恋はない。性欲もない。愛はある。

恋したことがない。
恋しようと思ったこともないけれど。
というより、そもそも、恋ってなんなんだ。

初恋はいつか、と訊かれると答えられない。
色々なジャンルのオタクをしてきたが、一度も「リア恋(リアコ)」や「ガチ恋」の感情を抱いたことがない。そもそも、これらの感情が分からない。
好きなタイプとか理想の相手像を訊かれたときに答えることはできるが、そういう人と恋人になりたいという訳ではない。
「LIKE」と「LOVE」は違うというけれど、その差が分からない。
「好意を持っている」=「恋愛感情がある」という解釈が理解できない。

友人、同僚、家族、推し、色々な人に好きという感情を抱く。景色やものに対しても好きという感情を抱く。2次元だろうが3次元だろうが、人間だろうが動物だろうが、有機物だろうが無機物だろうが、様々なものに対して、好きだと思う。好きなものは好き。これらの「好き」に区別はない。私の場合、「可愛い」「格好いい」「素敵」などの言葉についても、そこに区別はない。
せいぜい、「愛しい」に関して、「親愛」か「敬愛」かの区別ができるくらいである。
顔が整っているとか、性格が良いとか、人間性が素敵とか、そう思う人がいても、その人と恋人になりたいという思考には至ったことがない。
最終的に、「恋って何」「恋人って何」という思考に行きついてしまう。

多分私は性欲もない。
性交渉も自慰も経験がないし、したいとも思わない。しようと思ったことがない。
2次元でも3次元でも、「セクシーだな」とか「色気があるな」とか、もっと俗っぽく言うと「えっちだな」とか思うことがあるが、そこに自分の性欲は関わらない。
加えて、私は無機物にだって「セクシー」とか「色気」を感じるし、その感覚は人に対するそれと変わらない。(サイバディ(STAR DRIVER 輝きのタクト)とかペルソナとか、えっちだと思う。)

それでも私は、フィクションとしての恋愛は享受している。ラブソングも聞くし、ラブストーリー系の映画もドラマもアニメも漫画も観るし、恋愛小説だって読む。必ずと言っていい程に恋愛が絡んでくる、宝塚やブロードウェイなどの舞台も観る(し、むしろ結構好き)。いわゆる乙女ゲームだってプレイしたことがあるし、夢小説だって読んだことがある。
フィクションとしての性欲だって享受する。(少なくともあまりアブノーマルまたはフェティシズムなシチュエーションでない限りは)いわゆる濡場も、アダルトビデオも、成人向け作品も、嫌悪感を抱かず観ることができる。

しかしながら、私が受け入れている恋愛も性欲も、すべてフィクションだったと思いなおす。
私は、恋愛も性欲も、客体として、自分の「外」にあるものとして眼差すことはできても、主体として、自分の「内」にあるものとして眼差すことができないのだ。

私にとってラブストーリーはあくまでフィクションだった。
乙女ゲームも夢小説も、名前変換系コンテンツである。私は、その「名前」に自分の名前を入れたことがない。いつも、知人にいなくて珍しくもない名前か、初期設定のまま(「名前」とか「NAME」とか「なまえ」とか)で読んでいる。
自分や知人の名前を用いて展開されるラブストーリーは、なぜか読むことができない。抵抗感が生まれてしまう。
適当な名前なら読了できたラブストーリーが、自分や知人の名前になった途端読了できなくなる。
知人が恋人と歩いている姿を見ると、不快感を覚えてしまう。
性行為の末、私が産まれたというのは分かっているのに、両親が恋愛をして、性行為をしたのだと思うと、不快感を覚えてしまう。
自分が「恋愛」や「性行為」をすると考えると、どうも気持ち悪くて、嫌悪感に押しつぶされる。

自分がこう考えるのは、自分が陰キャで、人付き合いが苦手で、オタクで、同性に囲まれて生き過ぎたからだと思っていた。
家族や知人を「気持ち悪い」と思う自分が嫌だったし、周りに自分と似た感覚を持った人はいなくて、むしろ恋を勧めてくる人が多くて、自分の感覚を受け入れることができなかった。
自分の感覚は間違いではないのだと思いたい半面、自分の性格や感覚が異常で、問題があるのかもしれないという考えが、心の隅にずっとこびり付いていた。


「anone,」というサイトに出会った。自分のセクシュアリティを診断できるサービスを提供しているサイトだった。
自分の恋愛や性欲に関する感覚に、多少なりともモヤモヤを抱えていたので、診断することにした。

アロマンティック・アセクシャルという診断結果が出た。
なんだか、安心した。
あくまで一つの指針で、カテゴライズだけれど、自分の感覚に名前がついたことで、少しほっとした。
自分の性格も感覚も、別に問題はないのだと、そう言ってもらえた気がしたから。

きっとこれからも、家族や友人を「気持ち悪い」と思ってしまうことを受け入れることはできないと思うけれど、自分の感覚は異常ではないのだと、少し自信が持てるような気がした。


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