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JAPAN⇄CANADA 3-10(2)

予選はそこまで重要視していませんでした。なぜならそれだけ自信があったからです。過去のバンドの成績で考えると予選通過は当たり前なのです。実際予選の日の記憶があまりないです。1番記憶に残っていることといえば、外に出た時に黒の長袖ユニフォームがやたら暑く感じたことくらいです。みんな暑い暑いと不満を漏らしていました。私も流石に暑くて汗がいっぱい出ました。


スタッフも予選よりも次の日の決勝を意識してきて、予選の時の点数が何点かさえ知らされませんでした。私たちの目標はあくまでも決勝で95点以上を取ることでした。前年度の大会(私が観客席からみたショー)でショーバンドは94.9というなんとも惜しい点数を出したのですが、それ以来何としても95を超えたい!という強い思いがあり、1年目の私でさえもそう思うようになっていました。


次の日、いよいよ決勝を迎えました。緊張はしていたけれどいい緊張感で目覚めも割とスッキリしていたのを覚えています。今まで通りに練習着に着替えて朝支度をした後練習場に向かいました。でも心のどこかでこれが最後なんだ、という覚悟と寂しさがありました。いつも私のことを気にかけてくえていた先輩メンバーはこの日を持って正式に引退するのです。もう一緒に色んなことが出来ないと考えると込み上げるものがあります。そんな思いを少しだけ押し殺しながら最終練習を行いました。あまり体力を使いすぎると行けないので早々に切り上げて準備にかかりました。お昼ご飯を食べているとき、ふとテナーサックスのパートリーダーがなにやら話かけてきました。

「五円ってグッドラックって意味って聞いたけどほんと?」

一瞬なんでそんなことを聞いたのか頭にはてなが出たけれど、あまり気にせずに

「そう、五円は縁って言葉に丁寧な意味の御がついた『ご縁』と同じ言い方するからグッドラックっていう意味になるんだ」

と説明をしました。

私の言葉に安心したのか、パートリーダーはありがとと言葉を残し他のパートリーダー達のところへ行きました。


そうしているうちに本番の準備をする時間がやってきたので、私は髪の毛を結いユニフォームに着替えて楽器を持ち最後の音出しに向かおうとしました。その時今度はパートリーダー達全員が木管メンバーに話しかけるためにあっちに行ったりこっちに行ったりしていました。何してるんだろうと思った時、私が準備していたスペースにもやってきました。

「五円玉をみんなでドックダグにつけるからある人はつけて、ない人は教えて」

とリーダー達は言いました。


その時私はなるほどと納得しました。ドックタグとは木管メンバーだけが持っていたネックレスのことです。読んで字のごとく飼い犬の首輪に住所なんかを書いて付けるタグのような形をしていて、私たちのものには表にカルガリースタンピードのロゴ裏にはバンドに所属した年度が刻まれているものです。パートリーダー達は各々持っているネックレスに五円玉をチャームとして身につけようという考えでした。大会で無事に力が発揮できますように。みんながしっかりやりきっていい結果がついてきますように。そういう思いで木管メンバーは1人残らず五円玉をドックタグのネックレスに付けました。


前日と同じように隊列を組み幕張メッセの裏口から中に入り自分たちの番を待ちました。前の団体が演奏しているのを聞いてドキドキしていたのですが、その時バンドの副代表が何やらスマホを持ってメンバーの間をぬっていました。何してるんだ?と思ったらある音楽が耳に入ってきました。それは、この夏休憩中に必ず流していた曲でした。耳にタコができるほど聴いて嫌気がさしていた曲だったのですが、そんなものがまさか本番前の緊張をほぐしてくれるとは想像もしていませんでした。この曲を聞いて笑いがでておかげでリラックスした状態で入場することができました。


マーチングを通して気づいたことは反復練習の重要性です。料理だったり勉強だったり、何をするにしても繰り返しすることで意識的にしていたことがいつやら無意識になるのです。癖が無意識に出るのは良し悪しがありますが、一生懸命取り組んだことが無意識に出来るようになるのはある意味「進化」じゃないでしょうか?そうやって進化を続けて人は何倍にも何十倍にも成長できるのかもしれません。たとえ反復練習の内容が小さいことであったとしても、立派な進化だと思うのです。これはイラストを描く時にもよく感じることです。



