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未来のものづくりについて話そう ~働き方編~

前半では、波佐見焼のこれからを考えていく中で重要なテーマになってくる「未来のものづくり」について、製造工程で産廃物とみなされる資源を軸に生地屋さんのウラベメグミさんにお話を伺いました。

後半では、日用食器として愛されている波佐見焼が比較的安価な値段で販売されていることに注目し、「今の波佐見焼の価値は本当に妥当なのか?」ということについて、これからの働き方をウラベさんと一緒に考えてみたいと思います。


「働き方」を考える

衞:前半で「これからは生地屋としてのベースを保ちつつ、自分たちの腑に落ちる方法でしていく」とお話されていました。おそらく「大量生産からの脱却」が1つの大きな目標になると思うのですが、そのほかに変えていきたいことはありますか?

ウ:現在、父が70歳で、今まで頑張ってきてくれたので、少しゆっくりしてもらいたいなと考えています。今後、私と姉が継ぐことを考えると、肉体労働でもある生地屋での働き方について見直す必要があるのではないかと思います。

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生地屋は結構みんな遅くまで働いていたりするのですが、私たちは時間をしっかり決めて働きたい。この仕事は終わりがないので、やろうと思えば夜中までできてしまう。一度始めてしまうとここまで終わらせたいみたいな。

私たちはノルマをしっかり作って、達成したら昼で終わり!とかするときもあります。多分、周りの人たちからは「もうあそこ仕事が終わってる」とか言われていると思うんですよ(笑)

何年か生地屋を経験して、無理すると身体にくることが分かったので、無理しない程度に頑張ることを大切にしています。

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無理しないといけないときはもちろん休み返上でお仕事をするときもありますけど、それ以外はなるべく身体を休ませることも仕事の1つだと思っています。

窯業界の人は、体力仕事のわりに身体のメンテナンスをしていない人が多いのかもしれません。


衞:女性の力で持ち上げることが大変な重たい石膏型を一日に何個も持ち上げたり、焼き物が載った皿板を運んだりと、とにかく力勝負な部分もありますよね。生地屋さんの仕事を見ていると感服せずにはいられません。

重たいものを持つことが多いため、窯業界では「パワースーツ」も密かに注目を浴びていますよね。筋トレや山登りをしたり、日々身体を鍛えている生地屋さんも多く、身体のメンテナンスは仕事をする上でとても重要なポイントになってきますね。

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ウ:昨年は年末に整体師の方を呼んで、仕事納めにみんなでマッサージを受けました。この業界はボーナスをたくさん出すことは難しいので、時間的ボーナスとしておいしいものをみんなで食べたり、そういった時間を作ることを心がけています。月一ランチでは、私の母が作った料理をみんなで食べて、お昼からまた頑張ろう!と気合いを入れたり。

仕事が楽しくなるように頑張ったらご褒美を作って、でもお金も大切なので、時給は下げないで上げる努力をしています。


衞:ウラベ生地は女性が多いですね。

ウ:そうですね。女性ばかりです。今後は若い主婦の方も入れれたらなと思っていて、旅行休みがしっかり取れたり、フレキシブルに働ける環境を目指しています。

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ものの価値

衞:波佐見町全体で考えると生地屋の数は減ってきています。そのことについてどう思われますか?

ウ:生地屋さんが減ることで、大変になってくるのは商社や窯元かもしれません。例えば、生地屋Aにしかない土を使って焼き物を作っている窯元Bがあるとします。生地屋Aが無くなると土も無くなってしまい、窯元Bは生産をどこにも頼めなくなってしまいます。

生地屋さんが減ることよりも、生地屋さんの働き方について変えていった方がいいのではないかなと私は考えています。


衞:確かにそうですね。分業制で作られている波佐見焼は、製造工程がたくさんある。けれどもたくさん工程がある割に、商品として売られている波佐見焼の価格はとても安く、それぞれの工程に価格を振り分けたときに、本当に採算が取れているのか疑問に思うことがあります。

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(波佐見焼にはたくさんの職人さんが関わっています。町のチームワークで、ひとつひとつの商品が生まれています)

衞:「安価」の裏には、とても安い価格で素材を販売している陶土屋さんや生地屋さんがいるということが1つの理由として考えられますね。「陶土屋・生地屋さんに分配されるお金を増やす」ということもこれからの波佐見焼を考えるうえで、とても大切なテーマになってきそうです。

ウ:「生地の単価が安い」と思っている生地屋が多いのですが、結局は生地屋が自分で動かないと変わっていかない。誰かが単価を上げてくれるわけではなく、自分たちで単価を上げる仕組みを考えたり、上げるための努力をしなければ上がらないと思っています。

昔は生地屋がたくさんあったので「あなたのところじゃなくてもいいんですよ」と普通に言われていた時代もあったそうです。今でも、もしかするとそのときの感覚は少し残っているかもしれません。

けれども私たちの世代はその時代を知らないから、若い人がいるところの生地屋では単価をきちんと取れるようになってきているように見えます。

生地屋同士で一緒にご飯を食べたときに、単価の話になったりします。「○○円以下はできない」とかみんなで言い合うんですよ。生地屋同士のそういうコミュニケーションが無いと、単価も上がっていかない。


持続可能なものづくりに向けて

衞:私たち商社も陶土屋や生地屋の単価を高めていく役割を担う必要性を感じています。生地を作るために「人」はもちろん、設備に対する費用も発生していて、「生地の単価」には土以外の部分でもたくさんの費用がかかっていることも考えていかなければいけないですね。

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ウ:生地屋がきちんと数字を打ち出せたら一番いい。土の値段が上がったら、おのずと生地の値段も上がるとか、当たり前の金額をきちんと取れれば問題ないと思います。職人さんの中には数字に苦手な人も多く、昔はどんぶり勘定でやってきていたところはありました。けれど、今はみんな数字を見てちゃんと採算を取れてきているように見えます。


衞:ウラベさんの生地屋としての経験・考えを聞いて、これからの波佐見焼について考えを深めることができました。波佐見町の生地業界の今後の展望をお聞かせください。

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ウ:波佐見焼の生地作りを学びに研修生が6人、日本各地から来ていて、みんな女性です。先ほども話したように、生地屋は肉体労働でもあります。そのため、男性にできることと女性にできることが、町全体でうまく役割として成り立てばいいなと思っています。大きな型を使う焼き物は男性に任せたりという風に。

やはり女性だけで生地屋を成り立たせるということには、限界があるかもしれないと思っていて。前半でもお話ししましたが、生地屋としてのベースは保ちつつ、別のことに挑戦したり、例えば自然に負荷をかけない循環できるものを作ったり、時間はかかるかもしれないけど新しいやり方でやっていけたらと思っています。

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【ウラベメグミ】
HP:https://www.megumiurabe.com
Instagram:@megumi_urabe



400年続く焼き物の町、長崎県波佐見町を拠点に、有限会社マルヒロが運営するカルチャーメディアです。 波佐見町のひと・こと・長崎についてなど、マルヒロから広がるつながりを、ときにまじめに、ときにゆるくお伝えしていきます。私たちを取り巻く日常を一緒に歩いてみませんか?