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Quicheの予習

【写真】Place Saint-Michel サンミッシェル広場

さてロックダウン下の休日は、家で学校の予習に充てることにします。

冷蔵庫を見てみましょう。

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ホームステイ先で割り当てられている冷蔵庫のスペースは写真中央の一段。
牛乳や卵やチーズはスーパーで買いますが、それ以外は学校から持ち帰った食材でいっぱいです。

授業の戦利品のスモークサーモンがたくさんあったので、木曜日の授業内容である"Quiche Lorraine"の土台と流し生地はそのままに、本当はベーコンを入れるところをスモークサーモンに置き換えて作ることにしました。

「それは"Quiche Lorraine"とは言わないから」とホストファミリーに語気を強めて念を押されます。"Quiche au Saumon Fumé"といったところでしょうか。

土台の"Pâte brisée"+流し生地の"appareil"(流し生地)+具の"Saumon Fumé"という構成です。

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土台とスモークサーモンを並べます。
土台の"Pâte brisée"は先日の"tarte aux pommes"の時と基本同じです。

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牛乳やクリーム、卵などを混ぜた液状の生地を流し込みます。
斑点に見えるのはナツメグです。

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1時間ほど焼き、オーブンから取り出しました。(途中、焼き色が付いたときにリングを外しています。)
ホストファミリーは南仏出身で、油脂にはオリーブオイルを好むので、このキッシュを食べたがりません。"CALORIE!"と叫びながら足早に去っていきました。

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底面です。
土台の焼き色がもう少し欲しいと思いましたが、表面の焼き色やサーモンの感触をみると、これ以上は焼けないなと思い、止めました。
日本にいる間は、決まった焼き時間や分量にばかりこだわっていましたが、こちらの学校では視覚や触感を頼りに、ここだ!というポイントで止めていて、その見分けるポイントを探るのが面白味でもあると感じます。

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金曜の余り、"Légumes à la greque"とともに。(再掲)

さて、"Quiche Lorraine"の予習として、それもどきを作ってみましたが、作業自体はとてもシンプルです。各パートを適切に混ぜ合わせて味付けて焼けばそれらしい形になります。
気になった点は以下の3つに集約されます。
①"Quiche Lorraine"とは何か。
②フィリングの仕上がりはどうあるべきか。
③土台とアパレイユとの構成比。

①"Quiche Lorraine"とは何か。
例により辞書を引きます。
関係ないですが"Q"から始まるフランス語が少ないことに気が付きます。"P"の項目が92ページ、"R"の項目が61ページあるのに対して、"Q"の項目は6ページしかありません。料理本の索引を見ても、Qから始まるのはだいたい"quinoa"くらいです。"quinoa"は植物名ですが、レンズ豆と一緒にサラダになっているのを良く見かけます。

【quiche】 n.f.
Tarte salée en pâte brisée, garnie de lardons et recouverte d'un mélange d'œufs battus et de crème. (Spécialité lorraine.)

"pâte brisée"の塩気のあるタルトであり、ベーコンが入り、流し生地は卵とクリームとされています。そしてロレーヌの特産だと言います。

料理用語専門の辞典にはもう少し細かく書かれています。

【quiche】
Tarte salée en pâte brisée, garnie de lardons mélangés avex des oeufs et de la crème. cette entrée chaude est d'origine lorraine, mais le nom de quiche désigne par extension toutes les tartes salées, au saumon, aux champignons, aux fruits de mer, etc.

ベーコンも良いけど、サーモン、マッシュルーム、シーフードなんかでも良いですねぇ、という補足があります。
家にあるBernard Loiseauのレシピ本には"reblochon"のキッシュが紹介されていましたが、これは間違いなくおいしそうですね。

一応"pâte brisée"も見ておきます。

【pâte brisée】
Pâte faite d'un mélange de beurre et de farine, utilisée en partic. pour les tartes et les croustades.

小麦粉とバターから作られ、タルトの他、クランブルにも使われるようです。多くのレシピは小麦粉に対して50%程のバターが入ります。

だいたい"Quiche"のイメージはつかめてきました。
ただ、なぜロレーヌ特産なのでしょうか。結論としては、一日文献に当たった限りではまだ分かりませんでした。

食べ物を通じて歴史を紐解く"L'HÉRITAGE DE LA CUISINE FRANÇAISE"という本では以下のように書かれています。

Les quiches, dont on dit qu'elles ont vu le jour en lorraine, sont des tartes aux oeufs et au lard telles qu'on les décrivait il y a cinq cents ans dans Le Ménagier de Paris. (Scotto & Hubert-Baré, 1999, p.53)

"Le Ménagier de Paris"という中世フランスの古い本の中で、卵とベーコンのタルトだと説明されているようです。ロレーヌ由来の秘密はこの本にあるかもしれません。こんな古い本がお目にかかれるのかは分かりませんが。

一方で郷土料理専門の辞典"LAROUSSE LA CUISINE DES TERROIRS"という本では以下のように書かれています。

Plat lorrain par exellence, la quiche - mot apparenté à l'alsacien kuchen (gateau) - était à l'origine maigre, c'est-à-dire sans viande, garnie d'une seule migaine, mélange d'œufs et de crème ; elle est déjà citée au XVI siècle et appelée ≪féouse≫ à Nancy. Les recettes se sont modifiées à la Belle Époque : une croûte, feuilletée ou brisée ≪maigre≫ à la quiche. De nos jours, quiche a été emprunté par diverses langues pour désigner une tarte salée "internationale". (LAROUSSE, 2000, p.320)

16世紀にナンシーで"féouse"と呼ばれていたものは、シンプルなもので、肉が無くて卵とクリームのアパレイユを流し込んだものだと言っています。"Le Ménagier de Paris"は14世紀後半の本で、ベーコンが入っているというので変な気がします。
訳し間違えでしょうか。

いずれにせよ、器状の生地に液体を流し込んで焼く点では今と共通しています。今日のオシャレカフェではキッシュにいろいろ入っていますが、原型から具が増えただけと考えるとなんだか安心します。

ちなみにロワール地方について、別の郷土料理本"La cuisine des terroirs"では以下のように書かれています。

En fait la cuisine lorraine, c'est un peu lacuisine d'Alsace, en plus solide, en moins gaie, en moins typique aussi. (Courtine, 1989, p.309)

ロワール料理はアルザス料理と比較して、陽気でなく典型的でもない、と。
がんばれ!キッシュ!

②フィリングの仕上がりはどうあるべきか。
今回のキッシュは薄く焼きましたが、キッシュの形を思い浮かべると、高さがあるものもよく目にします。
高さが出ると卵の入ったアパレイユにはすが入ることがあります。
火を通すこととすを入れないことをどう両立するか。

③土台とアパレイユとの構成比。
②に関連しますが、平べったい形にして"pâte brisée"比を上げるのか、直径を小さく、厚ぼったい形にしてアパレイユ比を上げるのか、によって味の感じ方は変わってきそうです。

こんなところで木曜の授業は②③を意識して授業に臨みます。
他の予習もしなくちゃです...。

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