見出し画像

『単騎の人』がやって来る

本日は、2021/8/8に公示予定の横浜市長選挙への立候補を表明した、田中康夫氏についての私見のまとめです。2021/7/8に行った出馬表明会見の動画を観たり、ご自身の発信などを通して、私が感じている「この人、『単騎の人』なのかなあ……」という印象を記します。私は、田中氏とは面識が無いので、あくまで外から見ているイメージです。

面白くなってきたなあ

不謹慎な言い方ですが、正直な気持ちです。2021/6/26にnote記事を書いて以降、立候補を表明する人が相次いでいます。健康面を不安視される現職の林文子氏や、衆議院議員の三原じゅん子氏の立候補も噂されています。

横浜市は菅首相のお膝元でもあり、この後実施される第48回衆議院議員の前哨戦としても注目です。

田中康夫氏とは?

その中でも一番驚いたのは、田中康夫氏(1956/4/12-)の立候補表明です。

田中氏は、一橋大学在学中の1980年に発表した処女小説『なんとなくクリスタル』が文藝賞を受賞して話題になり、一躍人気作家となります。その後、2000年に生まれ故郷である長野県の知事選挙に出馬して当選し、政治家活動に入ります。Wikipediaや自身のサイトによると、以降の経歴は、以下となっています。

● 2002年、長野県議会の知事不信任決議可決で失職 ➡ 選挙で再選
● 2006年、3選を目指した長野県知事選、落選
● 2007年、第21回参議院議員選挙比例区、新党日本から立候補、当選
● 2009年、第45回衆議院議員総選挙兵庫8区、新党日本から立候補、当選(参議院議員は自動失職)
● 2012年、第46回衆議院議員総選挙兵庫8区、新党日本から立候補、落選
● 2016年、第24回参議院議員選挙東京都選挙区、おおさか維新の会公認で立候補、落選

私個人は、作家・田中康夫の印象が強く、初期の代表作『なんとなくクリスタル』『ブリリアントな午後』には思い入れがあります。田舎育ちの20歳そこそこの若者には、都会のアーバン生活への微かな憧れをそそるのに十分な話でした。

作品は「こましゃくれた感」に溢れていました。読者や世間を小馬鹿にしたような文体、登場人物の無責任で軽薄な言動・行動の数々には退廃的な香りを感じ、「こんなんありなんや……」と複雑な気持ちを抱きました。

創る・護る・救う

横浜市長選挙への出馬表明会見で、田中氏は『創る・護る・救う』という基本方針を説明されていました。小説家/ことばのプロだけに、事象を的確なことばで説明する能力は巧みです。私は今の横浜市の現状に求められている要素をうまく言い当てているな、と思いました。

今回の出馬は、ご自身にとっても大きな挑戦だろうと思います。田中氏は、同じ一橋大学の先輩で、在学中に小説家デビューしてベストセラー作家、政治家へ転身、と似た経歴を持つ石原慎太郎氏(1932/9/30-)との関係性を指摘されることがあります。政治信条や手法は随分と違います。ただ、東京都知事で辣腕を奮った石原氏のイメージを、自分への追い風として利用したい意図はありそうな気がします。

らしいな、象徴的だな、と思ったのは、質疑応答の最後で、帰納法と演繹法の話をした時の「自分の手法は帰納法的である」という下りでした。「俺は基本方針やルールを定める(あるいは創れと命令する)人であり、従う人じゃない」という強い自負を示したものと理解しました。

『単騎の人』

軽くではありますが、田中氏の過去からの政治的主張の変遷や関心を持っておられるであろう問題についての意見もさらってみました。

感じたのは「私は常に自分が正しいと思うことをする」という態度です。この人に、政治思想の理論を当てはめて類推したり、イメージでわかりやすいレッテルを貼るのは無意味です。わかりやすい保守でも、リベラルでもありません。陳腐な表現ながら、「ロマンチックなリアリスト」という感じでしょうか。

知名度も影響力もあり、アイデアマンです。問題意識も深く学ぼうという姿勢もあり、よく勉強もされている。ビジョンにおいても、実務能力においても、弁論においても、オールマイティに強い有能な人でしょう。権力を持ったら、政策実現に向けて、強引かつ狡猾に腕力を奮う勇気もありそうです。

「常に正しいことをする」人は、耐えず変化する人でもあります。信頼に値するのは、寄って立つイデオロギーではなく、変化し続ける現実、そしてそれを感じ取りながら進化し続ける有能な私、という発想になりそうです。強い政策を打ちたければ、権力の正当性を必要とします。根っこの所で独裁制と相性のよい政治手法だろうと思います。

それ故に、自分の意見や信念が変わったり、理想の実現の為には、立場も付き合う人も簡単に一掃できてしまう軽さと強さがあるように見えます。側近や仲間の思いや苦労を切り捨てることに躊躇いがない。側近や親しい人からすると、特定の案件で共闘したり、一時仕えるリーダーとしてならいいけど、生涯の師、全幅の信頼を置く大将として遇するには一抹の不安を感じるタイプではないでしょうか。

以上のような思いで、『単騎の人』と言語化しました。

田中氏は、自己顕示欲は人一倍でも、いつまでも権力に君臨し続けようという執着心が強い人ではない気がします。権力を持つことの重み、怖さ、不自由さも知る人でしょう。人心が自分に向かわないと悟ったら潔く身を引く淡白さも併せ持つタイプかな、と想像します。横浜市の空気感と相性は悪くなさそうです。風の時代の一時期を任せるには、ふさわしいリーダーかもしれません。

サポートして頂けると大変励みになります。自分の綴る文章が少しでも読んでいただける方の日々の潤いになれば嬉しいです。