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他愛のない日常が極上のドラマになってる『街の上で』

【個人的な評価】

2021年日本公開映画で面白かった順位:26/78
   ストーリー:★★★★☆
  キャラクター:★★★★★
      映像:★★★☆☆
      音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★★☆☆

【以下の要素が気になれば観てもいいかも】

ラブストーリー
ヒューマンドラマ
浮気
恋バナ
恋愛相談
下北沢

【あらすじ】

下北沢の古着屋で働いている荒川青(あお)。青は基本的にひとりで行動している。たまにライブを見たり、行きつけの古本屋や飲み屋に行ったり。口数は多くもなく、少なくもなく。ただ、生活圏は異常に狭いし、行動範囲も下北沢を出ない。事足りてしまうから。

そんな青の日常生活に、ふと訪れる「自主映画への出演依頼」という非日常。出演することになるまでの流れと、いざ出てみたものの、それで何か変わったのかわからない数日間。また、その過程で青が出会う女性たち。

青は彼女たちとの交流で何を感じるのか。

【感想】

始終、人の恋愛相談を聞いているような感覚の映画でした。人の恋愛相談ってまあ興味ないことが多いんだけど、この映画はそれが妙に心地いいというか、微笑ましいと感じられるからすごいんですよ。

<主人公の魅力が何よりも強い>

この映画が面白い理由。それは、極限にまで精製された共感度の高い主人公がいてこそかなって思います。彼は凡人です。下北沢の古着屋で働き、たまに行きつけのバーに行き、帰って寝て、それで次の日も同じことが続いていきます。

何か夢を追いかけるわけでもなければ、身を焦がすほどの恋に出会いがあるわけでもありません。むしろ、彼女に浮気された挙句、「別れたい」と言われる始末。ヨリは戻したいけど、そのために他の映画であるような「懸命な努力」や「絶えることのない愛」を見せつけることもしません。せいぜい、バーのマスターに愚痴って終わり。どちらかと言えば、ヘタレに近い存在かもしれませんね。

でも、これこそが魅力なんですよ、彼の。ああ、多くの人ってこうかもなって感じますから。こういう物語だと、主人公が目的を達成するために、苦難を乗り越え、その先に勝利や達成が待っているというのが王道ですよね。その過程で主人公が大きく変化・成長するっていうことに、観ている人夢や希望を抱くと思います。自分もそうありたいと。僕もそういう話の方が好きですけど(笑)

<理想と現実>

よくある物語の主人公のように、強く、優しく、努力を惜しまない、そんな姿は誰もが憧れます。でも、現実はどうでしょうか。何かのインタビューで主人公の青を演じた若葉竜也も言っていましたが、人ってそんなに急には変えられないし、変わりません。僕もそうだと思っています。変わりたいと願うだけの人が大多数。残りの変わろうと努力した人たちも、それを完遂する前に辞めてしまう人がほとんどじゃないですかね。そもそも変わろうとすら思っていない人も多いと思いますけど。

今回の主人公だって、結局何か大きく変わったということはなかったと見受けられます。そこに人間らしさがあるんですよ。幻想に近い綺麗事を並べる映画も、それはそれで憧れを抱きますが、この映画は共感を呼ぶことに振り切っているのが面白いところです。

<監督の手腕>

今泉力哉監督の映画のそんなところが、僕は好きなんですよね。男女の恋愛において、「あるある」といった共感を感じられること、「このキャラはきっとこう思っていたんだと思う」と、登場人物の気持ちを身近に感じられることがけっこう多くて。

この方の作品をすべては観たことないです。観たのは、『愛がなんだ』、『アイネクライネナハトムジーク』、『mellow』、『あの頃。』の4作品ですね。そのうち、最初の2作品に近い雰囲気かなと思います、今回の映画は。ものすごくドラマチックでロマンチックっていうわけじゃないんですけど、男女の距離感や考え方の違いなどを描くのがとてもうまいんですよ。悩める男女のあれやこれやを描かせたら、今一番共感を呼べる作品を作れる方なんじゃないでしょうか。どうやったら、あそこまで描き切れるんでしょう。人をよく観察するだけでなく、一歩踏み込んでその心理を読み込む力があるがゆえ、、、?いやー、いい意味で悔しいですね(笑)

さらに、今回の映画では、コメディかと思うほどにキャラクターのやり取りが笑えるのも特徴的です。セリフの掛け合いや"間"の使い方が絶妙で。また、一見バラバラに見えた登場人物たちが、意外なところでつながっているという設定は、現実でもあり得るリアルさがありますよねー。

<僕が一番好きだったところ>

この映画で個人的に一番いいなと思えたのは、青とイハ(中田青渚)のやり取りです。ワンシーンが10分~20分ぐらいあって、ちょっと長いんですけど、セリフっていうのを忘れるぐらい、2人の自然すぎるトークがよかったんです。お互いの恋愛話をグダグダ話してるだけなんですが、「友達のまま恋愛関係になれたらいいのに」みたいな話に、強く同意しました(笑)

まあでもやっぱり、若葉竜也の演技が一番よかったかな。全編を通じて見せるぎこちなさや素朴な感じに親しみを感じました。演技力があってこそ成せる業ですよね。


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