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読んだ本

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読んだ本の感想です。基本、ネタバレはありません。
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#読書感想文

読んで良かったが……~『椿ノ恋文』(小川糸)~

「ツバキ文具店」シリーズの第3作です。 読み始めてすぐ、「あぁ、こういう世界だったなぁ」と懐かしくなりました。鳩子はすっかりお母さんになっています。 本当に、その通りですよね。 懐かしくなったと言いつつ、どうも最初は波に乗れませんでした。結婚したら案外ミツローさんがふわふわした性格だったことが分かったこととか、QPちゃんが反抗期に突入、お隣さんは騒音に敏感、といった、鳩子を取り巻く様々な問題に、中途半端な現実味を感じたからです。そのくせ、下の子どもたちの「年子だけど同学

読ませる力はある~『Blue』(川野芽生)~

第170回(2024上半期)芥川賞候補作の1つのです。 ↑kindle版 文化祭でオリジナル脚本の「人魚姫」を演じようとする高校生の演劇部員4人と、脚本を書いた友人の話です。主人公の真砂の生き方と人魚姫のあり方とがリンクし、物語が展開されていきます。冒頭でまず、内容が頭に入って来ず、混乱しました。3度くらい読み返した末、諦めて読み進めたら、「どこまでト書き?」という水無瀬のツッコミがあり、安心しました。わざと、あまりうまくない書き出しにしていたのね。 自分の性に違和感を

お仕事百景~『おつとめ<仕事>時代小説傑作選』(細谷正充編)~

「仕事」をキーワードにした時代小説のアンソロジーです。 ・「ひのえうまの女」(永井紗耶子) 主人公の利久(りく)は丙午の日の生まれなため(ということにされている)、気が強く、それが災いして縁談が破談になり、大奥に行くことになります。まぁ破談になって良かったような縁談ですが。 大奥を描いた時代劇や時代小説にあまり触れてこなかったので、これらのことは初耳でした。ちなみに「汚れた方」というのは、御手付き中臈のこと。 これも初耳でしたが、祐筆は代書の仕事もしていたということで

宇江佐真理の「紫陽花」が良い~『吉原花魁』(縄田一男・編)~

*この記事は2019年6月のブログの記事を再掲したものです。 以前ご紹介した吉原遊郭跡の街歩きツアーでは、案内人の方が経営されているカストリ書房さんで使える、500円分のチケットを頂けます。 何にしようか迷ったものの、時代小説のアンソロジー集である『吉原花魁』にしました。街歩きをしたので、背景とかが理解しやすいかと思ったのですが、まさにその通りでした。隆慶一郎の「張りの吉原」という作品から始まるのですが、これを筆頭にどの作品でも、吉原とその周辺に生きる男女の張りが描かれて

導入としては悪くない~『15歳の少女が見た紛争地「パレスチナ」の未来』(Connection of the Children)~

2024年1月23日付の『東京新聞』朝刊の横浜神奈川欄で紹介されていて興味を持ち、読んでみました。 中学を卒業したばかりの女の子のパレスチナ訪問記ということで、かなり期待していたのですが、残念ながら、期待したレベルには達していませんでした。もちろん、「15歳の少女」こと浅沼貴子さんは悪くありません。彼女は5日間の滞在から多くのものを吸収し、いろいろ考えたことを自分の言葉で率直に記しています。 まず良くないのは、地図です。使っている地図がほぼすべて転載された英語のもので、せ

自分を理解するのに役立った~『【HSPチェックリスト付き】鈍感な世界に生きる 敏感な人たち(心理療法士イルセ・サンのセラピー・シリーズ)』(イルセ・サン著、枇谷玲子訳)~

アマゾンのPrime Readingを利用して読んだ7冊目にあたります。生徒をはじめ、周囲にHSP的な人が増えているなーと思い、読んでみました。なおこの記事は、読み終わってから数ヶ月経ってから書いております(^-^; ↑kindle版 冒頭の「HSPチェックリスト」をやって、驚きました。60以上でHSPである可能性があるのですが、私は88点でした。「数字が大きければ大きいほど、敏感」(p.7)ということでなので、私自身がHSPの可能性ありですね。まぁ最大の数字は140とい

この世に自分に関係のないことはない~勝手に応援!「ビッグイシュー日本版」(VOL.474 2024.3.1)~

「ビッグイシュー日本版」を勝手に応援する記事、第77弾です。そもそも「ビッグイシュー日本版とは何か」をご説明した第1弾は、以下をご覧ください。 今号のスペシャル企画は「ふくしまの13年」です。 福島の人たちのメンタルダメージは、想像以上なのだと、改めて認識しました。能登半島地震でも、1.5次避難や2次避難が話題となっていますが、それ自体はもちろん必要なものではあるものの、避難者の方々の受けるダメージが心配です。 なお「蟻塚さん」とは、相馬市の精神科医の蟻塚亮二さんのことで

