金曜日の随筆:村上春樹作品との思い出
また運命を動かしていく金曜日がやって来ました。2020年のWK24です。新型コロナウイルス対応に心を奪われていてすっかり忘れていましたが、毎年6月は暑さと湿度に悩まされる梅雨の季節です。
今、村上春樹を求める気持ち
note投稿の601回目、日本に本帰国して16年目に突入、横浜に住んで11年目に突入、と新しいステージに入るのを契機に輝く未来を妄想しつつ、しっかり踏み出していきます。(無理矢理感はありますが…)
そのスタートには、人生のステージ、ステージで不思議な縁がある、村上春樹作品の思い出と私見を書きたいと思います。
作家、村上春樹
村上春樹氏は現在最も有名な日本人小説家と言っても過言ではありません。1979年に『風の歌を聴け』でデビューされてから40年以上、第一線の小説家として著作活動を続けておられます。長編小説だけではなく、短編小説や翻訳、随筆、紀行文など幅広い著作があります。
村上作品を支持し、敬愛する熱烈なファンは世界中にいます。熱狂的なファンのことを「ハルキスト」と呼んだりします。(御本人は軽薄な印象の「ハルキスト」ではなく、「村上主義者」という呼び名を提唱されています)
一方で、「作品が肌に合わない」と批判的な人も一定数います。また、文壇とは距離を置き、あまり表に出ない姿勢を批判する声もあります。賛否両論・毀誉褒貶があるのは人気作家の宿命なのでしょう。
村上作品との邂逅
村上作品との出会いは、私が大学に入学した1987年。初めて手にした作品は、二作目の『1973年のピンボール』でした。この作品との邂逅は偶然ながら、私の人生の必然であった気もしています。大袈裟に言えば「出会うべき運命だった」ように思います。
私は大学生になったのを契機に「本を大量に読む人間になろう」と決意し、ジャンルを問わず自己流で片っ端から本を読み始めました。40年以上前の私のこの決断は手放しで褒めてあげたい心から誇れるものです。
最初は、読書慣れしていないので、長時間活字を追うのは苦行でした。継続できたのは、中身を精読することを目指さず、読破した本で自室の本棚が埋まっていく快感をゲーム感覚で楽しめたからだと思います。結局1987年は年間300冊以上の本を読破したと思います。
お金がないので高価な本はそうそう買えません。難解な本を読みこなす基礎体力も知識も不足しています。なので読書修行の最初の頃は、分量が少なくて、平易で、短期間で読み終えられそうな本を見繕って読み進めました。質より量を重視する時期でした。講談社文庫から出ていた『1973年のピンボール』はそんな私のニーズにぴったりな作品でした。
不思議なストーリーだと思いました。でも、とにかく読み易いと感じました。よくわからない気分に襲われつつも、結構興奮して一気に読み終えた気がします。村上作品には、「文章は平易で、物語が難解」という評価がありますが、まさにそのような感想を持ちました。
その翌日にはデビュー作の『風の歌を聴け』にも手をのばし、その数週後には『羊をめぐる冒険』も読破しました。スコット・F・フィッツジェラルドの短編集『マイ・ロスト・シティー』含め1987年時点で文庫化されていた村上作品を次々と読んでいきました。
1987年は大ベストセラー作品『ノルウェイの森』が発売され、村上春樹人気が爆発した年です。ただ、この時に『ノルウェイの森』には手を出しませんでした。単行本上下巻を購入する気持ちになれなかったのと、余りにも騒がれ過ぎていて流れに迎合したくない思いからでした。
節目節目で村上作品と交わる
私の価値観が、村上作品から強烈な影響を受けているとは思いません。ある時期、集中的に付き合い、数年間疎遠な時期があって、また読み返す… そんな繰り返しでここまできました。不思議と私の人生の転換点に引き寄せられるように再会しているイメージがあります。
何かのきっかけで作品を読み始めると集中的に読むものの、私の中でブームが去ると距離ができる。好きな作家だけれども、常に最新情報をチェックして新作を待ち侘びるような濃いファンではありません。自己評価すると、「薄い村上主義者」というところでしょうか。
『騎士団長殺し』(2017年)はまだ読んでいません。代表的かつ重要な作品である『ねじまき鳥クロニクル』(1994年)、『アンダーグラウンド』(1995年)『海辺のカフカ』(2002年)、『アフターダーク』(2004年)も読んでいません。長編小説は腰を据えて付き合う必要があることがわかっているので手を出すのに覚悟がいります。
翻訳や紀行文、エッセイは、緊張感なく気楽に付き合えるので好きです。旅のお伴に持参することも多いです。
『村上春樹全作品』の思い出
大学4年生だった1990年から、数年かけて講談社『村上春樹全作品 1979~1989』というシリーズが発売されました。これは無理して新刊が出るたびに購入していました。
『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』『ノルウェイの森』『ダンス・ダンス・ダンス』はこのシリーズで読みました。大学4年生後半は、モラトリアムを謳歌していて時間がたっぷりあったので、一時期は下宿に籠って昼夜読んでいました。あの時間は贅沢でした。
村上作品を読んでいると、「今、自分は贅沢な時間、有意義な時間の使い方をしているなあ」という気持ちになります。
村上作品再び
現在はモラトリアム期間ということもあって、村上作品との交流機会が復活しています。最近出たばかりの『猫を棄てる』も近所の書店が営業再開した日に購入して読みましたし、昨日も終日『村上さんのところ』を読んで過ごしました。村上作品を欲する時は虫の知らせで、何か大きな変化が起こる予兆でもあります。自分自身に大いに期待していま