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【完全自演】ボイトレ評論家・魔王K++が語る、ボイトレを"コンテンツ"にすることの難しさとやりがい【茶番】

 2018年10月にデビュー3周年を迎える魔王K++(ケープラ)。ボイトレ評論家とはなんなのか、目標はどこにあるのか。これまでの経緯とビジョンを改めて本人に語ってもらった。(編集部)

発声について社会への周知啓蒙と、歌えずに苦しんでいる人の力になりたい
——2015年から現在の活動、ボイトレについて発信するきっかけはなんだったのですか。

ケープラ:2014年から1年くらい掲示板で書いてたんですが、いつまでもここでやっててもしょうがないなと、表の世界へ出てきました。
ボイトレ、発声の情報や指導法は歴史的にもずっと混沌としていて、特に初心者向けのまとまった言説が少ない。歌のうまい人にアドバイスされてもスタートラインが違いすぎて、何をやっていいかわからない人が多い。
また業界への批評がなく、サービス業として全般的にレベルが低いということ。そこで広く一般人に業界含めたボイトレというものを知ってもらい、人口を増やして業界全体のレベルを上げたいというのが動機です。
あとはこれまでの自分の経験を生かし、歌えずに苦しんでいる発声弱者・底辺層の力になりたかったという点が大きいです。個別指導するトレーナーという立場ではなく、マス相手の「ライター」として。

——ボイトレの世界にライターや評論家がいない、不足しているということですね。

ケープラ:そうです。ボイトレ業界はトレーナー個人の指導力云々を抜きにしても、社会常識はもちろん今時のコンプラや男女観がないなど、とにかく考え方も古かったり全般レベルが低すぎる。「協会」みたいなものがないので、ユーザーも訴える先がない。ほとんどが個人経営で業界として批判もされないから、改めることもない。せいぜい5chで文句言って終わり。逆に言うと、ニッチな業界は楽でいいですねと(笑)。
ボイトレに限らず習い事ビジネスって、先生に意見はしづらいし殿様商売なところがありますよね。英会話のように競合他社が多ければそっちに流れるのでいいんですが。

——「ボイトレ評論家」という肩書きにインパクトがありますが、これはどのように決めたのですか。

ケープラ:一応マーケティング的にキャッチコピーが欲しいなとは思いつつ、そこまで深く考えずに決めました。一言で言えば、「ホンマでっかTV」のノリですね(編注:当該番組の「〇〇評論家」は本人ではなく番組側がつけたもの)。ボイトレコンサルタントでもよかったですが、カタカナでカッコつけるよりシンプルにしようと。
そもそも「ボイトレ」が一般人には馴染みのないワードなので、そちらを目立たせたい。実際印象に残りやすいようで、反発含めこの肩書きで正解だったと思っています。

——魔王K++という名前の由来は?

ケープラ:大前提としてあったのは、人名ローマ字表記のミュージシャンっぽい名前はやめようと。あとはちょっとくだけた感じにしたかった。「漢字+アルファベット」というネーミングがカッコイイなと当時は思っていて、魔王Kでいこうとしたんですが検索したらかぶりまくっていて、さあどうしようと(笑)。
そこで一工夫して「++」をつけたというわけです。C++(シープラ)というプログラミング言語がありまして、インクリメント、プログラミングでは数字が1増えるという意味なのですが、それをネーミングとして前向きなニュアンスを持たせました。ただ読みづらいし「魔王さん」と呼ばれることがけっこうあったので、途中からこだわりは捨ててTwitterなどでは「ケープラ」にしました。

——特に音楽活動をされてなかったとのことですが、ボイトレを始めたきっかけは何でしたか。

「ヒトカラにハマったこと」だと思います。ベッキーや中川翔子さんなどがカミングアウトしてメジャーになる前から元々たまには行ってたんですが、社会人になってから習慣的に行くようになり、単純に「もっと歌えるようになりたいな」と。2010年前後のニコ動歌い手さんの影響も大きかったです。歌唱力うんぬんよりも、とにかく高音が出したい…男にはとてもよくある動機です。

