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私の好きなあなたが望まなかった世界


世界は静寂に包まれていた。

薄闇の中、空からひらひらと舞う白いものが地上へと降り注いでいる。
それは、もうずいぶんと積もっていた。
見渡す限りの、しろくたいらかなせかい。
まるで、なにかが世界を漂白し、均しているかのようだった。

例外はたった二人だけ。向かい合って立つ神父服の男と修道女姿の少女。
二人だけが、この世界で影を作っていた。

少女は、目の前に立つ男を見る。
想いがあふれ、思考は過去をモザイク状に再生する。

──なぜ、こうなったのだろう
───あの時、ああしたら

少女の思考は加速し、ありえたかもしれない世界をを夢想した。目の前の男と、自分が笑いあって過ごせるような世界を。だが確信が、脳を満たした。


─────ああ、それでも

──────やっぱりこの結末は必然だったのかもしれない。




夏の日差しが照り付ける中を一台の馬車が進む。周りには草原と森を構成する木々が広がっている。
道は平らに均されているものの舗装はされておらず、ちょっとした窪みには事欠かない有様だった(もちろんその上を通る度に馬車は大きく上下する)。

「いつまでかかんだよ」
退屈と揺れに耐え切れなくなったのだろう。幌の中で椅子に腰かけている少年が苛立たしげにつぶやいた。
「もう少しですから、辛抱してください」
御者台から男のおっとりとした声がかかる。

「もう少しってどれくらいだよエレイソンさん。」
「これから、森に入って…半日もかかりませんよ」
げっと呻く少年にエレイソンと呼ばれた男は苦笑を浮かべる。
「着いたら好きなだけ暴れられますから」

エレイソンは振り返り、幌の中を見た。四人の男女が、それぞれの仕草で承諾を現した。
短剣を下げた盗賊風の少年、ガルム。
皮鎧と剣を装備した赤髪の少女、イリアス。
極東の島国の民族衣装を纏った女性、綾野。
槌を背負う屈強な男、ドナート。
そして、彼。エレイソン。

彼らはこれから、辺境の村で魔物討伐を行うのだ。

続く

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