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病院の中での臨床心理士の役割

病院で働く臨床心理士には、全体を見る視野の広さが必要である。

全体というのは、病院全体でもあるし、社会全体でもある。

精神科医の岡野憲一郎氏は、今後期待される心理士の役割として、今後、精神科病院の中での司令塔的な役割を挙げていた。

現在の精神科病院において医師が担う膨大な役割、ほとんどすべてが医師頼みになっているという問題点を挙げ、その役割の一部を心理士に担ってもらいたいということであった。

「心理的支援」という大きな共通項を持ちながらも、専門性に比較的捉われにくい心理士が、病院の中でリーダーシップをとる。

実際にアメリカではそのような病院がいくつかあり、今後、日本でも心理士がリーダーシップを期待されることがあり得るのではないかということであった。

司令塔として病院全体を眺めながら、足りないところはどこか、向かう方向性はどちらか、ということを意識して動くということ。

たとえば病院の中で必要と考えられる集団療法の企画、立ち上げを担う。

あるいは、社会全体の中で、病院がどのような役割を果たすのかを考えていく。

もし社会に受け皿がないのなら、その受け皿を作っていくことも含めて。

それは、病院内だけでなく、より広い視野で全体を見ていくということ。

広い視野で見ることで、自らの専門性が際立ち、何を行うべきかが明確になる。

病院の中の心理士、福祉の中の心理士、教育の中の心理士、産業の中の心理士…

それぞれ与えられている役割は異なる。

けれど、所属を超えて社会を見るということはどの職場にも共通することだろう。

社会を見ることで、今ここで、何を何のために行うかということが明確になる。


ここからはもう少し近い視点の話に移りたい。

「集団を見ることは心理士の専門性である」というのは誰の言葉だったろう。

集団の力動、集団だから生まれるその他のもの、それらを意識してグループを構成したり、活動を提供したりするのは、心理士の得意分野であるということ。

例えば、集団療法などにおいては、ただグループで何かをやればいいという話ではなく、参加者の個人の特性、集団の相互作用などを考えた上で、どのような活動をどのように提供するかを考える。

心理士が集団を見る専門家であるということ、それは心理士が人間を見る専門家であるというところからつながる。

人間が集まったものが集団であり、社会である。

一人の人間を見ることができて初めて、集団の相互作用や、集団だからこそ生まれるその他のものについても考えることができる。

一人の人間を捉えることが、集団を捉えることにつながる。

それは、自分が所属する集団を捉える能力や、その集団がどのような方向に進むのが良いかという判断力となる。

集団を捉えることが、社会を捉えることにつながる。

それは、社会を捉える能力や、広い視野で物事を考えることができる能力となる。

そのように考えると、心理士が病院の中で司令塔的な役割を担っていくという岡野氏の話が、少し理解できるように思えた。

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