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私の好きだった曲④:愛していたい

本日は『私の好きだった曲』シリーズの第四弾です。ハート『愛していたい All I Want To Do Is Make Love To You』について当時の思いを綴ります。

バンド絶頂期の大ヒット曲

この曲は、ロックバンド、ハート(Heart)が1990年に発売した通算10作目のスタジオ録音アルバム『ブリゲイド Brigade』に収録されています。

アルバムからのファーストシングルとしてリリースされ、ビルボードTop100シングルチャートでは最高2位を記録し、ハート唯一のゴールドディスクを獲得しています。

原曲は、デフ・レパードのプロデューサーとして知られるロバート・ジョン・”マット”・ランジ(Robert John "Mutt" Lange 1948/11/11)が1970年代に書いたもので、1979年にドビー・グレイ(Dobie Gray 1940/7/26-2011/11/6)が歌っています。このハートのバージョンでは、曲の世界観や歌詞は原曲からほぼ一新されています。

ハートとは

ハートの活動の歴史は古く、母体になったバンド、アーミーは1960年代後半に結成されています。1972年にハートに改名し、1976年に『ドリームボート・アニー Dreamboat Annie』でデビューします。

バンドの二枚看板は、ハスキーヴォイスでパワフルなボーカルのアン(Ann Wilson 1950/6/19-)とスタイリッシュなギターのナンシー(Nancy Wilson 1954/3/16-)のウィルソン姉妹。既に往年の輝きは失われたものの、かつてはロック界きっての『美人姉妹』として知られた傑物です。

1979年頃から、ハートは完全にこの二人が主導するバンドユニットとなりました。元々はレッド・ツェッペリンを彷彿させる重厚で骨太なロックン・ロールサウンドを売りにしていましたが、1980年代に転機が訪れます。

プロデューサーに敏腕ヒットメーカー、ロン・ネヴィソン(Ron Nevison)を据え、当時の売れっ子ソングライターたちを起用する作戦に出ます。路線変更は功を奏し、キャッチーでグラマラスなロックに変身した8作目のアルバム『Heart』(1985)は、全米1位を記録する大成功を収めます。続く9作目の『Bad Animals』(1987)も大ヒットし、一気にスターダムへと駆け上がっていきます。2013年にはロックの殿堂入りも果たしています。

もっとも、この成功によって、ハートは「産業ロックの代表格」のような存在になってしまいます。姉妹は、その評価と露骨に商業主義的なネヴィソンの音作りに密かな不満を抱いていたという話もあります。

好きだったけど、そう言いヅラかった曲

私は、この曲をラジオかMTVかで最初に聴いた時から気に入りました。レンタルで借りたCDをAXIAのHighクロームテープにダビングし、神戸の下宿で、この曲だけをヘビーローテーションで聴いていました。

ただ、私は音楽好きの友人の前で、この曲を好きだと言えませんでした。私の変なプライドと自意識が邪魔をしていたのです。それは、

① ゴリゴリの産業ロックサウンドだし…
② ハートというバンドの評価は微妙だし…
③ 気恥ずかしい英語のタイトルだし…

というものでした。

産業ロックが好きなんだ‥ って思われたくなかった

ロン・ネヴィソンは、「徹底的な売れ線要素を埋め込んで、ヒットソングに仕立て上げる」第一人者で、『産業ロックの職人』ともいうべき存在です。音楽評論家や気骨あるロックファンは、この手の音楽が好きな人々をバカにし、徹底的にクサす傾向があります。(代表が渋谷陽一氏)

楽曲のみならず、ビジュアル面、キャラクター設定なども当時の流行にがっつり寄せていたハートは、『産業ロック界の大御所』的な立ち位置のバンドでした。ハートが好き=ダサい、みたいな空気が当時はあったのです。

水面下で進む”アンチ産業ロック”の風潮は、大きなムーブメントでした。産業ロックの商業主義に反発するように登場してくるのが、ニルヴァーナを代表とするグランジ勢であり、それを熱狂的に支持した若者層がいます。

ロック好きの、「違いのわかる男」を気取りたかった当時の私は、大衆迎合的な薄っぺらいロックファンと思われたくなくて、素直にこの曲を好きと言い出せませんでした。

故意の誤訳タイトル

邦楽タイトルの『愛していたい』は、レコード会社の担当者が苦心して、故意の誤訳を付したものでしょう。当時の日本の空気では、原題通りの『セックスしたかっただけ』では企画が通らなかったと思います。

ボーカルのアンも、この楽曲には含むところがあるらしく、ハート最大のヒット曲であるにもかかわらず、コンサートではまずプレイしない曲だと言われています。

ただ、じっくり聴き込むと、なかなかに切ないストーリーとなっています。プロモーションビデオでは、そのあたりの展開が描かれています。


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