見出し画像

JAPAN⇄CANADA 4-8

大会のあったサンパウロからリオデジャネイロに移動して、最後の数日は観光をして過ごしました。リオのホテルは「いいホテル」に部類するもので、ベッドもふかふかで冷蔵庫の中には飲み物、お菓子も置かれてありました(もちろんこれらは食べたり飲んだりすると後で支払う必要があるものなんですが)。


ここからは完全にお遊びモードで時間も有り余っているのでリオの街をグループで歩き回っては気になるお店で買い物をしたり、すぐ近くに位置していたコパカバーナビーチでお酒を飲んだりと、バケーションを思い切り楽しみました。数日間の滞在でしたが、ブラジルの文化にたくさん触れることができました。例えばリオのカーニバル会場に行って実際に使用されている頭飾りを被ってみたり、それこそサンバのディナーパフォーマンスを見に行ったりと南米特有の陽気な雰囲気を味わいました。1番記憶に残っているのはなんといってもキリスト像です。信仰心があるわけではないのですが、ベタな観光地に出向いて実際に目の前で見るのは写真よりもやっぱりよくて、人生でそう何度も行こうと思わないであろう場所での経験は本当に貴重でこのマーチングバンドに所属してよかったなと思える瞬間でもありました。


最終日のディナーはみんな少しおしゃれしてゆっくり楽しみました。今年度のこのメンバーはツアーのあとカナダに戻って解散となります。そして次のシーズンまた所属する人もいれば、引退や辞める人もいます。毎年楽しい夏の後はほんのり寂しい別れもあります。そんな出会いと別れを繰り返しながらみんなそれぞれに何かを得ることができる。カナダに来て、本当に青春してるな、と自分で感じることができてよかったなと思います。カルガリー空港のゲートを出た時優勝おめでとう!というポスターに出迎えられました。メンバーの名前も書かれてあり、風船や歓声の中到着したので有名なスポーツ選手になった気分でした。


私たちは帰ってきたのですが、楽器は船でブラジルから送っていたので次年度の最初の練習まで楽器演奏ができない状態になりました。楽器を吹かない期間が空くことは心配でしたが、練習できない環境を逆手に取りアルバイトを始めようとと思っていました。が、そんな矢先思いもよらないメールを受けとりました。正確にはツアー中に受け取っていたメールだったのですが、毎日バタバタしていたので読む余裕などなく帰国してようやく目を通すことができました。

「英語の成績が合格規定を満たしておりません。今後サマースクールで成績を上げるアップグレード処置をとっていただく必要があります。可能の場合はお知らせください。またすでにお済みでしたらすぐにご連絡ください。」

内容を見て凍りつきました。なんと合格通知を受け取っていた大学からのものでした。そう、高校の単位を取ってはいたものの点数が足りていなかったのです。マーチング漬けだった私にサマースクールに通っていた時間などありませんでした。うかつでした。まさかと思いすぐに大学にメールを送ると次の日返信が届きました。

「残念ながら新たな成績が証明不可ということで今回の合格は取りやめという形を取らせていただきます。冬学期、または新年度のアプリケーション時にまた申請してください。お待ちしております。」

久しぶりに悲しい涙を流しました。あんなに夏の間中嬉し泣きをし、大団円で締めくくった夏だったのにここにきてまるで高層ビルの屋上から突き落とされたようでした。そのままの勢いでまみーにメールを見せて話をしました。だでぃーは出張かなんかでいなかった記憶があります。まみーと話してだでぃーには帰ってきてから伝えることにしました。かなり落ち込んでしまい、その日1日はぼーっとしていました。ただこのままではまずいと思い次の日には元々考えていたアルバイトの募集情報を探して連絡を取りました。さらに英語の授業をもう1回受けるためにコミュニティスクールの申し込みをしました。


ありがたいことにバイト先も応募した日本食レストランにランチのサーバーとしての採用がすぐ決まり、コミュニティスクールの授業登録もあっという間に終わることができました。上級レベルの英語で単位がギリギリだったので今回は普通レベルを受講することにしました。普通レベルの単位でも進学を希望していた大学は申請が可能だったので安全策を取ることにしました。受講形態も様々あったのですが、私はオンラインで授業を進める方法をとりました。スクールの建物が市の南にあり、北に住んでいた私は行くのにかなり時間がかかるし勿体ないと感じたのでした。実はカナダではこうしてコミュニティスクールで単位を取り直したり、足りない単位を取って大学に進学する人は少なくありませんでした。さらに「ギャップイヤー」といって高校卒業後、1年空けて大学に進学するケースも珍しくないのです。英語で躓いたのは本当に悔しかったのですが起きてしまったことは仕方ありません。かくして私は不本意ながらも1年間、学生兼フリーターとして過ごすことになったのでした。


