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【町内会 顛末記】自治会長というのをやってみた 3

  いやあ、改めて驚いた。これまで会計のAさんからペーパーでもらっていた自治会の会計報告を、エクセルに入力して簡単な関数など入れてみたら、廃品回収やお地蔵さんの賽銭、市からもらえる「文章配布協力金」といった雑収入を除いた完全に純粋な町会費の収入に対して、神社の寄付や募金の類がじつに82%にのぼった(昨年度)。これはもう会社ならとっくに倒産、家庭なら給料のほとんどをギャンブルに使ってしまう父親のようなもので、とても正常の収支とはいえまい。

 昨年度会計で言えば、町会費だけでは当然赤字で、前述の雑収入を加えてかろうじて赤字すれすれにとどまっているという状態。82%のうち前に書いたH神社の寄付だけで54%を占め、他は「D神社奉賛会」、「Y神社奉賛会」、「G神社春祭」といったわりと小額の寄付が並ぶ。また 22%は「消防団出初式祝儀」、「日赤募金」、「共同募金」、「歳末助け合い募金」などが占めている。

 というわけでわが町内会費は(おそらく)はるか古墳時代のむかしから寄付と募金のためだけに存在していたのであった!


 ということを頭に入れていよいよサイキック・バトル、道満か晴明か、 源九郎か義経かと気合を入れて、「夜までに帰らなかったら警察へ」と家族に申し伝 え、うららかな小春日和の城下町を愛車ジオスにまたがって、G神社にいましますH神社氏子総代会長――G神社氏子総代会長、O神社報本講社代表、〇〇町自治会長、市飲食店組合役員等々の肩書きを連ねるN氏の下へ馳せ参じたのであったが、気がつけば境内の緋毛氈の縁台に二人で腰をか け、三笠と共に出された熱いお茶をすすりながら遊郭を含む〇〇町の歴史や自治会の運用、また昭和33年の売春禁止法で遊郭が廃業して以来20年間途絶えていた小唄のお囃子をN氏が再興する話などをあれこれ聞いていたのだった。

 温厚で気さくな、氏神さんを大事にする昔気質の古老であった。加えて偶然だが、このN氏のお孫さんがうちの娘と小学校のときの同級生で、市内で飲食店をしていた息子さんが昨年癌で亡くなった話なども聞き、あのときはわしもつらかったとぽつりと漏らされる場面などもあった。娘もつれあいも、亡くなったお父さんも、美人で愛想の良いお母さんも知っているというと、うれしそうにうなずいた。

G神社

 そんなわけでかれこれ二時間近く話し込んでしまったか。肝心の神社の寄付に対してはわたしの会計説明に、「寄付というものは本来心づけなんだから、町内の事情に沿って、できる範囲でしてくれたらいい」と理解をして下さった。

 一昨年、平成の大修理最終弾と銘打ってわが町内から一世帯あたり3万円の金額(合 計64万円)を町会計から出した別途寄付では、N氏の町内では「自治会長の裁量で、会計と相談し」20万円を町会費から出し、あとは個人の寄付に任せたと いう。神社側はおよその希望金額を言ってくるわけだが、必ずしもそれに満額回答する必要はない。わが町についてはこれまでずっと、残念ながら「言われるがまま」町会費から出していた、ということになる。


 寄付というのは本来、任意のものであるはずだ。神社以外でも前述した22%を占める祝儀や募金の類も、本来なら「金額ありき」ではなく、十円でも百円でもいいわけなのだが、どうもいろいろと調べると自治会というものが体のいい「集金システム」として利用されている実態があるようだ。

 ほんとうは自治会や 班長が集金袋を持って各戸をまわり趣旨説明、同意を得て何がしかの心づけを集めるというのが正しいのだろうが、面倒くさいので金額を決めて町会費から支出する。けれども「任意」であるのだから、総会で満場一致の同意を得なければ厳密にいえば違法だ。

 現に2008年、滋賀県甲賀市希望が丘自治会の住民が各種募金の自治会費上乗せを違法とする最高裁決定(大阪高裁判決2007年8月24日判決・募金などは、個人の自由意思に基づくもので、募金等を自治会費に上乗せして徴収するとした総会議決は無効であるとの判例)も出ている。また共同募金などは、母体となる社会福祉協議会の代表を市長が兼ねているところが多いことのからみもあるらしい。「なぜ、改まらないのかといえば、その要因は、募金の主催団体が自治会を集金組織としか考えていない傲慢さと怠慢にあるか らだと思う」(◆「自治会と寄付金」問題がなかなか改善されないのはなぜか~自治会が共同募金や社協会費を集める根拠がないのに?)

 「消防団出初式祝儀」についても、見なし地方公務員の待遇を受けている消防団にはそもそも必要ない、という意見もある。消防団によっては服務規定に「祝儀の禁止」を明示しているところもある。かれらには年間の手当て、出勤ごとの手当てがきちんと支給されており、訊けば祝儀はかれらの懐へ直接に入って旅行などの代金に使われるのだもと言う。ところによっては「「祝儀の金額が少ない」と言われ更に「火事になっても消さないぞ」」と言われた等の話もあるようだが、町内の会計を疲弊させてまで出さなければいけない出費ではないだろう。

 神社への寄付にしろ、祝儀や募金にしろ、むかしからの習いだから、前年とおなじが無難だろう、の繰り返しが町会費の82%という異常なバランスを支えていた悪しき慣習であったことが伺える。

 というわけで、さっそくエクセルの別シートに「改善後の支出金額」を、収入に対するパーセンテージの関数結果を眺めながら入力していった「修正案」ができた。

 内訳は、最大のY神社寄付は1/3の減額。他の「D神社奉賛会」、「Y神社奉賛会」、「G神社春祭」は小額なので据え置き。「消防団出初式祝儀」は廃止。「日赤募金」、「共同募金」、「歳末助け合い募金」などの募金は半減。

 これで計算上、
1.純粋な町会費に対する寄付・募金全体の割合は82%から29%へ。
2.純粋な町会費に対する薬園八幡神社寄付の割合は54%から17%へ。
3.純粋な町会費に対する祝儀・募金の割合は22%から 6%へ。
4.純粋な町会費から全支出を差し引いた会計がマイナス30%からプラス17%へ変わり、
5.雑収入を含めた全体の収入から全支出を差し引いた会計は8%から42%となる。

 多少の積立金は残すにしても、これで何とか年に一回くらいはみんなで食事をしたり、敬老の日にプレゼントしたり、できるのではないか。


以下の内容で、連載を予定しています。
第一部 【町内会 顛末記】自治会長というのをやってみた
第二部 【町内会 顛末記】町内会を殲滅し廃墟の中から真実の自治組織の出現を待とう


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