本番は瞬きのごとく終わりました。最後のポーズでまたも涙が溢れた私は最後の退場まで気持ちを抑えようと必死でした。他のメンバーの様子が気になり少し目を向けたのですが、そこにはまた私と同じように必死に涙を堪えている姿がありました。一緒に堪えて退場したあとみんなで涙と感動と達成感を分かち合いました。


退場してから結果発表まで少し時間があったので待機していたら、私の名前をしかも日本語で発している声がしました。見るとそこには幼稚園からの幼なじみのお母さんが立っていました。(地域がら、私には多分幼馴染が50人くらいいます)実は私が大会に出ることを宣伝していたのですが、その幼なじみのお母さんが反応してくれていて、チケットを購入して見に来てくださっていたのでした。日本にカナダから日本人がやってきてカナダで始めたことを応援してくれている、この環境に感謝しかありませんでした。


結果発表はドキドキでした。名前は存じ上げないのですが、誰しもが聞いたことのあるイベントなどにいつもいらっしゃる男性司会者の声を聞きながら今か今かと待っていました。


正確な言葉は覚えていませんが、「優勝」と7カルガリースタンピードショーバンド」という二単語が耳に入ってきました。


スタッフからは常にクールでいるように言われていたので声も上げず体勢もじっとしたままではありましたが、頭の中は花火がバンバン打ち上がっていました。私達が優勝したのです。今まで賞を頂いたことはありましたが、こんなにも嬉しい賞はありません。日本にいた頃、吹奏楽の権力図の底辺から空を見上げていたのに今は私がその空にいるんだとふと思いました。日本に居たら絶対になし得なかった偉業です。2年前の同じ日、部活の先輩の引退式があり私は来年これができないのかもと涙しました。1年前の同じ日、ありがたいことに部活の定期演奏会に演者として参加させてもらえてただ楽しければいいと思いクラリネットを笑顔で吹いていました。そしてこの年、生涯で1度しかないかもしれない貴重な賞を頂きました。私の人生曲がりくねっているけれど、でもちゃんと進みたい方向を向いていると実感しました。


ただ1つだけ悔しかったのは95点じゃなかったのです。実は前年度と同じ点数の94.9しか取れませんでし。嬉しい反面残念な気持ちがありました。そしてこの95点は私がまた大会に出たときに絶対に達成してやる!と強く心に刻みました。


ツアーから帰ってきて1週間ばかり経ってからシーズン終了のパーティーと表彰式がありました。久しぶりに顔を合わせて、この年のバンドの最後の時間をみんなと一緒に過ごしました。表彰式はまず最初に賞を受け取る人のことについてのスピーチが盾を渡すスタッフからあり、最後に名前を発表するという仕組みでした。初めての体験だったので雰囲気を素直に楽しんでいたのですが、木管1年目最優秀賞の発表の時空気が変わりました。


「この子は始め一言も喋らずに練習に来ていました。ただただ一生懸命取り組んでいました。しかし時間の経過とともに話すようになり、みんなと関わりを持つようになりさらに成長していきました。この1年で成長した人は他にいないです。」


こうスタッフはスピーチで言いました。みんなが私のことを笑顔で見ます。そして気付くのでした。


「木管1年目最優秀賞は…、まりぃです!」


急に涙が止まらなくなりました。まさか自分が賞を取れるなんて思いもしなかったし、こんな賞があることもこの日まで知らなかったのでびっくりしました。そしてとても光栄に思えました。9月には辞めたいとさえ思ったのに賞をもらうことができたのです。辞めずに続けてよかったと心から思いました。


辞めることが悪いとは思わないし言わないけれど、辞めるときに後悔しないかどうかが重要なんじゃないかなと思います。9月の頃の私がバンドに踏みとどまった理由はきっと後悔すると思ったからです。カナダに来た時も、嫌かもしれないけれど大切な10代を棒に振ることはしたくないと思えたから日本に夏休みの間行きたいことを両親に伝えられたし、現に実現できました。私の人生の行動基準は後悔するかどうかで判断しています。それは今もこれからもきっと変わらないでしょう。


こうしてカナダ生活2年目が経ち、いよいよ高校も最後の1年を迎えることになるのでした。


-つづく-

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イラストレーター。イラストレーターズ通信会員(https://illustrators.jp/)。 メイキングを含むイラストレーションのあれこれや カナダでの生活経験を投稿しています。 イラストを掲載している場所→https://www.mariekennedy77.com

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