スタートアップ/新規事業を支援するとはどういうことか - 福岡市の的野浩一氏とお会いして考えたこと-


新規事業に取り組む中で生まれた福岡市への興味

今、自分の仕事で大企業の中に新規事業を生む取り組みのコミュニケーションデザインを担当しています。そんな中で、気になっていたのが福岡市の取り組み。今年の2月に行われたSlush Tokyo 2019参加していたのですが、この光景を見てハッとしました。

たくさんのブースが連なる中で、福岡市はスマートでカッコいいロゴ、ブース、そしてグローバルな雰囲気で際立っていました。後日自分でも調べていて、福岡市がいくつかの面で本当に際立った取り組みをしていることに気づきました。一つは、スタートアップ支援を福岡市の成長戦略の中心に据えて支援をし、確かな結果を出していること。開業率ナンバー1に何度もなっていたり。

もう一つは、福岡市単独の取り組みではなく、グローバルな力を取り込んでいること。国内初のスタートアップビザ発給をスタートさせていたり。

そんな中で、私が今年参加させていただいている「サイバー適塾」の自主合宿で、福岡市のスタートアップ支援をリードされてきた的野浩一さんに直接お話を聞く機会をいただき、行ってきました。

的野さんに聞いてみたいと思っていたことは大きく分けて2つ
1. 困難が多いスタートアップ支援をどうやって続けられる取組みにしたか
2. 新規事業を生むためのコミュニケーションデザイン、ブランディングとはどうあるべきか

当日は、福岡市役所でお話を伺いました。お話を一言一句書き残したいくらいですが、厳選してまとめてみます。

困難が多いスタートアップ支援をどうやって続けられる取組みにしたか

色々とお話いただいた中で、特に印象的だったキーワードをまとめます。

「運というのはサイコロをふった数だけ成功する確率を上げられる。サイコロを何回も振った人のところにこそ幸運は舞い込む」

グローバル連携を模索していた福岡市、台北市との連携を進めようと台湾に赴くものの台北市長へのアポは取れず途方に暮れていたそう。わずかな可能性にかけて翌日帰国するという晩にスタートアップの人が集まるバーを3件はしごしていたところ、台北市長の親友である医師に出会い、それがきっかけで翌朝の台北市長とのアポを獲得、結果台北市との連携を取り付けることができたのだそう。
「その時のことを、『運が良かったんですね』という人も言います。確かに運が味方してくれた部分もありますが、運というのはサイコロをふった数だけ成功する確率を上げられる。サイコロを何回も振った人のところにこそ幸運は舞い込むと確信してます」とおっしゃっていたことが非常に印象的でした。

台北市との連携の証、台北市長からの扁額は、福岡市が民間企業とともに運営するインキュベーション施設Fukuoka Growth Nextに飾られていました

*台湾に行かれた時の話はこの記事にも詳しく書かれています。

失敗しても評価すること、Fail fast, Success fast

スタートアップ・新規事業というのは予測不可能な部分が大きいもの。的野さんもお話の中で「『確実性を重視する大企業や行政』と、『世の中にないものをとにかく早く、低コストで実現しようとするスタートアップ』は全くの別物、両者の間をつなぐには通訳が必要」とおっしゃっていました。わたしがお聞きしたかったのは、行政や大企業がスタートアップ・新規事業に関わる場合によくネックになる、「確実に成功するとは限らない」ことをどうマネージされていたのかということ。
その問いに対しては、「最初はやっぱり失敗するのが怖かったし、大きく急激に成長しなくても、緩やかに右肩あがりであればまあいいか、と思いたい気にもなった。でも、スタートアップの成功の仕方は違うから評価の仕方を変えなければと気づいた。」
一般的にスタートアップの成長の仕方で理想的なのは、しばらく横ばいの後急速に上昇する「ホッケースティックのような形」と言われています。この姿で成長できるのはほんの一握、それ以外は失敗して、また新たな挑戦に向かうことになります。

なので、的野さんはまず評価の方法を変えたそう。
* まずは、自分が理解できなくても承認する
* 失敗しても、何か行動して進んで失敗したのであれば認める
* 怒るのは、何もしていない、何も進んでいない時。

スタートアップの成功と失敗について「Fail fast, Success fast」という言葉があるそうです。とにかく早く挑戦させて、失敗するなら早く失敗させる、そして「 Success Fast」できるスタートアップを生み出すことを意識して支援することが大切、そう話してくださいました。

