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川崎ゆきお
2021年6月30日 12:43
「鬼ヶ原」「はい」「そのままだな。分かりやすい場所だ」「鬼が出るとか」「そういう場所ほど、出なかったりする」「鬼ではなく、盗賊が出ます」「寂しい場所なんだろうなあ」「はい、街道沿いの近道なのですが、あまり旅人は通りません」「その近道は何処に繋がっている」「だから、本街道に出ます。本街道が曲がっているので、その近道なのです」「なるほど」「一寸した山がありまして、坂が多いので
2021年6月29日 13:44
人知では計り得ないこと。可能性としてはあるのなら、これは人知内。また、可能性としてはないことだが、想像の世界ではあること。想像できるのだから人知内。 あってはおかしいが、あることは知っている。ただ、現実にはないだけ。 その現実の陣地と、現実外の陣地との境界線が時代により違ってきたりする。また、現実では有り得ないとされていたものが、あったとなる場合もある。 いずれも人知内だ。真偽を問わな
2021年6月26日 12:41
勝軍が行列をなし、本拠地へ戻って行く。大勝利だ。野戦での決戦。しかし、無理攻めせず、そこで引き上げた。敵の軍は敗走し、また主力部隊を全滅させている。 石田米乃丞は、それを見送っている。ついて行けないのだ。一緒に戻りたいのだが、怪我をしている。馬にも乗れないが、それ以前に馬は逃げている。馬周りの足軽は何処かへ行き、小者だけが残った。戦は大勝利だが、石田は敗者のようになっている。 小者の勘助
2021年6月24日 13:02
「奈喜良町へ行かれましたか」「知りません」「この先です」 町の端まで来たので高橋は引き返そうとしていたのだが、そこに現れた男がいきなり奈喜良町と言いだした。 ナギラ、いきなり聞くと、町名とは聞こえないが、ナギラチョウと、チョウが付いたので、町の名前だと高橋をすぐに分かったのだが、彼が散策者のためだろう。 町の外れ、そこは清水町で、村の面影があり、昔は田んぼだったところ。すぐに岡が迫っ
2021年6月22日 14:01
楽しいことが続くと、実際には楽しめない。たまにだから楽しめる。大きな楽しみもいいが、滅多にない。 小さな楽しみはよくあるが、それが重なると楽しさを楽しむには過剰すぎる。 三つも四つも楽しみが重なると、楽しみを食べ散らすようなもの。「そんなに楽しいことが多いのかい」「ああ」「結構なことだ。苦しいことばかりの世の中なのに」「君もかい」「僕は避けているし、逃げているので、それほど苦し
2021年6月21日 13:14
日南という明るそうな坊さんがいる。他にも同じ名の僧侶がいるためか、阿蘇の日南と名乗っている。日南海岸ではない。 しかし、そこは故郷で、実際には都のある畿内周辺をウロウロしている。今で言えば関西方面だろうか。 日南は放浪を続ける坊さんで、旅から旅への旅坊主。故郷には帰らない。居づらくなった理由があるためだ。 その明るさから、どの村々でも歓迎される。寒村が暖村になるわけではないが、人々の心
2021年6月20日 12:48
三村は朝から調子がいい。体調は悪いが、気分がいい。ただ体調の悪さがあるので、差し引きすれば、それほどでもないが、元気はある。 それは一寸した取引が続けて成立したため。大漁だともいえる。そんなことは滅多にないので、喜ばしいこと。 いつもは坊主が多い。何も釣れない。たまにかかる程度だが、今朝はビクに勝手に入り込んだように、魚が入っていた。当然、本物の魚ではない。 特に仕掛けはないが、小まめ
2021年6月19日 12:49
「雨で何ともなりませんなあ」「梅雨時ですから」「何ともならぬものを何とかしたいものです」「ならぬものは何ともなりません」「どうしようもありませんか」「雨のようなものです。止められない。降らないようにさせることはできないでしょ」「ならぬことですな」「そうです。ならぬものはならんのです」「まあ、雨は天然自然なので、これは無理ですが、何とかすれば、何とかなるものもあるでしょ」「たと
2021年6月15日 13:03
やっと辿り着いた土曜日。休みだ。しかし、金曜、仕事が終わったときから休み。だが疲れている。気は解放され、浮き立っているが、身体が付いてこない。 土日は休み。だから忙しくて休めないわけではない。それでも月曜から金曜は長い。この間、高尾の世界ではない。仮面を被った世界で、高尾の時間ではない。 仕事が終われば高尾の時間になり、高尾の世界になるのだが、もう暗くなりかけているので、時間がない。夜歩
2021年6月14日 12:34
先人がいる。古川にとっては先人だ。その先人に取って代わり、古川が世に出た。既に産まれたときから世に出ているので、この場合の世とは、ある限られた世界だろう。 その先人は、さらにその先にいる先人に取って代わり、上へ行ったのではない。古川に取って代われ、居場所がなくなったのではない。上にも行かず、下にも下らず、そのまま消えてしまった。 世の中から消えてしまったわけだが、限られた世界から消えただ
2021年6月13日 12:46
夏の盛り、石田は朝、一日を始め、夜、一日を終えるだけで一杯一杯の暮らしをしていた。 その間、何と戦っていたかというと、当然ながら暑さ。暑さとの戦いなので、これは戦争ではない。人と人との争い事でもない。また病との戦いでもない。ただ一寸暑いので、過ごしにくいだけ。 だから戦いというよりも、その暑さをどう乗りきるのかの折り合いの問題だろう。暑さと仲良くなるような。 しかし、この友人、なかなか
2021年6月9日 12:37
「我が一族は田村殿に従うのがよろしいかと存じます」「そうだな」「田村殿は公正なお方、偏りがありません。どなたに対しても同じように礼を尽くし、それに腰も低く、話し方は上下に拘わらず、丁寧」「そうだな」「我が家、我が一族は田村殿に従うことが一番無難かと」「そうだな」「何か、お気に召されませんかな」「召したいがな」「ではお召し上がりなされ」「わしはなあ」「誰ぞ、他にいますか」「
2021年6月8日 12:28
田沼崎は昔は川だった。蛇のように歪曲した川で、そのカーブを曲がり切れないほど増水し、決壊した。そこが本流になる。 そしてまた、元の川筋と合流する。だから川の一部が千切れた。だから長細い池になった。蛇沼とも呼ばれたが、その後、溜池代わりに使うようになってから、田沼、または田沼崎と呼ばれるようになる。 本流だった頃の船着き場があり、もう使われていないが、その一帯が田沼崎た。本流だった頃は名は
2021年6月7日 13:32
永野主膳は武士だが学者。また、お寺の息子でもあるが僧侶ではない。藩士だが役目はない。側近寄り合いという部署にいるが、その大部屋に詰めているだけで、何もしていない。 お寺育ちなので、子供の頃から神秘的なことが好きなようだ。それほど怖い目に遭っていないためだろう。 藩内では神秘家で知られ、一目置かれているのではなく、視界から外されている。実家の寺は大きい。代々の藩主の菩提寺でもある。 側近