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女性の心理描写がうまい~『少年と犬』(馳星周)~

第163回直木賞作品です。受賞時にラジオで取り上げられていたのを聴いて興味を持ったのですが、読むのがだいぶ遅くなりました。

↑kindle版


最初にお断りしておきますが、この作品は感想を書く上で、どうしてもネタバレ気味になるのは避けられません(もちろん、結末は書きませんが)。ですから予備知識なしでお読みになりたい方は、以下の部分はお読みにならないことをお勧めします。


これは私にとって初めての馳星周作品です。まず思ったのが、文章のうまさ。するすると読むことができます。ただし、少し「~た。」が多すぎですが。


東日本大震災で飼い主を失った犬(多聞)が、飼い主と同じか、それ以上に好きだった少年を求めて西へ向かう話です。多聞が各地で出会う人間たちが各章の主人公を務める、連作短編の形を取っています。


多聞と出会った人々は、それぞれ問題を抱えているものの、多聞と過ごす短い日々の間に心が救われます。こう書くとハートウォーミングな感じですが、最終的に彼らを待つ運命は、正直過酷です。


感心したのは、女性の心理描写のうまさ。男性が書く女性という感じがせず、とても自然です。身勝手な男性に振り回される女性の苛立ちの描写が、特に秀逸。


物語の展開上必要なので仕方がないのですが、多聞と出会った人々がそれぞれ、多聞が目指す方角に気づくのは、ちょっと違和感があります。日常生活において、いちいち「あっちは南」「あっちは西」って、少なくとも私は意識しませんけど。


物語全体の最後の結末は、意見が分かれるところだと思います。あれで良い気もしますが、別の形にしてほしかった気もします。でも作者は、この結末がベストだと判断したのでしょう。そもそも発表の順からいうと、最終章の「少年と犬」が最初に書かれ、多聞の旅の過程を埋めるために他の章が書かれた形のようですし。


見出し画像には、話が仙台からスタートするので、伊達政宗公騎馬像を使わせていただきました。


↑ハードカバー


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