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#6.まっしろ

 澄み切った青空。きらきらと日差しを反射する黄緑色のちいさなモミジ達。紅葉にはまだ少し早い。大きな石と小さな石で大昔に作られたであろう階段。登っていくとすこし息が上がる。目の前に現れたのは、どっしりと構えた大木。樹齢何年だろう。とても威厳を感じる。でも、どことなくあたたかい。歓迎してくれているような優しさを感じられるのは晴れた日差しのなかにいるからだろうか。思わず顔がほころぶ。ここはやっぱり心地よい。

 全国的に有名な学問の神様。その裏手の山の登山道入り口にある神社。敷地や建物の規模だけでみると小さな神社だ。古くからある神社だけれど、数年前に改修されてからは建物が綺麗になっただけではなく、お守りを置いてある建物などは近代的でおしゃれな佇まいに変貌を遂げている。鎮守の森の懐かしい癒しの力と、どきどきするような洗練された空間が同居している。私はこの神社が大好きだ。

 ここは縁結びにご利益があるとされている。「神頼みなんて自分で出来ることをまずやってからにしなさい」とか「無意味。甘え。逃げ。」とか頭の中で声がする。認めざるを得ない部分もある。認めたうえで、それでも神様にすがりたい気持ちもある。ただ、今回はそれだけではない。お礼を伝えたくてここに来た。”つねに心が晴れ晴れとして、穏やかで安心に包まれた毎日を過ごせますように”と祈願されたお守り。晴れますようにと、てるてる坊主の形をしたかわいらしいお守りだ。すぐに心を乱しやすい私は前職についたとき、ロッカーのカギに付けて持ち歩いていた。罰当たりなことかもしれない。埃だらけになる職場だったので手は真っ黒。その手で持つのでお守りも黒くよごれていった。でも、それでもお守りは私を守ってくれたのかもしれない。入社当初、毎日多大なストレスを感じて、泣いてしまう日すらあったのに、いつの間にかひとつふたつとハードルをクリアし、仕事内容も人間関係も笑って済ませられるほど心晴れ晴れとした毎日に変わっていた。ただの「慣れ」かもしれない。「努力」の賜物なのかもしれない。でも、”それだけ!”だと誰が証明できる?このお守りが守ってくれたことだってあるかもしれない。それならやっぱり「ありがとうございました」と、伝えたい。

 そんなことを想いながら、石段の一番上まで到達。休日だからか以前来た時よりも人が多い気がする。観光客・登山客・参拝客・・・のなかにフォーマルな服装の人たち。この空間では見た事がない。違和感。なんだろなぁと思いながらも次の瞬間には忘れていて、御手水で手を清めて、いざ本殿へ。本殿の中に人がたくさん。(お祓いかな?それとも少し早めの七五三??今、お参りしてもいいのかな。。。)不安を感じながらよく覗いてみると、明らかにそこだけ澄み切っている”まっしろ”を見つけた。

白無垢。

そう、結婚式だった。心臓がどくんと大きな音をたてた。たくさんの音色が混ざった複雑な音だった。なぜ白無垢はあんなに透き通って見えるのだろう。ただの白ではない。どんな白よりも綺麗で高貴で手に触れることさえ憚られるような、そんなまっしろ。見ているだけでときめく。憧れ。ただ、今の私はそれだけではもう見られない。私もあれを着たことがある。あの日の気持ちをありありと思い出す。思い出そうとしていなくても勝手に流れ込んでくる。

 緊張していた。でもそれ以上にわくわくしていた。あんなに心穏やかに晴れ晴れしていたのは、人生ではじめてのことだった。リハーサルの時、角隠しが入り口の御簾に当たった。本番は気を付けようと思っていた。それでも結局ぶつけてしまった。思わず二人で笑った。誓いの詞を読み上げるなんてその時知った。教会式みたいに「はい、誓います」だけじゃないなんて。一気に緊張が増した。でも、隣の人のほうが緊張していそうだったから急に和んだ。この人といれば、どんな失敗も微笑ましく思えるような気がした。指輪の交換は珍事だった。ぽっちゃりさんだった新郎の指に「果たしてちゃんとはまるのか。」と、からかっていた新婦、まさか自分の指輪がはまらないなんて予想もしていなくて。「本番ではどれだけ力込めてもいいから絶対にはめてね!」と、半泣きで懇願したのも今となっては懐かしい。

 今、目の前にいるあのまっしろな花嫁は、どんな気持ちなのだろう。そして、この瞬間をどんな思い出として抱きしめて歩いていくのだろう。羨ましい気持ちもあるけれど。こころから祝福したい。そう思った自分に驚いた。たった二年半で夫を亡くしてしまった私が願う幸せなんて不吉かもしれない。余計なお世話かも。関わらないであげたほうがいいのかも。いつもそんなことが頭をよぎる。結婚や出産に関わることは特にそう。私は不吉な存在になってしまったかも。・・・それでも願いたかった。どうかこの二人に末永い幸せを。

 

「ついでに私の今日からの毎日に素敵なご縁をください。」。そう願うのを忘れていたなぁ、と気づいたのは翌日になった今、この記事を書き始めてからだった。仕事のご縁がつながりますようにと糸巻きを模したお守りを手に入れたけど、たくさんの人と出会ってみたいという気持ちも強い。もちろんその中で新たなパートナーも見つかったらいいなぁなんてやっぱり思ってしまっている。

 まっしろ。あの姿を見て、あなたはどんな気持ちになりますか?

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平凡なような、そうでないような35年間を生きてきました。 そしてこれからの人生を変えたいと強く思っています。 「何をしたいのか」「何が好きなのか」 まだそれすらふわふわしてるけど。 見つけるための毎日すらnoteに残していこうと思います。 求められる人になる日を目指して。
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