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メンヘラを愛人にするとロクなことがないと思った『お葬式』

【個人的な満足度】

「午前十時の映画祭13」で面白かった順位:4/5
  ストーリー:★★★★★
 キャラクター:★★★★★
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★☆

【作品情報】

   原題:-
  製作年:1984年
  製作国:日本
   配給:ATG
 上映時間:124分
 ジャンル:ヒューマンドラマ、コメディ
元ネタなど:なし

【あらすじ】

井上佗助(山﨑努)と雨宮千鶴子(宮本信子)は俳優夫婦。2人がCMの撮影中、千鶴子の父が亡くなったと連絡が入る。

その夜、夫婦は、子どもたち、マネージャーの里見(財津一郎)と車に分乗し、千鶴子の両親が住む別荘へと向かった。病院に安置されている亡き父と対面した後、侘助は病院の支払いを里見に頼み、20万円を渡すが、費用はわずか4万円足らず。初めて喪主を務めることになった侘助にとって、葬儀は知らないことばかりだった。

手探り状態で準備を進めるも、招かれざる客も来たりで佗助はヒヤヒヤ。果たして、無事に葬儀を終えることができるのだろうか。

【感想】

午前十時の映画祭13」にて。1984年の日本映画。第8回日本アカデミー賞にて、最優秀作品賞をはじめ、4部門受賞。題材が不謹慎であるとメジャー映画会社はどこも配給を断ったそうですが、蓋を開けてみたら異例の大ヒット。こういう誰も予想し得なかったことが起こるのもエンタメの面白いところですね。

<観客の共感度を高める工夫>

本作は日本人であれば誰もが通るであろう葬式という儀式を舞台にしたコメディ寄りのヒューマンドラマです。僕はまだ自分で葬式を仕切ったことはありませんが、過去に何度か参列したことはあります。なので、葬式のなんたるかはわかってはいるものの、裏でどういう準備をしているのかまでは詳しく知りません。ただ、そんな自分からしても、いや、そんな自分だからこそ、初めての葬式でわからないことだらけの中、手探りで準備を進める大人たちのてんやわんやを面白く感じたのかもしれません。

本作では、家族が亡くなってから火葬するまでのフローを映していて、まさにこの映画がそのまま葬式のマニュアルになりそうだなって思うんですけど、たったそれだけの話がここまで面白いと思ったのにはワケがあります。まず、葬式の「あるある」を描き、みんなが思っているであろう疑問を代弁することで、共感度を高めたことですよ。いつ納棺するか、お坊さんへのお布施はいくらか、挨拶はどうするのか、まわりの顔色をうかがいながら無難に決めていこうとする光景は日本人らしくて笑えました。もちろん、大切な家族が亡くなったこと自体は悲しいことですけど、それと葬式の事務的な手続きはまた別の話ですからね。悲しみに暮れているときに何なんだと思いそうですが、結局はやらないと先に進みませんから。でも、何をどうしたらいいのかわからない。誰しもが同じ経験をしたことがあるんじゃないでしょうか。それを軽快なテンポで映像化したら、そりゃヒットするのも頷けます。

でも、僕が一番共感したのは、お坊さんがロールスロイスでやって来たところですね。いやね、僕が小学生低学年ぐらいの頃、父方の祖母の何回忌かのときに来たお坊さん、真っ赤なスポーツカーに乗っていたんですよ。あまりにも衝撃的で今でもハッキリと覚えているんですが、高級車に乗ってくるのはお坊さんあるあるなのかなって(笑)

<何も起きなそうなところに加えるスパイス>

もうひとつは、招かれざる客を描いたことです。佗助の愛人なんですけどね、これがもうメンヘラもいいところで。しれっと葬儀の手伝いに来たかと思いきや、酒を飲んで、暴れて、外に飛び出して、慌てて追いかけていった侘助に「今ここで抱いて」と。葬儀の準備真っ只中ですよ?さすがにそれはないと最初は断る侘助ですが、結局あれよあれよと言う間に(笑)白昼堂々、森の中でハッスルしちゃうところなんか、葬儀という「死」とセックスという「生」の対比が見れて面白いですね。どんなときでも人間腹は減るし、セックスもしたくなる、ただの動物なんだなってのが伝わってきます。愛人を演じた高瀬春奈さんの、あの妙なエロさもまた昭和を感じさせていいんですよねえ。腋毛を処理していなかったのは、まだムダ毛処理みたいなのが当時は一般的ではなかったからでしょうか、、、?(笑)

しかも、ハラハラするのが千鶴子がそれに気づいてるってところなんですよ。明確なシーンはありませんが、あれは絶対気づいてますね。気づいてるけど、あえて何も言わない。何もなかったかのように、普段通りの態度を崩さない。そこがまた、夫のメンツをすぐには潰さない代わりに、何かを企んでいるようで怖かったです。とはいえ、ラストのこの夫婦の画はすごくほっこりするんですけど。こういう人がたくさん集まるところって、思いもよらない人物がいたりするんで、何の脈絡もない人物でも自然に出しやすいってのもあるのかもしれません。これがまたいいスパイスになるんですよね、物語の。

<大御所役者さんの若かりし頃がエモい>

あと、今となっては大御所な出演者の方々の若さにびっくりしました。メインキャストがみんなアラフォーで今の自分とさほど変わらないっていうのが一番エモいですね。「あー、この人たちこの作品に出ているとき、今の自分と同じぐらいなんだ」って。宮本信子さんなんて、昨年『メタモルフォーゼの縁側』(2022)という映画でBLにハマるおばあちゃん役を観ていたので、この映画で自分と同い年であることに衝撃を受けました。また、助監督には、後に『学校の怪談』シリーズなどで監督をされる平山秀幸さんの名前があったことも感慨深かったです。昔の映画って、こうやって今有名な方がまだ駆け出しだったときの姿が観れたり、街並みが懐かしかったり、使用しているデバイスに時代を感じたりと、いろいろノスタルジーに浸れるのも個人的には好きなポイントです。

<そんなわけで>

日本人なら絶対観てほしい映画です、これは。葬式なんて国によって作法が違うでしょうから、日本人にしかこの面白さは伝わらないかもしれませんね。


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