見出し画像

毛布#9 『あなたがそれを続けていけるように』

先日、初のインスタライブをコラボで行った。長年の友である、シンガーソングライターの大和田慧ちゃんから電話がかかってきて、今度自宅からの配信ライブで Bill Withers のLean On Meを歌おうと思っているという。英語の歌だけど、今の状況にぴったりだし、きっと歌詞の意味がわかったほうが伝わるだろうから、良かったらコラボしようと誘ってもらった。

前に感動してインスタでも書いた、Lean on Me.

二つ返事で「やる」と答えて、和訳し、それを紙に手書きで書いて、試作品でテストをして、リハーサルと練習をした。

インスタで書いた時に、少しだけ訳していたのだけど、今回は全部訳すことになった。

試行錯誤の末に、超アナログ方式で紙に書いた歌詞を映す、という形になったのだけど、歌詞に向き合い、自分の手で書いてみると、改めてとてもシンプルでストレートな、複雑な背景を背負った歌詞が、骨にそのまま響くようだった。

一箇所、訳に迷う箇所があった。

それは、“I’ll help you to carry on”という部分。そのまま訳すと、継続していく、みたいな意味なのだけど、日本語にするといまいちわかりづらいような気がする。さてどうするかなと悩む。

そんな時に、お世話になっている書店の店主のnoteがいくつか更新され、それを読みに行った。
どれも、苦悩や不安を書いてくれていて、読んでいて身につまされるようだった。私だけではなく、多くの人がその記事を読んで欲しいと書いているのを見た。

Lean on Meの歌詞の訳が完成させている時、頭にあったのはそうした店主の方々や、お店をやっている友人、いろんな人の顔だった。そして、そこには、一度は創作活動をやめなければもうダメかもと思った、数年前の当時の自分も含まれていた。私自身、続けていくこと。いろんな人に助けてもらって、続けることができている。

日本社会全体で、会社が倒産したり、突然解雇されるようになってきている。そんな中で、願うものは、「続けていけるように」だ、とスッとわかり、訳をしているこちら側の焦点というか輪郭が定まるようだった。

二度目に出てくる”I’ll help you to carry on”を、「君が続けていけるように」と訳した。

お店を続けていけるように。思いをもって始めたことを続けていけるように。たとえ一時中断することがあったとしても、形を変えても、やっていけるように。

感情を乗せて訳すというのが良いかどうかはわからないけど、感情がこみ上げてこざるを得ないような、素晴らしい歌詞だった。

誰かの気持ちを乗せたように訳して届ける、それは簡単なことではないけれど、初めて感じた不思議な感覚でもあって、自分もまた刺激される試みだった。

本番は、あれよあれよという間に人が増えていき、一番多い時で400人を超える人が見ていた。晴れた日の夕方、次第に真っ青に染まっていく窓を背景に、コラボは無事に終了した。

手は震えていたし、カメラを切った瞬間バタッと倒れ込むくらい緊張していたけれど、素晴らしい体験だった。

私の部屋は車通りが近く、普段は結構騒音がある場所でそれが心配だったけれど、不思議とライブの間はずっと静かだった。

続けていけるように。形を変えてでも、大事なものが続いていくようにと願う。

Carry onというのは、私の体感としては「なんとかやっていけるように」という感じでもある。

お店をやっていたり、自営をやっている人だけではない。いろんな人が、毎日を続けていけるように。

私のことをかいてみると、驚くほど穏やかに生活している。
寝て、起きて、ちょこまかと動いて、好きに絵を見て描いて(!)、料理して、寝る。
今まで中々できなかった、「生活」をするというのをやっている。
(どうか良い身分だなと怒らないでほしい。)

今は、いろんなものが鮮やかに見える。
夜のベランダに出たりすると、クリアな夜空の小さな星がそれだけで嬉しくなるし、雨が降るだけで、おお降ってきた、となる。
物語のスタートは、案外こういう時に起こっているのではないかな、と感じる。
一見止まっているのだけど、今はキャンバスに下地を塗りこめているような時だ。あるいは、キャンバスが編まれているのだろうと思う。

この、動きのない、静かな時に。
そのうち、目に見える変化は現れ始める。
だから今は、何もしない。何もしないができるのは、稀有なことで、作家にとっては(いまだにこう名乗っていいのかわからないけど)、正直相当エキサイティングなことでもある。

画材を引っ張り出して新しいタッチを試したり、本を読んだり。
それが土壌にせよ、海にせよ。今は基盤が豊かになっていけばいいと思う。


個展延期のお知らせ

最後になりますが、よもぎBOOKSさんで5月29日から予定していた新作イラスト詩集『消えそうな光を抱えて歩き続ける人へ』の刊行記念個展は、コロナ感染拡大防止のために延期することとなりました。

どうするのが最善なのか悩んだ末の決断で、とても残念です。心からぜひお越しくださいと言えるようになった頃、力を蓄えた展示を見ていただけるよう温めておきたいと思います。本も現在進んでいます。楽しみにお待ちいただけたら嬉しいです。


\Bookstore Aid、賛同&応援しています/

“本屋さんを支えたい。ブックストア・エイド(Bookstore AID)基金”

本屋さんは日々の支えであり補給所であり、作家としても本当に本屋さんに育ててもらってきました。少しでも力になるように、というものが積み重なって大きな力になると良いなと思います。

\She is ** #違う場所の同じ日の日記 ** 参加しています/

敬愛する、She is の 『違う場所の同じ日の日記』という企画に参加してます。ちょうど1ヶ月前くらいの日記を寄せています。揺れに揺れて覚束ない毎日でしたが、書き記すことで持ちこたえるような、他ならぬ自分の声を、取るに足らないこととせずにまず聴いてみる、みたいな感覚を久しぶりに感じています。この感覚はとても大事なことだなと思います。特に、周りのすべてが目まぐるしく変わっていくような時には。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?