見出し画像

ターミナルを見て、

眠れない夜なので好きな映画の話を書きたい。

私は映画が大好きだ。でもそれと同じように小説も好きだし漫画も好きだしなんならAVだって大好きだ。私と違う人生を端から覗くのが好きだ、というと語弊が生まれてしまいそうだが、私が体験し得ない人生が、もしかしたら体験するかもしれない人生が、作品一つ一つに詰まっていると思うと死ぬまでに沢山の人生を覗いていきたいなと思ってしまう。

その中でも私が人生の中で一番好きなのは、トムハンクス主演、スティーブンスピルバーグ監督の「ターミナル」だ。
初めて見たのは中学生の頃だろうか。 映画好きの伯母に連れて行かれて見たのだが当時は面白さがわからなかった。なんとなく進むストーリー、なんとなく終わったエンディング、そんな風にしか思えなかった。

大人になり改めて見ると「待つ」ことの大切さを教えてくれる映画だと気づいた。

自国の戦争により空港を出られなくなってしまったナボルスキー。言葉も通じない法の隙間に落ちた彼をどうにかして空港から追い出したい管理局のディクソン。いつでも出て行っていい、と彼を諭してもナボルスキーは出ていこうとはしない。
「僕はここで待つ」
そう言って彼は何日も、何日も待つのだ。

半ば空港で暮らすうちにいろんな人に出会って
いく。偶然靴を拾ってから仲良くなっていく美人CA。偏屈な清掃員。入国審査員のお姉さんに恋するレストランで働く青年。お金もなく言葉も通じない世界でナボルスキーは彼らとつながっていく。

そんな日が続いたある日、彼らはナボルスキーが一つのピーナッツ缶を大事に持っていることに気付く。ここからが私の中で好きなシーンだ。

缶を開けるとたくさんのジャズ奏者たちの写真とサイン。「この中にはジャズが入っている」というナボルスキーの言葉の通りだった。

その写真はナボルスキーの父が集めたものだったが、最後のメンバーが揃う前に父親は亡くなってしまった。だから約束したんだと。必ず、最後のサックス奏者、ベニー・ゴルソンのサインを貰ってこの中に入れると。

だから何があっても待つんだ。

一枚一枚写真を広げてこの説明をしていくシーンが大好きで何度も見てしまう。忙しなくいきていく中でこんなにも、緩やかに流れる時があるのだと思いながら。

またこのベニー・ゴルソンは作中に本人が登場し演奏する。そこもまたたまらなく素敵で、洋画ならではの演出だ。

何日も待ち続けたナボルスキーはついに、みんなの協力を得て空港から外に出るチャンスを得る。空港を出る直前、グプタという清掃員の話が入るのだが、そこが涙なしには見られない。
この物語は基本的にはあまり起伏がないが、ここはその中でも最大の盛り上がる場面だと思う。何回見たかわからない私ですら毎回この場面で泣いてしまう。是非ここから先は流れるようにエンディングに向かっていくので自分の目で見てほしい。
そうして帰りのタクシーに乗るナボルスキーを見て、心がじんわり染みていくのを感じて欲しい。

話の中軸を交えながら話したが、個人的にはうまく話ができている映画とは思えない。実話ときいて実話の話も読んだが、そちらの方が悲惨であり深刻であり、どちらかというと辛い話だった。映画の内容は割と駆け足な部分やコメディに寄せすぎてる部分が多く、ナボルスキーの性格もあるのか全体的に明るいお話になっていた。正直、トムハンクス演じるナボルスキーの「クラコウジア!!」(ナボルスキーの母国)は声に出して真似したくなるレベルで大袈裟だ。

しかし登場人物の表情がいい。間違いなくハッピーエンドなところもいい。誰も傷つかないところがいい。しかも見ていて不快になるところがひとつもないのが凄いなと思う。

そうして、約束のためには待つ事も大事だと教えてくれる映画になった。

忙しなく過ぎていく日々の中で、なにかを待つことがあるかもしれない。それは恋人だったり家族だったり、もしかしたら自分自身かもそれない。何分、何時間、何年と待つことがあってもそれは無駄な時間ではない、待つ事も人生なのだから。人生とは、なにかを待ち続けることなのだから。

そう思わせてくれる、私の大切な映画だ。


#映画感想文 #映画 #コラム #感想

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?