評論家は嫌われる宿命
——失礼ですが、怖いイメージがありました。ボイトレについて余計なことを何か言えばもちろん、それ以外でも気に触るとボロクソ怒られるんじゃないかっていう(笑)。

ケープラ:評論家というのは常に怒っていて、性格が悪そう。嫌われる宿命なのですね。まくるめさんが言っていたのですが、「文章というのは適度に性格が悪い方が面白い」と。実際性格は悪いので、適性はあると思ってます(笑)。私は客観的に、どうみても音楽より文章の人なんですよね。
あとは読書経験、批判的な文章をあまり読んだことがない人にはキツく見えてしまうかと。ほとんどの場合別にガチで怒ったり、キレているわけではないのですが。

——たしかにツイキャスを聴くと、意外と「普通の人」だなという印象がありました。

ケープラ:狙ってるわけではなく、単に表現方法の違いですね。文字・テキストはどうしても勢い重視というか、先鋭化する。一人喋りのツイキャスでキレまくっていたら本当にやばい奴ですよ(笑)。
もちろん文章でもノージャンルでキレるわけではなくて、意外に思われるかもしれませんが、プロ歌手やボイトレ垢含めた歌い手の歌唱そのものを叩いたことはほとんどないんです。

——たしかに。どのような線引きなのですか。

ケープラ:ボイトレ評論家として一貫性を担保したいのと、論評の対象、領域は守っています。批判対象はあくまでボイトレ業界や教育界。歌い手や音楽家に対しては、基本的に「いちファン」としての発言しかしません。
もっとも対象にしろ批判内容にしろ間違えることはあるので、その時はすぐ謝って訂正します(笑)。ブログやマストドンで専門外の言いたいことも言いますが、本業はこれでもかなり慎重に発信しています。

——2017年にはフースラー界隈とバトルしたり、20代以下のボイトレガチ勢とはあまりうまくいっていない印象があります。

ケープラ:まことに不徳の致すところです。ただ掲示板時代からボイトレオタクにはアレな人が多いことはわかっていたので、元々メインのターゲットでもなかったですね。「無料トレーナーは業界のためにも最初からやらない」と決めていましたし。しかしそれにしても、ここまで嫌われるとは想定外でした。当初、ボイトレ界隈的なものを盛り上げていきたいとは思っていましたので。バトルもコンテンツにできればよかったですが、そこまでの発信力が私にはなかった。

——トレーナーなどの有識者に支持者がいる一方、嫌われてしまった原因はなんなのでしょうか。

ケープラ:ズバリ歌唱力ですね。たとえビッグマウスやクズキャラであっても、実力があれば彼らはひれ伏します。「音源至上主義」と私が批判しているやつで、根本的な価値観が合わないため相入れない存在という感じです。もっと上手くなってからこの活動をすればましだったでしょうが、そこまで待ってられなかったので仕方なかったです。

ボーカリストは自分より格下の人間を見下す生き物
——以前「ボーカリストはみんなクズ」という記事を書かれていましたが、それとつながる話なのでしょうか。

ケープラ:例の界隈に限らず、ボーカリストは自分より実力が下と思った人間を見下します。特に「有料で」トレーナーをやったりnote出したりした時に顕著になります。「お前ごときがやるな」と。リアルの知り合い、先輩・年上だったり、地位や名誉のあるアーティストのことは角が立つのでそう悪くは言えませんが、残念なことにインターネットというのはそれがむき出しになってしまうのですね。
もちろんこれはどんなスキルにも言えることですが、仕事ができるかどうかなんて近くで見なければわかりませんし、成果物一つで判定できてしまう芸術系の闇と言えます。どういうわけか、記事など教える系の成果物では評価してくれない(笑)。
楽器は専門でないのでわかりませんがそこまでひどくはない認識で、ボーカリストは自分が一番じゃないと気が済まないナルシストが多く、本質的に厄介な人たちです。

