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名言が与えてくれるもの13:老兵は死なず、ただ消え去るのみ

誰しも心に響いた名言を持っていると思います。本日紹介する言葉は、最近になってその意味するところをじっくりと考えるようになりました。第13回は『老兵は死なず、ただ消え去るのみ』です。

ことばの由来

このことばは、アメリカ陸軍元帥、ダグラス・マッカーサー(Douglas McArthur 1880/1/26-1964/4/5)が、1951年4月19日にアメリカ議会で行った別れの演説の締め括りに述べたものです。原文は

 Old soldiers never die; They just fade away 

となります。

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このことば自体は、マッカーサー自身が考えたオリジナルではなく、兵隊歌『Old Soldiers Never Die』に出てくるフレーズ「老兵は死なず、単に消え去るのみ(Old soldiers never die, they simply fade away)」からの引用です。

.. but I still remember the refrain of one of the most popular barrack ballads of that day which proclaimed most proudly that "old soldiers never die; they just fade away." And like the old soldier of that ballad, I now close my military career and just fade away, an old soldier who tried to do his duty as God gave him the light to see that duty.
しかし、当時兵営で最も人気が高かったバラードの一節を今でも覚えています。それは誇り高く、こう歌い上げています。「老兵は死なず。ただ消え去るのみ」と。そしてこのバラードの老兵のように、私もいま、私の軍歴を閉じ、消え去ります。神が光で照らしてくれた任務を果たそうとした1人の老兵として。 -Wikipediaから引用 

演説時のマッカーサーの置かれた立場

日本でも、政治家やスポーツ選手が引退時に好んでこの言葉を使います。最近では、大蔵大臣や自民党総裁を歴任した谷垣禎一氏が、政界引退の会見で引用していたのを覚えています。

マッカーサーの引退は、実際には更迭人事だったようです。朝鮮戦争に続いて中華人民共和国・ソ連との対決姿勢を崩さず、独断専行の言動・行動の目立っていたマッカーサーを危険視したトルーマン大統領(Harry S. Truman 1884/5/8-1972/12/26)が、排除を決断したと言われます。

米国議会で行われたこの引退演説は、太平洋戦争を勝利に導いた英雄の一人であり、国民的人気も高かったマッカーサーの名誉に配慮して用意されたという背景があったようです。

マッカーサー自身は、トルーマンとの権力闘争には敗れたものの、この時点では野心を喪っておらず、共和党から次期大統領選へ出馬することを狙っていたと言われています。

そのような微妙な状況の中で発せられたことばなので、『老兵は死なず、ただ消え去るのみ』を高潔な引退表明と受け取るのは無理がある、というのが通説です。マッカーサーの本心は『必ず戻ってくるぜ(I shall return)』であった可能性が高いのです。

背景を抜きにすれば深いことば

上記の複雑な背景は一旦横に置いて、このことばを字義通りに受け取れば、非常に深い共感があります。

かつて名将や名経営者と言われた人が、高齢者になっても地位や権力にしがみついて晩節を汚す姿を見苦しいと思うのは、古今東西共通する感情でしょう。現実に合わなくなった老兵は潔く表舞台から降りて貰いたい、と考えている後継世代は多い筈です。

マッカーサーが引用した兵隊歌には、Old soldiers never die, they simply fade awayに続いて、Young soldiers wish they would(若い兵士は老兵が消え去ることを願う)というフレーズがあるそうです。

私は、過去の功績や経歴を盾に、現段階の実力や能力には見合わないような地位や権力にしがみ続けるのはみっともない、さっさと後進に場所を譲れ、という意見を強く支持します。

老害とは、年齢的な問題だけで起こるものではありません。時代に合わなくなったと自覚した人材は、自らの判断で相応しい後継人材にポジションを任せて、さっさと身を引くべきです。少なくとも私は、そういう潔さを大切にした生き方をしていきたいと思っています。

組織にとって本当に厄介なのは、長くいる人や老いた人ではなく、変化への意欲を持たず、時代のスピードに付いていけず、自分の頭で考えられなくなったのに惰性で居座り続ける人だと思います。

「若い者にはまだまだ任せられない」というのは錯覚で、大抵は自分の方がずれています。その時点で最良最適な人材が、しかるべき地位に就いて組織を率いて活躍するべきです。

ツービート時代のビートたけしは、紳助・竜介の漫才を見て、自らの限界を悟り、島田紳助は、ダウンタウンの漫才を見て、才能の違いによる敗北を認め、漫才の一線からは身を引く決断をしたそうです。

世間的にはまだまだ活躍できている時に、時代の風、自らの限界、追い上げてくる後輩の才能(ビートたけし→島田紳助、島田紳助→松本人志)を直視して、別の道へと転進を図ったエピソードは身につまされます。

もっとも、組織が過去の功労者や貢献者を蔑ろにするのは反対です。長年の貢献への尊敬と感謝の念を表し、相応に報いるべきです。真っ当に勤め上げて組織を去るかつての功労者への敬意を侮ると、世代間の断絶が起こり、ギスギスした世の中になっていくと感じます。

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