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川崎ゆきお超短編小説 コレクション 5

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2019年1月の記事一覧

真逆の人

真逆の人



 今日は簡単に済ませようと思うときは保守的で消極的なとき、できれば籠もっていたいが何かとやることがあるため、最低限のことはしないといけない。
 樋口はそんなときは神がサボりなさいと進めてくれると理解する。いったいどんな神で、どんなプロセスでの理解なのかは謎なのだが、啓示のように直接来るのだろう。しかし啓示を発している天の声は樋口自身のもの。つまり臭い声を出しているわけだ。
 この臭みは体臭のよ

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急がば回れ

急がば回れ



 急がば回れというのがある。直線で行った方が最短距離で早いのだが、わざわざ遠回りする。これは段取りを適当にすると、上手く行かず、逆に手間取ることになるので、その準備を整える意味でも、遠回りになるが、やるべき準備はやって進む方が逆に早いということだろう。
 また、急いでいるときほどゆっくりと行く意味もある。焦らず余裕を持って進めた方がいい。
 しかし世の中の多くのことは急いでいるときの方が多い。

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初心に帰れ

初心に帰れ



 初心を忘れるな。などというが、初心とはかなり欲の強いもの。初心を忘れた人の方が欲が弱くなっていたりする。これは逆ではないかと思えるが、初心者の欲は上級者の欲よりも大きい。つまり欲張りだ。その欲がベテランになってくると叶わぬ欲であることが分かりだし、妥当な欲になる。
 初心者は知らないだけに夢を持ちすぎる。だから初心の頃の気持ちを忘れぬなというのは、もっと大それた欲を持てという意味にも聞こえて

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黄泉の石蛙

黄泉の石蛙



 源五郎が拾ってきた蛙石。これは蛙の形にそっくり。蛙が石になったのではないかと思えほど。源九郎は渓谷の奥にある小室で発見したという。
 村の物知りがそれを見て、これは大変なものを引っ張り出す、あるいは引きずり出すかもしれないといい、元の場所へ戻すよう源五郎に命じる。
「爺さん、それはどういう意味ですか」
「自然にこんな蛙の石ができるわけがない。蛙そっくりじゃないか。これは作ったものじゃ。彫った

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ささやか暮らし

ささやか暮らし



 笹岡は挫折し、さらに体調も崩したとき、もうささやかなものでもいいのではないかと思うようになった。コンディションが戻ればまた再開できるのだが、初期の目的は叶いそうにない。
 精神力など一寸した肉体的なことでころりと落ちたりする。笹岡もそれで落ちた。元々根性がなく、精神力も弱いのだろう。
 それで身体の回復を待ちながら散歩をしていた。散歩も体力はいるが重労働ではない。それにとぼとぼ歩き程度なら問

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天然主義文学

天然主義文学



 角を回ると吉田の家が見える。電柱が邪魔をし、最初は見えないが、そこには古びた質屋の広告。その質屋も古び、今は営業していない。看板も錆びてしまい、質の文字に切れがない。質を丸で囲んでいたのだが、それも今では途切れている。
 吉田の家は見えているのだが、まだ門だけ。その手前に数軒の家がある。その左側は公園の植え込み。密度の濃い葉のためか、公園内はよく見えない。しかし一本だけ違うものが植えられてお

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焚き火

焚き火



「寒いと何もできませんねえ」
「寒くなくても、何もしていないのでは」
「ああそうでした。しかし寒いときは動きたくない」
「暑いおりもそんなこといってましたよ」
「暑くていけませんから。しかし夏籠もりはないでしょ。冬籠もりはある。この違いですねえ。夏は暑くて何もする気にはなれませんが開放的です。明るいし、また日も長い」
「でも冬の方が部屋を暖かくしておけば夏よりも過ごしやすいでしょ」
「それは言

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詰める

詰める



「何を考えておられるのです」
「ああ」
「おっしゃっていただければ、そのように致します」
「いや、大したことじゃない」
「やはりそうでしたか」
「気にするようなことではない」
「しかし」
「言っても詮無いこと」
「ご命令を」
「命じる必要はない」
「では、お一人で」
「うむ」
「しかし、お聞かせください」
「そうか」
「やっとその気になられましたか」
「ずっと気にはしている」
「で、どのような

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階段落ち

階段落ち



「これはよく見る夢なんですが」
「はい、お話しください」
「階段の夢です。鉄の階段でして、壁沿いにあります。その階段がぐらぐらするんです」
「それは知っている階段ですか」
「そうです、昔住んでいた木造モルタル塗りの文化アパートです。しかし階段や二階の通路だけは鉄骨が入っています。むき出しの。だから階段も鉄です」
「それは昔住んでいた場所の階段というだけの夢でしょ。だから思い出のようなもの」

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リアルなファンタジー

リアルなファンタジー



 誰が敵か味方か、分からないことがある。敵や味方は最初からいるわけではないが、そのうちできてくる。またディフォルトの味方もいる。最初から味方であろうと思えるような集団。当然その中にも敵がいる。味方なのだが、敵。
 逆に敵の中にも味方がいる。すると味方の中の味方と、敵の中の味方が味方の総数となる、そういう見方もあるが、敵か味方かよく分からない存在もある。人や場所、団体なども含めて。
 ある事象で

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千枚漬け仕事術

千枚漬け仕事術



 山下は余裕がある。おかずの予備があるためだ。おかずとは何か。ご飯のおかずだ。
 普段使っているお金は小銭と千円札。万札を使うようなことは余程の買い物でないとないので、日常の中にはない。ところが千円札が切れ、五百円玉もなく、百円玉や十円玉ばかりになった。それらはズボンのポケットに入れているので、手を突っ込めばすぐに分かる。紙がない。
 それでは困るので、万札を崩さないといけない。場所としていい

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蓬莱窟

蓬莱窟



 蓬莱窟の場所を知っている人物をやっと探しあてたが、ただでは教えてくれない。大金を払っても無理だが、どうせそんな金はない。脅しつけて聞き出すのも気が引ける。
 しかし、この人物、困った人ではないが、困りごとがあるらしく、そのことを知る。それを解決してやれば蓬莱窟を教えてくれるらしい。
 この人物の娘が行方不明になり、それを探し出せばいい。この人物もそれなりに探したのだろうが、それでも見付からな

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ゲテモノ

ゲテモノ



「何が良いのか分かりませんねえ」
「価値の問題でしょ」
「ああ、価値の」
「価値は人によって違いますが、まあ、似たようなものでしょ」
「価値観も時代によって違うでしょ」
「一年でも変化しますよ。それに子供の頃の価値観と大人になってからでは違う」
「じゃ、価値は安定していないと」
「相場のようなものでしょ。しかし普遍の価値というのもあるようですが、価値の賞味期限が長いのでしょうなあ」
「最近私は

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初夢合わせ

初夢合わせ



「初夢は何を見ました?」
「もう大分前ですねえ」
「でも幾夜の中でも、初夢は起きたとき、覚えているでしょ。またはどんな初夢だったのかを、チェックするんじゃありませんか。一番注目すべき夢でしょ。一年の中でもね」
「元旦の夜に見たものですか?」
「二日の夜でもかまいません。これはサブというか、予備というか、見なかったとき用に二回チャンスがあるのです。また二日続けて見た場合、いい方を選べばいいのです

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