——2017年からのnana音源については、どのような動機・意図があったのでしょうか。

ケープラ:nanaを選んだのは「音声のみ」という魅力、あとは単に流行り。「歌ってみれば、死にたくなる」という、nana運営さんには怒られるコピーを提唱していますが(笑)、私のように下手でもめげずに歌い続けてほしいというメッセージもあります。
私はボーカリストとしてのプライドがゼロだし、未だにステージで歌いたいとか思ったことがないし実力を抜きにしても本質的にボーカリストではないと思っています。先ほどのクズ論で言えば、当然広義には私も含まれますが。

——実力がないとその技術を語ってはいけないという風潮は、発声に限りませんね。

ケープラ:一流大学卒の数学者でないと算数・数学を教えてはいけないみたいなところがあるわけです。プロ育成レベルならそれも正しいですが、私は発声を一般教養として捉えていて、学校教師にその科目のそこまで高い専門知識・スキルはいらないわけです。
だからトレーナーも名乗ってないし、やる気もない。ボイトレ=プロ向けというイメージの人、あとはインターネットの距離感をわかっていない人ほど反発するのでしょう。そもそも世の中に既に十分な情報や指導システムがあれば、私が出張ることもなかった。

ブログなど本業以外の発信も、すべて本業のため
——先ほどブログ・マストドンの話が出ましたが、こちらは名義は同じでも趣味という位置づけですか。

ケープラ:そうです。あとは知名度を上げて本業記事を読んでもらうため。音楽だけじゃ食っていけないミュージシャンが仕事するようなものですね(笑)。現状、ブログとnoteでは全く別の読者層をターゲットにしています。Twitterとマストドンもユーザー層がかなり違っていて、これは結果的にそうなっているだけですが。

——8月末に「移民」されましたが、マストドンは発信力という点でTwitterに劣るのでは。

ケープラ:短期的にはそうですが、人が増えすぎて炎上文化がひどくなり統制せざるをえないTwitterは、これから発信ツールとしては下り坂とみました。特に、私程度のフォロワー数では大差ないでしょう。
マストドンは全人口で言えば圧倒的にTwitterより少ないのですが、フォロワーが少なくてもけっこう知らない人に反応されるし、濃いユーザーが多い。noteユーザーも多く、これまで出会ってなかった層に「営業」できてます。年齢層も高めです。これはインスタンス(サーバー)にもよりますが。

——noteでは有料記事も配信されていますが、価格設定含めどのような意図があるのでしょうか?

ケープラ:まずボランティアではない、ガチでやっていると示すこと。価格設定については部数が少ない零細垢であること、質問サポート代込みであることを踏まえ200円からにしています。そして、「ボイトレにお金を使う習慣を持ってほしい」というメッセージもあります。
ネットの情報は基本すベて無料ですが、大切な趣味なのだから「無料トレーナー」などに頼らず、使う時は惜しみなく使ってほしい。大げさに言えば、日本経済のためですね(笑)。

——2017年の著作権侵害事件は結末含めて衝撃的でした。いま、改めて語ることがあれば伺いたいです。

ケープラ:インタビュー記事って黒歴史的なことには触れないと思いきや、ぶっ込んできますね(笑)。
あれがもしマスコミのニュースになってたら、私は身バレしていました。その覚悟で警察に行きましたが、実際に警察の人の前で説明している時、俯瞰された自分がいて「あ、実名でも別にやれるわ」と、スーッと覚悟が決まっていく不思議な感じがあったのをよく覚えています。
匿名の方が色々と楽だから今はそれでやってるだけで、「機会が来たらいつでもリアルに出て行く用意はある」ということを自他共に示せたことは、あの闘いの中で唯一よかった点です。