「たった一人でいいから、理解してもらえる人を創ること」

「どうやってこの取り組みを続けてこれたのか?(もっというと、始められたのか)」これも私がとても聞いてみたかったこと。そもそも、地方都市を盛り上げるために「スタートアップ支援」という戦略を取ることは今でも珍く、当時は福岡市も「観光で盛り上げていく」、という意見が主流だったそう。そんな中で全く新しい「スタートアップ支援」という基軸へ福岡市の方針をブレずに持って行けたのは何故なのか。的野さんがポイントだとおっしゃっていたのは、「たった一人でいいから、理解してもらえる人をつくること」。当時、福岡市の幹部20人ほどに対して、的野さんが一人でスタートアップ支援施策を提言していると、中の一人が「その案いいよね」と言ってくれた。そういう人が一人でもいたことが自分の原動力になり、続けることができた、話してくださいました。

新規事業を支援するブランディングとは

もう一つお話いただいたのは、スタートアップ、新規事業を支援するためのブランディングとはどういうことかについて。こちらも、学ばせていただくことが多くありました。

フェーズごとにターゲットを絞る

ブランド戦略については、活動の初期とその後で意識して戦略を変えたとのこと。初期は、起業する人の裾野を広げること、特に若者の裾野を広げることを考えたブランディングを実施。大きな出来事として、B Dash Campの福岡誘致を上げていらっしゃいました。起業に挑戦する若者のイベント誘致を通じて、自分も挑戦してみようか、というムーブメントを起こすことを意図されたとのこと。2018年のB Dash Campの様子はこちら。

活動が進んでからは、イノベーターをターゲットにした活動にシフトしていっているそうです。

事業を創るためのコミュニケーションデザインの現場では、一般的な事業以上にターゲットが多様になってしまう、というのが私が携わっている実感です。既存事業であればその事業のターゲットユーザー、あるいは購入決定のキーパーソンをターゲティングすれば良いところ、事業づくりの場合はターゲットユーザーに加えて
- 投資家
- スタートアップ・社会課題に興味があるイノベーター層
- 自社の経営幹部(新規事業への挑戦を認めさせてもらうため)
- 自社の潜在イノベーター層(挑戦する人を継続的に生み出すため)
- 他社で同じように新規事業に取り組むライバル
といったところも大事なターゲット層として上がり、優先順位をつけるのが難しくなります。その中で福岡市の取り組みは、思い切ってターゲットを絞り込んでいるところに、興味を惹かれました。今も取り組みごとに重点ターゲットとCTAを意識する、ということは愚直にやってますが、今後もやっていきたいと思います。

発信するためのベースを作ること/主語をYouに変えること

「ベーシックだけど重要なこと」とおっしゃっていたのは「写真をたくさんとっておく」こと。これは普段ソーシャルメディアやブログを運営しながら写真の大切さを痛感している自分にとっても大きく頷けることでした。

また、主語をYouに変える、というのは情報の受け手にとっての受け取り方を考えられるか、ということ。例えば、「福岡市は空港からも近く、自然も多く、美味しい料理もたくさんあります」ではなく、「あなたが福岡に来れば、福岡の中心部に簡単にアクセスでき、自然に触れてリフレッシュできます、夜は美味しい料理を食べていただけます。」という言い方にすることでより伝わりやすくすることは基本的だけど意識しているとおっしゃっていました。

感じたこと

「スタートアップを経営する」のではなく、「スタートアップが活躍できる土壌をつくる」という仕組みづくりにずっと取り組んでこられた的野さんのご経験は、「コミュニケーションデザインという面から新規事業を支援する」という挑戦をしている自分にとって学ばせていただくことばかりでした。実際にお会いして、困難を乗り越え、たくさんの新しいことを実現されてきた迫力を感じることができました。
上にあげた以外で印象だった言葉は「目線を上げるからこそ、仲間が増える」という言葉。自分の成功ではなく、より高いレイヤーの成功を目指すことで共感をうみ、協力してくれる人が増える。的野さんは福岡市を良くしようと思って活動されているのではないと言います。もっと高い視点を持つからこそ、国、省庁始め色んな人が次々に福岡市の活動に協力してくれる、その循環を生み出すことこそがスタートアップを支援することにつながっているのだなと思います。また、「組織を軽く超える」こと。人手不足を嘆きがちですが、組織の外にはいくらでも協力してもらえる仲間を作り得ることも、学んだことの一つです。より高い目標を掲げて仲間を作り、共感してもらうという循環を作る、自分の活動の中でも実践していこうと改めて感じた福岡合宿でした。


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