【書評】『希望の国のエクソダス』

この本は2000年に発表された村上龍著の小説です。

村上龍は1952年アメリカ海軍の基地である長崎県佐世保市に生まれました。高校時代には学校の屋上をバリケード封鎖して無期謹慎処分になるという破天荒ぶりを発揮していたようです。1976年、アメリカ軍基地の町・福生で麻薬と乱交に明け暮れる若者の姿を描いた『限りなく透明に近いブルー』で第19回群像新人文学賞、第75回芥川龍之介賞を受賞し、デビューしています。2000年、引きこもりの青年が戦争に魅了されていく様を描いた『共生虫』を発表して第36回谷崎潤一郎賞を受賞します。(Wikipediaより引用)

同年に今回紹介する『希望の国のエクソダス』を発表しています。
これは日本社会に希望を見いだせない中学生たちが中学校を捨てインターネットを通じて新たな社会システムを作り挙げていく様を描いた小説です。

冒頭部分、一人の少年の話から始まります。
16歳の少年でパキスタンの国境近くで地雷処理をしている日本人がいるのですが、この少年にCNNの記者が取材をするシーンがあります。

なぜここに君がいるんだ?
日本が恋しくはないか?

日本のことはもう忘れた

忘れた?どうして?

あの国には何もない、もはや死んだ国だ、日本のことを考えることはない

強烈ですよね。でもこれってTwitterとかで言葉の強さは違えど聞く意見ですよね。

そう、この小説は今の日本のリアルな部分を表現しているんですよね。

この本が出版されたのが2000年。20年たった今でも日本の閉塞感が変わらないどころかより増しているように感じる状況です。

さらにインターネットビジネスや仮想通貨に近い概念といった30代の自分にとっては凄く身近な話題が多く、数日で読み終わってしまいました。

このパキスタンの少年に感化された日本の中学生がパキスタンを目指そうとするのですが「大人」たちによって阻止されます。そこから徐々に全国的に中学生の不登校がはじまります。

インターネットを通じで全国の中学生が繋がっていくのですが、特徴的なのが中央主権的でないことです。

この点でも最近話題にあがる”DeFi(分散型金融)”と”DAO(分散自律型組織)”というキーワードが頭に浮かびます。

「ポンちゃん」という象徴的も言えるリーダーのような少年がいるのですが、あくまでも彼らは自律分散しているわけです。

そんな中日本円が投機筋によるアタックを受け、市場がパニックになるというシーンがあります。ここでは日本政府の対策が後手に回ってしまうですが、今の岸田政権の不可解な金融政策が思い浮かびます。

そしてこの小説の有名なシーンであるポンちゃんの国会への参考人招致へと話がうつっていきます。
ここでポンちゃんは

この国にはなんでもある。本当にいろいろなものがあります。だが、希望だけがない。

中学生が何を分かったようなことを、と思う人もいるかもしれません。しかしもし今自分が中学生にこう言われたらなんと答えれるでしょうか。

30年前であれば一流大学に入り、一流企業に入れば明るい未来が待っていると言ってあげれたかもしれません。家族ができ、いい家に住みいい車に乗り幸せになるビジョンを見せれたかもしれませんが、今は少し違うように思います。

そのせいかここ数年で日本でも”FIRE”(経済的自立を達成して早期リタイアすること)という言葉をよく聞くようになりました。

今の仕事から抜け出して、好きなことに時間を使いたい。

閉塞感からの脱却したい、だけどその力もない。

ポンちゃんはそんな日本社会に自分の思う明るい未来に踏み出す「希望」をくれているような気がします。


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