ボイトレは語学のようなもの。そして最高の趣味
——今後の目標や抱負はなんですか。

ケープラ:これまでと変わらず知名度を上げていくため、読者・ファンを増やすことです。歌い手としてはもうちょっと上手くなりたいですが、ぶっちゃけそこまで優先順位は高くないです。だから「上手くなったら」ではなく今、nanaも公開しています。
ボイトレ評論家としてはとにかく「消えないこと」。10年でも20年でも、ネットに存在する限りはこのアカウントでやっていきたい。生きていればそのうちチャンスも掴める。特にボイトレなんてウケるコンテンツじゃないし、長期スパンで考えています。手始めにまずは、一度くらいブログがバズってみたいのでそこが来年以降の目標です。音楽ネタのnoteがバズった方が本当は嬉しいんですけどね。

——ボイトレの発信で有名になるのは実際、難しいと思います。それでも続けるモチベーションややりがいはなんでしょう?

ケープラ:主にボイストレーナーですが、素晴らしい人材と知り合えたことですね。何人かはリアルでも会いましたし、彼らを応援するためにも続けたい。なんやかんやで私もこの立場があるから、しっかり勉強してボイトレもやろうとなる。情けは人のためならずというか、結局は自分のためにやってるんですね。だからアンチに叩かれても続いているのかなと(笑)。
ただ、ボイトレだけだと所詮はニッチなので少し手を広げていきたいです。

——ボイトレ以外の音楽全般、ということでしょうか。

ケープラ:そうです。前々から、作曲するとかでなくても、機材・技術含めた音楽的な勉強をしなければいけないなと強く思っていまして。エレキギターに手を出したのもその一環です。
あとは斜陽と言われる音楽業界についても言及していきたいですね。ボーカル寄りの、トータルな意味での音楽評論家としての力をつけていきたい。多少なりともメジャーデビューしたいと思ってる人は、音楽業界の悪口は絶対に言えないわけです。だから「嫌われついでに」私の出番かなと。コアの発声がおろそかになってもいけないし、バランスが難しいですが。
ツイ廃をやめて時間もできたし、今後はもっと色々真面目にがんばろうかなと(笑)。刺激を受けるためにいろんな人と会ったり、いち音楽ファンとしてライブにも行くべきだなと思っています。

——方針変更しながら、ますます精力的に活動されるということですね。

ケープラ:そうなんですが、「がんばりすぎない」ことも大事だと思っていて、「所詮はネット」みたいなスタンスも大事だと思っています。Twitterを見ていても結果的にそういう人の方が安定しているので。「消えないこと」「続けること」を第一にしたいです。「ボイトレ評論」は私一人でやっている部活・サークルのようなもので、廃部にだけはしてたまるかという(笑)。
私は基本的に「ネットだけの人」なので、どうしてもネットに依存してしまう。なのでそこが一番の課題かなと。

——最後の質問です。ケープラさんにとってボイトレとはなんですか。

ケープラ:インタビューでよくあるやつ(笑)。抽象的で答えづらいですが、しいていうなら先ほど「一般教養」と言ったように、語学のようなもの。英語など外国語の場合、一般人の目標は外国人と話ができることであって、綺麗な、流暢な英語を話すことではない。なのでボイトレも通じればいい、というスタンスです。「歌声」という語学。むしろ「その先」の歌唱、ボーカルトレーニングは管轄外なので知らんよというのが本音です。
なので、あくまで個人的には、最初から人を感動させるとか、歌や芝居で飯を食っていくことを目指したものではないですね。私の中でプロになるような人は別格で、ボイトレによってどうこうできるものじゃないという考えです。…またガチ勢に敵が増えそうですけど(笑)。
英会話教室のように、習い事としてポピュラーになればいいなあと。実用性皆無にみえてカラオケで役立つし、ヒトカラで歌うだけでも楽しいですよ。さっきも言いましたがカラオケ難民を減らしたいんです。人生は変わらないかもしれないが、歌えるようになればとにかく楽しい。ボイトレはお金のかからない、最高の趣味です。それを今後も広く訴えていきたいですね。

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