見出し画像

権力を手にした人間の末路がまさかすぎて笑ってしまうけど、全体的にわかりづらい部分が多かった『TAR/ター』

【個人的な満足度】

2023年日本公開映画で面白かった順位:52/70
  ストーリー:★★★☆☆
 キャラクター:★★★★★
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★☆

【作品情報】

   原題:Tar
  製作年:2022年
  製作国:アメリカ
   配給:ギャガ
 上映時間:158分
 ジャンル:ヒューマンドラマ、音楽
元ネタなど:なし

【あらすじ】

ドイツの有名オーケストラで、女性として初めて首席指揮者に任命されたリディア・ター(ケイト・ブランシェット)。指揮者としてだけでなく、作曲者としても才能を発揮し、さらに自伝の出版も控えているという、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだ。

天才的能力と類い稀なプロデュース力で、誰もが自分に従う王国に君臨する彼女だったが、このところ新曲の生みの苦しみに頭を痛めていた。同時に、マーラーの交響曲第5番のリハーサルも始まるものの、ターの要求する水準が高く、自身が思う演奏になかなかたどり着かないことにも焦りを感じていた。

そんな中、かつて彼女が指導した若手指揮者の訃報が入る。ある疑惑をかけられたターは次第に追い詰められていき、心の闇が少しずつ広がっていく―。

【感想】

絶大な権力を持った指揮者ターを演じたケイト・ブランシェットの演技に圧倒されました。ちょっとホラーみたいな雰囲気があって緊張感を持って観れる映画ですね。

<素直に面白いと言いづらい要因が……?>

この映画、何でも自分の思い通りにできる指揮者の栄枯盛衰を描いた話で、面白いっちゃ面白いんですが、正直、個人的には素直にそう思いづらい部分があることを感じました。いくつか理由はあるんですが、まず前半がすごく退屈なんですよね(笑)冒頭のインタビューやら、学校での生徒とのバッハに対するトークやら、クラシックの素養がないとピンときません。それが淡々と進んでいくので、ちょっとでも気を緩めたら睡魔にやられてしまいそうで。。。(笑)唯一の救いっていうと言い方がよくないかもしれませんが、演奏シーンが必要最低限だったのは助かったと言えるでしょう。もしこれでフルでクラシックを流されたら、、、こりゃもう夢への誘いかって(笑)逆にクラシックが好きな人なら、これらの部分も楽しめるかもしれません。

また、人物名がセリフの中にやたら出てくるんですが、顔と名前が一致してないうちにバンバン出してくるので、マジで誰が誰だかって感じなんですよね。中には、亡くなった若手指揮者や過去の音楽家の名前など、劇中に登場しない人の名前も飛び交うので、ちょっと頭の中で整理が必要する必要がありました。

<権力の裏にある苦悩>

でも、ターの人物描写はよかったです。クラシック界において圧倒的なポジションを手に入れ、悠々自適かと思いきや、創作の苦悩に苛まれ、いいことばかりでもないんですよね。その創作の苦悩の部分の表現が秀逸なんですよ。とにかく、"音"に敏感になっているのがよく伝わってきます。インターホンの音や、冷蔵庫の音、ジョギング中に聞こえた悲鳴など(その悲鳴が何だったのかは謎ですが)。常に"音"を意識する立場にあるからこそ、身のまわりのあらゆる"音"が気になって仕方ないっていう、それほどプレッシャーになってるってことですよね。これはもう常人にはなかなか理解し得ないところではありますが、日常生活に支障が出てしまうっていうところで、才能ある人の苦しみを一般人にもわかるレベルに落とし込んでいる演出がいいなって思いました。だから、その"音"をよりよく聴くために、映画館で観るのに向いていると思いますよ。

あと、洋画らしく、同性愛者っていう設定がごく自然に入ってるのも特徴ですね。ケイト・ブランシェットでその設定だと、『キャロル』(2016)を思い出しますけど。

<放置気味だった気になる点>

ただ、気になるところも多くてモヤモヤするポイントもあるんですよ。ターの仕事場となっていた家ってけっこう広くてオシャレなんですが、隣人の生活レベルが低くて、家賃どうなってんの?とか。ターが熱を上げていたオルガ(ソフィー・カウアー)はどこに住んでいたの?とか。ターの助手だったフランチェスカ(ノエミ・メルラン)はその後どうなったの?とか。ターが過去に行ったハラスメントは事実だったの?とか。一瞬、この物語が全部幻っていうオチじゃないよね?と疑いたくなるぐらいには、ターの視点のみで話が進んでいくので、他に判断材料がないんですよね。なんか、いろいろ匂わせておいて放置っていうことが多かった印象でした。からの、あのラストはまさかすぎてびっくりしましたけど(笑)

<そんなわけで>

これはケイト・ブランシェットの演技を目に焼きつけるための映画だと思いましたね。ケイト・ブランシェットのあの威圧感、あの美しさは唯一無二なので、それだけでも一見の価値はあるかと。とはいえ、油断すると前半で夢の世界に旅立ってしまうかもしれないので、ちょっと気合入れて行った方がいいかもしれません(笑)


この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?