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公開買付け(TOB)の強圧性について

今回は公開買付け(TOB)における強圧性について4つにケース分けしてご紹介します。

強圧性とは、TOBにおいて対象会社の株主が、買手が対象会社の支配株主になることにより対象会社の株式価値が低下すると考えている場合に、現状より経済的に損をすることが見込まれるのにも関わらず、TOBに応募するインセンティブを有してしまうことです。

1. 価値減少型TOB+スクイーズアウト無し

A社の1株あたりの株主価値を1,000円と考えている株主(X氏)がいて、現在の市場価格が700円であるとします。

B社が1株800円というTOB価格でのA社に対するTOBを開始しました。このTOBにはスクイーズアウト(買付者がTOB後に3分の2を超えた場合には、TOBに応募しなかった株主に対してもTOB価格で株式を買い取る事)が設定されていません。

実証研究によれば、一般的に、TOB後の株式価値はTOB価格よりも低くなる傾向があるそうですので、TOB後の株式価値を600円とします。

X氏からすると、1,000円の株式価値を持つと考えていたA社株がTOB後には600円になるので、価値減少型のTOBと言えます。

この場合、X氏の取りうる選択肢と対応するA社株式価値を表にすると以下のようになります。

強圧性1

X氏がTOBが成立するか否かに関わらず、応募しない選択肢に比較して応募する選択肢の方が相対的に得られる便益が高いため、応募するインセンティブを有し(赤枠点線内)、TOBが成立しない方が得であるのにも関わらず、TOBが成立してしまうという状況が生まれます。

2. 価値減少型TOB+スクイーズアウト有り

1のケースにスクイーズアウトが加わると、B社は応募しなかった株主に対しても800円で株式を買い取ることを確約するため、X氏の取りうる選択肢と対応するA社株式価値を表にすると以下のようになります。

強圧性2

この場合、一見すると応募しない選択肢も応募する選択肢も同様の経済効果をもたらすように思えますが、スクイーズアウトには時間がかかる(1ヶ月程)ため、X氏からするとキャッシュインのタイミングが早い応募するという選択肢を取るインセンティブを有します(赤枠点線内)。

3. 価値上昇型TOB+スクイーズアウト無し

それでは、B社のTOB価格が1,300円で、B社が支配株主になった後のA社株式価値が1,100円になると仮定するとどうでしょうか。

スクイーズアウトが無い場合、X氏の取りうる選択肢と対応するA社株式価値を表にすると以下のようになります。

強圧性3

X氏からすると、1,000円の株式価値を持つと考えていたA社株がTOB後には1,100円になるので、価値上昇型のTOBと言えます。

TOBに応募した場合、1,100円よりもより高い1,300円を手にすることが出来るので、X氏はTOBに応募することになります。

4. 価値上昇型TOB+スクイーズアウト有り

3のケースにスクイーズアウトが加わった場合、X氏の取りうる選択肢と対応するA社株式価値を表にすると以下のようになります。

強圧性4

4のケースでも、X氏は応募するインセンティブを持ちます。

まとめ

上記1~4全てのケースにおいて、X氏はTOBに応募するインセンティブを有することがご覧いただけけるかと思います。

3と4の価値上昇型TOBにおいては、TOBによってX氏はいずれにせよ元々考えていた1,000円という価値よりも高い価格で売却できるため、強圧性は問題となりません。

一方、特にスクイーズアウトを伴わない価値減少型のTOB(1のケース)においては、TOBが成立しない方がX氏にとっては有利であるのに、応募することが経済的に「合理的」であるため、かえってTOBが成立してしまうという逆説的な状況が生まれてしまうことから、強圧性が問題となります

例えば、旧村上ファンド系による東芝機械に対する敵対的公開買付の際にも、スクイーズアウトを伴わない部分的TOBであったことから、対象会社である東芝機械側はこの点を主張しています。

東芝機械の株主総会招集通知 補足資料

参考文献/資料

『M&A法大全』 西村あさひ法律事務所

金融商品取引法研究会 研究記録第 35 号 『公開買付規制を巡る近時の諸問題』 

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