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侘びと寂びとシャンパーニュ

侘び寂びという言葉は、日本人が大切にする美意識の一つで、静寂の中にも深い情感を秘めた美しさを表現します。時の経過によって生じる風化や、目立たない静けさの中に潜む深遠な美、それは派手さや物質的な価値観とは対極にあります。しかし、この概念をワイン、とくにシャンパーニュと結びつけると、新たな気づきが得られます。

たとえば、先日「ピエール トリシェ ブラン ド ノワール」を抜栓し、枯山水をイメージしたイノベーティブ・フュージョンのコースを楽しんだとき、シャンパーニュを通じて『侘び寂び』の精神に触れる瞬間がありました。ピエール トリシェのブラン ド ノワールは、繊細でありながら力強く、控えめでありながらも豊かで複雑な味わいを持つシャンパーニュです。この複雑さこそ、侘び寂びの静かな深みに共鳴します。シャンパーニュの繊細でいつまでも続く泡の様子は、まるで枯山水の砂紋のように静かでありながら、時間が緩やかに進む感覚をおぼえました。

コース料理は、日本庭園をテーマにした一連の創作料理で、儚さとともに感じられる永遠の美しさを表現していました。シャンパーニュの熟成による奥深い香りは、悠久の歴史と自然の営みが積み重なってできた庭園の石や苔が、長い年月を経て磨かれていく姿と重なり合い、その体験はまさに侘び寂びの象徴といえるものです。

侘び寂びは、不完全なものや欠けたものに美を見出す精神ですが、ピエール トリシェのシャンパーニュもまた、華やかさを前面に押し出すのではなく、控えめでありながらも精緻なバランスと調和を体現しています。シャンパーニュの透明感と奥深い旨味、時間とともに変わりゆく香りのグラデーションは、日本の四季の移ろいを楽しむかのような繊細さを感じさせます。シャンパーニュと侘び寂び、一見異なる文化の中に生まれたふたつの概念ですが、その本質にある美のとらえ方は共通しているようです。

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