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償いの心を持つまでの時間

ある晩 部屋の真ん中に置かれた見知らぬ死体袋の前で立ち尽くす夢をみた

何も思い出せないが 何かを殺めたという確信だけが残っている

逃げるわけでもなく 誰の亡骸か確かめる勇気もない

次の日の晩 妹が父を殺した夢を見た 

母が死体を跡形もなくきれいに片付けたことをなぜだか私は知っている 

警察に行くつもりだった私は 気が付けば見知らぬ港町を歩いていた 

真っ青になった空を見上げると トンビが「ひーよる」と啼いていた
 

足元に転がる生々しい夢の欠片を蹴飛ばしたり掻き集めたりしてゴミ箱の中

夢から目醒め私は自分だけが生き延びるために犠牲にしたものに耳を傾ける

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そういえば 歩き始めて間もない妹が母を見失い 

みかん箱を両手に抱えて 公団のエレベーターを一人降りて  

団地の外へ堕ちていく寸前に引き止めた4歳の私 

家族のためにしたことは蜘蛛の糸をたぐり寄せ やっと掴んだ記憶の源

あれから数十年の時を経て 幾人の人を見捨て押しのける旅路の彼方

全てを風のせいにして 周りに無関心を装うことで

誰かを傷つけたこともある

浜辺に打ち寄せられる不条理と理不尽とプラスチックの魂と

これまで踏み躙ってきた足跡は履歴と共についてくる 

それでも前世の父への恩返しと天使達が寄り添ってくる

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