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はかない男5〜コロナ憎し〜

緊急事態宣言が10都府県に出ている。ひと月の予定がふた月に伸びた。解除の見通しは遠い。島根県には出てはいないが、その影響たるや宣言が出たも同然で、みなおとなしく暮らしている(暮らさざるを得ない)。会食はできず、イベントはできず、遠出はできず、暮らしが一回り小さくなっている。でも宣言は出ていないので補償はない。中小企業、個人事業主など瀕死の状態だ。

ニュースでは逼迫した医療のこと、感染者数のこと、ワクチンのことなどを順繰りに報道してまだまだコロナの話題はおさまらない。その上オリンピックのこと、つい先日起きた宮城・福島地震のこと、社会の問題が外から内から噴き出している。そして/けれどわたしは墓を買わねばならない。わたしが井上陽水さんなら「墓がない」という歌を書くだろう(嘘です嘘です)。

1月下旬、石屋のHさんから電話をもらう。なんと頼んだ墓石が中国から届くのが遅れるそうだ。「三回忌の法要には間に合いません」とのこと。コロナのせいで。コロナのせいで(ショックで二回言いました)。

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      ↑東京タワーにも行ったよね

Hさんは電話越しにひたすら謝っている。中国国内でのコロナの影響で石を運ぶ船の出航が遅れている。入荷の予定がどんどんずれてHさんたちも困っているそうだ。なんという誤算。コロナ禍の余波はこんなところにまで。

諦めきれずHさんに食い下がってみる。「他の店舗から石を借りては?」とか、思いついたことを話してそのたび断られしょんぼり電話を切る。切ってはかけ、切ってはかけを3回繰り返してついに諦める。墓を買ってからここまでの運び、うちの家族にしては異常にスムーズだったから、そろそろなにか起きると思っていた。

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       ↑トトロ風味

いまさら契約を全部キャンセルして、他の石屋さんに変えてみたところでどっちにしろ間に合わないだろうな。そもそも三回忌に間に合わせるために買う決心をしたのに、遅れるならなにもコロナ禍で仕事のない今、大きな買い物しなくてもよかったんじゃないかと複雑な気持ち。

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       ↑クララが立った!@国技館

「お父ちゃんはもう少し、家にいたいんだと思うよ」

妹が唐突に言う。ものは言いようというが、いろんな荒波を乗り越えた人間は気持ちの切り替えが早い。あいわかった。ならぬものはならぬのです。こんなときは、いつものように「はあー、そうきたか」と言ってやりすごすことにする。今回は法要のみ。墓ができ次第の納骨。しかし、憎いぞコロナ。  

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三回忌の法要の朝、町は霧雨に煙っていた。平日だし、コロナ禍でもあるので、家族でひっそりと集う。お寺の本堂には前日に届けておいたお供えやお花がきれいにしつらえてあった。

法要の時間になると方丈(ほうじょう)さんと、息子さんが本堂に入ってこられて読経が始まる。お経を唱えているのは、息子さんのほうだ。方丈さん譲りのいい声でよかった。このお寺も緩やかに代替わりの準備をなさっているのだろう。

いつもならあとについて読むのだが、コロナの関係で声を出さずに黙読でと指示される。「般若心経」から、『正法眼蔵』の修証義へ。

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法要が終わり方丈さんのお話を聞いていたら父を思い出して泣きそうになった。が、ぐっとこらえた。塔婆を見ながら、もうすぐいい墓建ててやるからな、お父ちゃん!と心の中で気合いを入れた。 

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そのあとは妹の家で精進落とし。外で会食はできないのでテイクアウトで買ってきたお弁当を食べる。みんなでひとしきり父の話をして笑う。この一切をいつか甥が仕切るかと思うと心配。葬儀、法要一式の手順、いろんなことの金額とか、わたしがちゃんと書いてマニュアル作っておくから(ふりがなも打っておかねば)。

お天気は下り坂、風も強く冷えてきた。春とは名ばかりで、もし今日が納骨だったら寒がりの父は嫌だったかもと思う(わたしも嫌だ)。もう少しあたたかくなってから納骨しようか。桜の咲く頃がいい。そうだ、桜餅を供えてあげようね。

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           おわり。

*お読みいただきありがとうございました。墓を買ったというだけの話、5週も続けてごめんなさい。何事も早めの準備が大事ですね。しかも、今これを書いている時点で、墓はまだない。墓、ない。わはは。お墓ができたらまた知らせます。では。合掌。

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一週間に一度くらいの頻度で記事をアップできればと思っています。どうぞよろしくお願いします。