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善人

ガシャーーーンという派手な音に振り向くと、横断歩道の手前に自転車が投げ出され、若い男性が走って交差点に向かい、そのド真ん中で女子高生が倒れていました。

同時に信号が赤に変わります。

夕方の三車線の道路はいまにも発進しそうな車で埋め尽くされていましたが、自転車を投げ出して駆け寄ったお兄さんと、女子高生の彼氏と思しき男子高校生が倒れた女の子を抱き抱えて必死で歩道まで戻ってきました。

人だかりができます。

倒れた女子高生は意識はあるものの目線は定まらず朦朧としていました。

そんな彼女を仰向けに膝にかかえ、彼氏は頰をなでながら懸命に呼びかけ、自転車のお兄さんは脈を取りながらすぐに救急車に電話をかけていました。

そのまわりを遠巻きに見つめる人と、我関せず通り過ぎる人。

わたしは何かやれることがあるだろうかとわりとそばにいたのですが、遠巻きに見つめる人のなかに、中年のおっさんと大学生っぽい男がいて、なんとなく倒れた女子高生の足元側に回り込むようにして、やたらと足を見つめている視線に気がつきました。

気がついたからには放っておけねえ、というわけでわたしはさっさと自分の着ていた上着を脱いでおっさんと学生の間に割って入り、倒れた女子高生のスカートの上からふくらはぎあたりが隠れるように上着をかけて、ただちに視界をシャットアウト。

他にも複数の女の人が近寄ってきて、倒れた自転車を起こして脇に寄せたり、女子高生のカバンを持ってあげたりしていました。

自転車のお兄さんは冷静に119番の人と話しながらも

「ここって住所はなんでしたっけ・・・」

と少し焦って聞いてきたので、

「駅前なんで駅の名前でいいと思いますよ」

と返しました。

となりにいた主婦っぽい女性は、彼女の介抱をしている男子高校生に

「あなた彼女のお友達?だったら親御さんに連絡してあげたほうがいいわよ」

と言ってあげていて、彼氏もはっとしたように

「あっ、そうですね」

「連絡先わかる?」

「わかります」

と答えてカバンを探っていました。

誰かが近くの交番に走って行き、おまわりさんが3人ほどやってきました。

女子高生の子は少し意識がはっきりしてきたようで、なんとかして上体を起こしてきました。その様子を見ておまわりさんが

「歩けるかな?救急車が来るまで交番に行きましょう」

と彼氏に代わって女子高生を両側から抱き抱え、横断歩道から100m程離れた交番まで連れていくことになりました。

なのでわたしや他の人も離れ、なんとなく見送っていましたが、あとはやることもないので帰ろうとすると、男子高校生が、

「ありがとうございました!!」

とわざわざひとりひとりにお礼を言ってきてくれました。

いやいやそんな、それより彼女無事だといいけどなあ。

交差点では自転車のお兄さんがグッタリと座り込んでいました。

きっと力抜けたんだろうと思います。

あんなに交差点にたくさん人がいたのに、倒れた彼女に真っ先に気がついて、しかももう赤信号だからとにかく早く運ばないと危ない!!それに彼氏ひとりでは運べないだろうと瞬時に判断して自転車を放り出して駆け寄った彼は、今日いちばんのスーパースターだったと思います。

女子高生とはいえ50キロくらいある人間を運ぶの大変だったと思うから・・・

一瞬にして夕方の街は何事もなかったようにいつもの風景に変わります。

わたしは脱いだ上着をまた羽織りながら、あの子なんで倒れたのかなあ、病気とかじゃないといいなあ、とまだ少し心配な気持ちのまま歩いていくと、お兄さんが呼んだであろう救急車のサイレンが聞こえてきて、そのまま自分とすれ違って行きました。

宮嶋さんが言ってたけど、この世の微生物は割合が決まってるそうです。

善玉菌2割、日和見菌7割、悪玉菌1割。

ああいうときでも、その場に居合わせた人の対応はほぼこのパーセンテージで分かれます。

真っ先に動く人2割、傍観者7割、この期に及んであわよくばスカートを覗こうとする輩1割、みたいな感じです。

きっと自分の心も同じです。

助けなきゃ2割、とりあえず様子見しよう7割、自分には関係ないし関わるのは面倒1割。

善玉菌が動けば残りの日和見菌は善玉化するので、善悪の割合は9:1になります。

でも悪玉菌が優勢なら残りの日和見菌も悪玉化するので、善悪の割合は2:8。

まるでいまの世の中みたいです。

だから善玉菌で動くかどうかは、結局のところその人の意識次第、選択次第です。

今回は自分も含め、場の波動的には善玉菌が活性化していて、わたしはそのような善の周波数の場に居合わせたことに感謝したいと思っています。

咄嗟の時に本性が出ます。

これからも咄嗟の時に、善の心で物事に臨めるように、日々の心がけを気をつけていきたいです。

あの子、無事だといいな。回復をお祈りしています。

#日記 #エッセイ #救命 #アクシデント



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