「知らなかった」では許されない~『ガザとは何か パレスチナを知るための緊急講義』(岡真理)~

同僚に紹介されて読んだ本です。 ↑kindle版 2023年10月20日の京都大学での講演と、10月23日の早稲田大学での講演を収録したもので、当然ながら内容に重複があります。でも2度語られるからこそ、事態の深刻さが心に染みてきます。 「はじめに」にあった、現在のガザについての報道は「出来事を報道しながら、その報道によってむしろ真実を歪曲、隠蔽するという、エドワード・サイードが『カヴァリング・イスラーム』と呼んで批判した『イスラーム報道』の典型」(p.4)という指摘に、

長編のほうがうまい~『いつまで』(畠中恵)~

畠中恵の「しゃばけ」シリーズ第22弾です。 ↑kindle版 今回はいつもの連作短編ではなく長編で、何と若だんなが5年後の世界に飛ばされてしまう話。やはり畠中さんは、長編のほうがうまいと思います。とはいえ結末の、なぜ若だんなが5年後の世界に飛ばされたかの謎が分かり、元の世界を目指そうとする部分は、ちょっと時間軸など、おかしい部分・都合がよすぎる部分がありますが。畠中さんは、ちょっと物語の結末が上手じゃない時がありますね。 今回騒動を引き起こすのは、己の不運を嘆き、人の幸

歴史家は警告者~『遺跡発掘師は笑わない キリストの土偶』(桑原水菜)~

「遺跡発掘師は笑わない」シリーズの第18弾です。今回の舞台は青森です。 ↑kindle版 読み始めてじきに「おお」と思わされたのが、無量の言葉。 あのやさぐれていた無量が、こんなことを言うようになるとは、と感慨にふけらされると共に、同感だなぁと思わされました。 これ、認識していませんでした。福島県や愛知県など、他の県でもこういう構造って、見られますよね。現在の自治体の区分なんて、しょせんお役所の都合ということです。 さすがに発掘を宝探しだとは思っていませんが、データ

仏教が目指すのは~『梅原猛の授業 仏になろう』(梅原猛)~

図書館の返却された本のコーナーでたまたま目につき、読んでみました。 朝日カルチャーセンター京都での講義をまとめたもので、「仏教徒は結局、『仏になる』ことだ」(p.11、以下ページ数は単行本のもの)という観点に最初は驚いたものの、読みすすめる内に納得がいきました。 以下、印象に残った箇所を備忘録代わりにまとめます。 なお二種廻向の注釈も引用しておきます。 これらはいずれも初耳でした。特に乙訓寺の像は、ぜひ見てみたいです。 ひどいことをやりますね。 なるほど。 これ

部屋の中も自然の一部~勝手に応援!「ビッグイシュー日本版」(VOL.473 2024.2.15)~

「ビッグイシュー日本版」を勝手に応援する記事、第76弾です。そもそも「ビッグイシュー日本版とは何か」をご説明した第1弾は、以下をご覧ください。 今号のスペシャル企画は「生きもの道、生きものの巣」です。 プロ・ナチュラリストの佐々木洋さんが紹介する、人と共に生きる動物たちの姿に、まずびっくり。 記事の最後の佐々木さんの言葉にも、考えさせられました。 鈴木まもるさんの記事に出てきた、南アフリカやナミビアで、「シェアハウスのような巨大な巣で数百羽が暮らす」(p.12)シャカ

結局、窮地に立たされるのは~勝手に応援!「ビッグイシュー日本版」(VOL.472 2024.2.1)~

「ビッグイシュー日本版」を勝手に応援する記事、第75弾です。そもそも「ビッグイシュー日本版とは何か」をご説明した第1弾は、以下をご覧ください。 今号のスペシャル企画は「マンガで、社会の問題を読む」です。 印象に残ったのが、マンガを研究テーマとするトミヤマユキコさんの言葉。 サヘル・ローズさんへの「スペシャル・インタビュー」も良かったです。 ここのところ、NHKの「サウジアラビア千夜一夜~サヘル・ローズ メッカへの旅~」に「ワルイコあつまれ」、そしてこの「ビッグイシュー

お寿ずさんなら……~『おやごころ まんまことシリーズ9』(畠中恵)~

畠中恵の「まんまこと」シリーズ第9弾です。 ↑kindle版 持ち込まれる厄介ごとを麻之助が片付けていくのが、シリーズのテーマとはいえ、何だかシリーズを追うごとに、勝手なことを言う登場人物が出てくることが増えており、そこはうんざりします。特に「たのまれごと」のお駒は最悪。友人の夫に、どのタイミングで入荷するか分からないレアな袋物をお願いするなんて、ありえません。「久方ぶりに前々からのお友達に会って、頼み事をされたんで、嬉しかったんです」(p.57)とお和歌は言っていました