判定され商品化されない物や、製造工程での産廃物とされる様な端材資源にさまざまな分野の智慧を用いて付加価値を加え、”B級判定”を豊かに超える”S級品”を生み出すプロジェクトです。

同じ価値観のメーカーが協同し、同じ価値観の市場に提案するその(環(わ))の広がりを、生産者や生産地域と共に目指します。

これまでの取り組みでは、福井県の伝統工芸「越前漆器」とアーティストでプロスケーターの「マークゴンザレス」とコラボレーション。B級品とみなされていた合鹿椀(ごうろくわん)と重箱に、マークゴンザレスのグラフィックをプリントし”S級品”に生まれ変わりました。


<焼物と植物の可能性を探求していくプロジェクト「PASANIA」>

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昨年12月より販売開始した「PASANIA」シリーズは、商品化されなかった「そばちょこ」と産廃物とされる「ハマ」に付加価値を加え、マルヒロオンラインストア・直営店限定で販売。

キュートに生まれ変わったおかげで、第一弾・第二弾とも完売となるほどの人気ぶりでした!今後も継続していく予定です。


<ゲストハウスのインテリアに。「gate」>

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「ボシ」と呼ばれる窯道具を鉢植えとして再利用し、風合いのあるおしゃれなインテリアに生まれ変わりました。長崎・宝町にあるゲストハウス「gate」さんで使用して頂いています。

近年、窯の老朽化に伴い、新型の窯が次々と設置されています。長年使用されてきたボシ達は新型の窯では不必要なため、その多くが廃棄される道を辿っています。

窯の中で繰り返し焼かれているため、独特の風合いのある表情がお楽しみいただけます。

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コーディエライト製(耐熱衝撃性に優れた結晶質のセラミックス)のボシは水はけがよく、植物の栽培に適していると言われています。


<「B品」をカスタマイズ!メルカリと踏み出した循環型社会への一歩>

焼き物の生産過程で出る廃材やB品を所持しているマルヒロと、それらを使って新しい価値を生み出したいメルカリが協働で行ったプロジェクトです。

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サラフチにて活動の様子をレポートしています。ぜひご覧くださいませ!


「B品」「産廃物」の活用方法については、これからも考えていく必要がある課題です。今回紹介した課題のほかにも、焼き物の資源について考えていくべき問題はまだあります。

例えば、1kgの磁器を得るために、約6kgの廃棄物が産出されていること。このことに加えて、資源を得るために山が削られており、いずれ焼き物を作るための資源が枯渇してしまうかもしれないという問題もあります。

「限りある資源をどのように活用していくか」

これからもものづくりを続けていくために、ウラベさんが話してくれたように「責任を持ってものづくりをする」という姿勢が今、必要とされているのではないでしょうか。

少しずつですが私たちマルヒロも未来のものづくりに向けて、動き出していきたいと思います。

edited by : 衞藤


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【ウラベメグミ】
HP:https://www.megumiurabe.com
Instagram:@megumi_urabe

400年続く焼き物の町、長崎県波佐見町を拠点に、有限会社マルヒロが運営するカルチャーメディアです。 波佐見町のひと・こと・長崎についてなど、マルヒロから広がるつながりを、ときにまじめに、ときにゆるくお伝えしていきます。私たちを取り巻く日常を一緒に歩いてみませんか?