それ以来、私はメールを見るのがとても怖くなりました。また嫌な内容のものが来たらどうしようと毎日緊張しながら受信ボックスを確認していました。そんなに嫌なら確認しなければいいのにと思うかもしれませんが、私には見なければいけないメールが来る予定になっていました。それはマーチングバンドのリーダーの決定の知らせです。クラリネットパートのリーダーに名乗りを挙げていたので確認しなければなりません。そしてついにその日がやってきました。ドキドキで開き上から目を通していきました。まずは大役ドラムメジャー、木管のセクションリーダー、フルートのパートリーダーと続きその下にクラリネットのパートリーダーが書かれてありました。心臓が飛び出るほど緊張していたのですが、名前を見て一安心しました。そこには私の名前が書かれてあったのです。なれたのは嬉しかったけれど、それで終わりではありません。ここからがスタートです。8月後半に行われたリーダーシップチーム(各リーダー達をまとめた総称)のミーティングという名のワークショップに参加して、リーダーたる者はなんなのかみんなでディスカッションを行いました。今まで学級委員や、それこそ高校でパートリーダーなどもやったことのあった私ですが、「リーダー」ということをついてそこまで深く考えたことがなかったのでとても面白いワークショップでした。大学のことで落ち込んでいたけれど、前向きになれたいい機会でした。


ただここで終わらなかったのがこの年の夏休みでした。また酷く落ち込む事件が待ち受けていたのです。これまた所属していたマーチングバンドが開催したワークショップだったのですが、今度のはセラピーというかマインドセットについてでした。メンバー15人くらい、スタッフ1人と、このトピックに特化したゲストの方でワークショップは行われました。最初は特に何もなく事が進んでいたのですが問題が起きたのは後半です。ゲストで来ていた方がマインドの持ち方について話を始めました。


「努力すれば必ず報われる。苦しい時も前を向いて努力すればいい。すると必ず結果はついてくる。結果がついてこない人は努力をしていない人だ。きっと何かが足りないから報われないし、結果もない。例えば勉強だってそう。学校での勉強も努力すれば先の道は切り開かれる。努力しないでただ学校に行くだけの生活をしている人は高確率で道を外す。そう言う人をたくさん見てきた。だから苦しい時もあるかもしれないけど努力することを忘れないでほしい。」


そうその人は言いました。普通のありきたりな内容なのですが、この言葉が当時の私にとっては棘でした。その棘が心に刺さり苦しくなり涙が止まらなくなりました。苦しい涙でした。私は日本からカナダに来て、一生懸命に勉強もついていこうと努力したし、結果もそれなりに出てたと思っていたし大学に行けなかったのもきっと休みが必要だったのだろうと捉えるように切り替えたのに、私はここまで苦しんで頑張ったのにまだ努力が足りなかったのか?私は何をどう努力すればよかったのか?結果ががついてきてない、報われもしてない私は悪い人なのか?もう負の連鎖です。喋る事ができないくらいに泣き出してしまいました。


その様子を見て隣にいたメンバーは私の背中をさすってくれました。ゲストの人も私を見てもう大丈夫だよ、と言いました。多分周りのみんなもゲストの方も私の涙を、違う真逆の意味で捉えたみたいでした。みんな私はその人の言葉で安心して認められたことに涙したと思ったようです。ゲストの人がなにか話したいことはある?と聞いてきましたが私は口を開きたくありませんでした。その人と話すのも嫌でした。早く時間が過ぎて欲しくてたまりませんでした。ワークショップが終わった時には私はもう限界でした。みんな立ち上がってお互いにハグしたり話したりしていたのを横目に急いでその部屋から出て迎えにきてくれていたまみーの車に乗り込んで早く帰ってほしいと言いました。


様子が違う私を心配したまみーは一部始終を聞いた後、スタッフの方に連絡を入れてくれたようです。ゲストの人が私と話したい、植え付けてしまったしこりを取りたいと持ち出したのですが、私は話すことなんてないし顔も見たくないと断りました。ゲストの人は本当に申し訳ないと思ったのか直接は言えないけどごめんなさいと言っていたと後日スタッフの方がまみーに連絡を入れました。私の心はもう限界でした。こんなに苦しいことを一気に与えないで、とどこに向けることもできない怒りが残った夏休みになってしまいました。

-つづく-

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?