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考えることを諦めぬ猫になる

金切り声をあげて首を振る見知らぬ鳥達よ
どうか愛おしい花をついばまないでおくれ
どうか愛おしい余白を埋めないでおくれ
諦念と恐怖のあまり言葉を失う

遅らばせながら あなた達の言葉に合わせてキーキーと啼くようになったら
キーキーと啼くばかりで話し合いにならぬのだから
いつしか対話を拒絶することになった
 

風もないのに電線がキュルキュルキュルと啼いている

人住まぬ雨樋に置いて逝かれた風鈴とブリキでできた風見鶏

擦れる音が意味を見出す

何ものかに追われる気配は自分の壊れた靴の音 

過去の悪夢がこだまして積み重なった奇譚集 

考えろ 想像して 言葉のかけら拾い集めて

自らが作り出した物語の迷路に 閉じ込められることのないように

自らが作り出した星座で運命を占い信じ込まないように

年老いた猫よ 

薄れゆく意識の中でこの肉体であり続けるために 熱い涙で暖をとるのだ 

冷えた獣となり凍死することは避けねばならぬと話してみるのだ 

通じぬ言葉で話してみるのだ 

年老いた猫よ

凍えてかじかんだ手のように頭が動かなくなる 

体が石にならぬように なんとかやわらかなごむまりのやうに歩き続ける

何年もの間 沈黙を守っていた足元に横たわる石の下には

折り重なる屍のように 言葉が地下深くに埋められている

それらを掘り起こして 掘り起こして でも僕は犬ではなく猫になるのだ

年老いた猫よ 

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どんな気持ちでこの世界を認識しているのか 

しぶとくも古びた銭湯の前で ささやき合う二匹の影がこちらをみている

掘り起こされた言葉

ようやく肉体から開放されたにしても 理解できぬ言葉

猫が喉を鳴らした

それでも考えつづけ 対話し続けるのだ


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