note_恋

恋に溺れ、苦しんだ先に。


叶わない恋だった。

自分なんか、相手にされていないと分かっていた。その人を想い続けても、その先になにもないことは分かっていた。苦しかった。頭ではわかっているのに、気持ちを止められないことが。


でも僕は、その人を最後まで愛することをきめた。自分がぼろぼろになってしまってもいい、ただその人の喜びのために、笑顔のために、ありがとうのために。



ひとつになりたいという願い。

自分の想いに忠実で、不器用で時に周りが見えなくなってしまうほどまっすぐで、何よりも笑顔が素敵な人だった。


その人と同じ職場で働いていたのだけど、誰よりも想いやりがある人だった。変化に気付いてはすぐに動いてくれて、独創的なアイデアを出してくれては いつも職場を明るくしてくれる存在だった。辛いところは決して人に見せず、隠れて誰よりも努力していた。


そんな まっすぐで、天真爛漫な彼女の虜になった。

あれはどんな感覚だっただろうか。彼女の力になりたい、自分を受け入れてほしい みたいなそんな単純なものではなかった。彼女の中で、僕という存在が溶け合い、手を取り合いたい。ひとつになりたい。そんな酔いしれた妄想を巡らせていた。



行き場のない、募る想い

彼女は、僕と会ってくれなかった。


あの手この手で、ご飯やデートの誘いをするが、一向に職場以外で会うことを彼女は拒み続けた。「一緒に働いてるのに、仕事に響いたら嫌じゃん」って。


僕と彼女をつなぐものは、LINEと気まぐれで向こうからかかってくる電話だけだった。仕事の話、愚痴、おいしい食べ物、過去の恋愛、未来の話。たくさんしたなぁ。


LINEを送っては、いつもそわそわしながら彼女からの返事をまった。LINEが来た時には、心をどきどきさせながら 返事を考えた。「今日は返事がこないのかぁ」と、自分は大切にされてないんだなぁ、という被害妄想が混じった自己否定に浸りながら、眠りにつくことがあった。


気まぐれに電話がかかってきたときには、布団から飛び出て、電話の話し声で両親に注意されないように、誰もいない部屋で 毛布にくるまって 暖を取りながら、夜更けまで語り明かすこともあった。


でも、彼女は会ってくれなかった。



だから、もう意を決した。伝えた。


「あなたのことがすきです。会っているときも、会っていない時も、あなたのことばかりを考えてしまう。一緒にいたいです」




永遠になれない、一番。


「私もすきだよ、でもいちばんじゃない。何人かいるすきなひとの中の、ひとり。」


それが彼女からのアンサーだった。


わかっていた。こんな恋、なんにもならないことを。愛した方も叶わない想いに傷つき、愛された方も 一方的に振りかざされた想いに迷惑するだろう。


それでも、止められなかった。彼女の対する募る想い、届けたい気持ち、表現したかった感謝の言葉。いや、それだけじゃない。そんな叶わない届けたい気持ちを、肯定してあげたい自分に必死だったのかもしれない。

同僚なのに、後先考えずに気持ちを伝えてしまい、ただ溢れてくる想いを 一方的に投げつけることしかできなかった。僕の方も不器用だったのだろう。


さいごに、きいてみた。どうして ずっと会ってくれなかったのか。


幼稚で無責任で、でも純粋で まっすぐで、愛し想い続けた気持ちが相手に少しでも届いたのか。やっと彼女は教えてくれた。


「すきだったのはうそじゃないよ、ほんと。いつも話を聞いてくれて 私を包んでくれて、救いだった。そんな愛情に、いつも甘えていた。でも、そんな簡単なものじゃない。私は年上で、もう人生いろいろ考えないといけないから。後先考えない恋愛は、もうしないって。きめたのに、なんで そんなまっすぐに愛してくれたの。やめてよ、会ったら本当に止められないくらい、すきになってしまいそうだったから。」


これまでの彼女との思い出が、すべてフラッシュバックして 溢れ出してきた。電話越しで、もうどれだけ経ったか記憶できないほどの嗚咽と、涙が押し寄せてきた。


あの瞬間、僕はどんな感覚だっただろう。

不思議と、ひとつになれないことや 二番手・三番手であることへの絶望は無くなっていた。報われない恋に 真っ向からぶつかり、苦しみ続けてきた自分に少しでも意味を残せたこと、彼女にとっての救いになっていたこと。それが分かったときの、僕自身が最も救われた感覚に、言いようのない「生きている感覚」を味わったことは今でも覚えている。



別れの刻

たくさんの人を同時にすきになる魔性さがある一方で、若すぎる僕を気遣って できる限り苦しませないように ずっと想い 配慮し続けてくれていた。


いま思うと、若すぎて 青臭くて 恋愛ごっこみたい。でも、確かに 愛していた。自分の弱さと向き合い、苦しみ、痛み、それでも 大切な人とひとつになりたいと願い続け、自分のすべてを投げうってまで その人にすべてを捧げたいと願い続けた。


それから、「もう私も、自分の気持ちをがまんすることはやめた。いいよ、すきにして」と心に秘めたものを開示してくれて、愛し合うことができた。期間にして 2カ月くらい、仕事以外で会ったのは 3回くらい、僕が新しい地に旅立ち 離れるまでの間だけ。


本当に幸せだった。

彼女という肩書がなくても、その人の一番になれなくても、ただ すきなひとの側にいられて、必要とし合うことができて その実感が持てて、存在を肯定し合えるだけで。


僕がその職場での最終出勤日、誰の目にもつかないように こっそりと一度。新しい地に旅立つ前に、春の訪れを感じさせる気候 澄み渡る青空だったな、別れの改札の前で一度。その人と ほんの少し溶け合ったこと、これまでの感謝を確かめ合うかのように、口づけを交わした。



その人のこと以外、なんにも手がつかなくなるくらい、考え続けた。自分の将来 すべてがダメになってしまってもいいくらい、その人に全てを捧げてしまってもいいと思えたくらい、溺れてしまった恋だった。


その恋に、果たして何を残せただろうか。




#あの恋 #noteでよかったこと #私の仕事 #noteのつづけ方 #日記 #エッセイ #コラム #人生 #恋愛 #生き方 #言葉  

この記事が参加している募集

noteでよかったこと

noteのつづけ方

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?