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天使と悪魔・聖アナスタシア学園(04)

第四章
 ~降霊密会譚1~

 定期試験が近付いていたある日の午後、ユリは塾に向かって自転車をこいでいた。降霊で憧れのアイドルに「抱かれた」ゆり子が並走していた。彼女はまだ先日の幸福感が続いていて、学校で嫌なことがあっても自分で消化していた。

「ゆり子があんなに激しいとは意外だったわ。私だけじゃなくて、全員びっくりしていたのよ」

 少しだけ顔を赤らめてゆり子は心の中のことを少し話した。

「私自身もあんなに気持ちいいのが続くと思っていなくて、本当に時間を忘れて、しちゃったわ」
「そんなにすごかったの?」
「伊藤君だったからなのか、霊の力で脳に直接刺激されたからなのかは分からなかったけど、タカシ君では得られたことがないわ、あんな快感」
「だって、タカシ君とのエッチ『最高!』って言ってなかったっけ?」
「ごめん、タカシ君とのこと、もう忘れたい。伊藤君とのアレは全然レベチ」
「へぇ~」

 レベチは最近の言葉だった。「レベ●●ルががう」の略で、意味はその通り、レベルの違う事柄を表すのに使う。
 ユリは少し頭デッカチになっていて、理性が強く、普段はこういった欲を抑え込んでいるために、性に対する期待がかなり膨張していた。

「ユリはしたことないの?」
「え、エッチ?」
「そう、恒例会で」
「え~、ないよ~」
「絶対した方がいいよ。ホント、レベチだから」

 ユリはゆり子が霊とのエッチに嵌っている状況が少し心配だった。頻繁にできないからある程度はブレーキが効くからいいが、この子なら週に何度も霊を呼び出して、したがるだろうと思った。元々早熟だったし、スタイルがいいから性的にも成長が早いのだろう。今の彼氏・タカシ君だって、隣の独教高校野球部のエースでかっこいいから自分から迫ったこともユリは知っている。

私の好きな聖也君に手を出さない限りは良しとしよう。

あれ?

「あ、数学の斉藤先生だ」

 二人とも目の前の道を左へと走る斉藤優斗さいとうゆうと先生の運転する車に気が付いたが、先に口に出したのはゆり子の方だった。

「へぇ~、意外と車の趣味いいんだ~」

 斉藤は落ち着いた青色に塗られたBMWに乗っていた。隣に誰かいたようだが、こちらからは運転席の斉藤しか見えなかった。

「うちの学校の先生だから、ある位程度の資産レベルの出身なんでしょ?」

 確かに、聖アナスタシア学園に来るくらいだから、ある程度社会階層が高いことが想像できた。「身分」と言ったら怒られるし、「上流階級」というには資産がそれほどでもないが学校全体の偏差値を引き上げてくれる優秀な子も入学してきていた。どちらの「集合」にも含まれるマサミやスミレ、サクラも自分も学園で一目置かれるし、ゆり子もクラス代表に指名されるくらい勉強はできたから、いじめられることもなく自由に行動できていた。

 斉藤は男性だから女子校である当学園の卒業生ではないが、縁者だろう。母親か姉妹が当園の出身か。後は学園長が学力アップのためにスカウトしてきた実績のある講師だ。
 これまではA大学に毎年数名を送り込んでいたことで親の評判は良い。早慶は難しくても、現在のMARCHレベルならば就職にも困らないし、試験で入る子と推薦枠で入る子とがいることから、先生自身が何らかのパイプを持っているらしかった。
 A大学に進んでアナウンサーになりたいと考えていたユリにとってA大学にパイプがあるとか、入試の傾向分析が的確で一般入試で合格できるなら、しばらくは斉藤先生の指導を受けようかと思い始めていたところだった。

「ねぇ、ユリ、斉藤先生のA大向け強化塾、参加するの?」
「ううん、どうしようかなぁ」
「でも、アナウンサーになりたいんでしょ?A大出身のアナウンサー結構いるからノウハウとかコネが絶対あるよ」
「そうだとは思うんだけど」
「しかも、斉藤先生の指導は熱血らしく、結構鍛えられるからA大以外も受かちゃうらしいし」
「うん。あれっ、ゆり子は国立コースだよね?」
「私は外語大に行って、フランス語をもっと勉強して、国連で働きたいの」

 あるあるなのか、勉強できる子ほど性欲が強いと言われているとかいないとか。
 ユリの頭からゆり子の喘ぎ声が離れないのは、自分もそういうことがしたいと体が求めているからなのかな、と少し悩んでいた。昨日は聖也君に抱かれている夢を見て、朝起きたら、全身汗びっしょりだったし、自分の手が股間にあって、寝ている間に指をアソコに入れていた痕跡があって、急いでシャワーを浴びに行ったばかりだった。
 分かっててする自慰行為はコントロールできるし、受験期になっても困らないけど、無意識に体がそういうことを求めているのなら、コントロールできていないということだから、どうしたらいいのか、正直分からない。
 ま、科学的に冷静に考えたら、今はちょうど排卵期だから、私の体は女性としては自然に妊娠できる状態だし、それを満たそうと性欲が高まっているだけよ。ほら、そう思えば、やはり私は自分をコントロールできている。
 しかし、ゆり子が言うように、降霊で好きな子を呼び出して「抱かれた」のなら根本的に性欲問題は解消されるのかな。霊といろいろ体験しても妊娠することはないし、あんなに幸せそうなゆり子を見ていると悪いことではないのかもしれないと思えてきた。後でマサミに聞いてみよう。ルキフェルから過大な要求がなければやってみていいかも。

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