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阿部智里は小野不由美を超えられるか~『玉依姫 八咫烏シリーズ』(阿部智里)~

*この記事は、2020年4月のブログの記事を再構成したものです。


八咫烏シリーズの5巻目です。

↑kindle版


1巻目から着実に力をつけ、私の中でも評価の上がっていた阿部智里ですが、評価についてはちょっと足踏みです。

いや、もちろん下がりはしないのですが、既視感を感じてしまうので。


この巻は現代日本の話で、一見八咫烏シリーズとは無関係の始まり方です。でもすぐに、その関係が明らかになります。


そう、この「一見それまでのファンタジー世界とは無関係の、現代日本の話」という点に既視感を感じるわけです。小野不由美の「十二国記シリーズ」ですね。


更にもう一点、既視感を覚えることがあります。「十二国記シリーズ」では現代日本の話である『魔性の子』が一番初めに書かれ、その時点で後に展開される「十二国記」の世界の構想が小野不由美の中にあったことが驚異的でした。

そしてこの『玉依姫』も、阿部智里が高校生の時に描いた作品をリライトしたもので、つまりはその時点で「八咫烏シリーズ」の構想、少なくともその原点があったわけで、そういう意味で小野不由美的すごさを感じます。


でもなぁ、どうも世界の厚みが違うんだよな……。


いや、頑張っているとは思います。単なるエピソードゼロ的話ではなく、思春期の子と保護者の葛藤をはじめ、いろいろなテーマが盛り込まれ、これ単独でも読ませる作品ではある。でも盛り込みすぎた結果、それぞれのテーマの掘り方が浅い気がします。


阿部智里は、小野不由美を超えられるか。少なくとも、小野不由美に匹敵する作家になれるか……。それはこれまでに見せてきた驚異的ともいえる成長力を、阿部智里が維持できるかにかかっていると思います。


↑文庫版



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