002チューハイの問題

02 チューハイの問題

この世には、チューハイという甘美な液体がある。正しく書くなら焼酎ハイボール、略して「酎ハイ」だ。ぼくはこいつが三度の飯より好きで、ほとんど毎日飲んでいる。ビールに日本酒にウイスキー、若い頃から酒ならなんでも飲んできた。どれも嫌いじゃないが、あれこれと試して最後はやっぱりチューハイに戻ってきてしまった。

だが、このチューハイがぼくを悩ませるのだ。

家で飲むぶんには問題ない。自分の好みの缶チューハイを買ってきてもいいし、好きな焼酎を炭酸で割って飲むのもいい。焼酎の濃さもお好みのままに、だ。

しかし、居酒屋で飲むとなると、これが深刻な問題となって目の前に立ちふさがる。なぜなら、チューハイを注文したはずなのに、チューハイじゃないものを出してくる店が実に多いからだ。

言ってる意味、わかりますか? 順を追って説明しよう。

仕事を終えた夕暮れどき。そろそろ一杯やって帰るかという気分。通りすがりにいい雰囲気の店を見つけて、すっと暖簾をくぐる。テーブルに備え付けられたメニューのドリンク欄を見ると、「ビール」「日本酒」「各種サワー」などの項目がある。

さらに「ビール」には大瓶、小瓶、黒ビール、生ビール(大ジョッキ、中ジョッキ)などがあり、「日本酒」のところにも様々な酒の銘柄が書かれている。酒場では当たり前のメニュー構成だ。

そして、ぼくは「サワー」の項目に注目する。すると、そこには次のように書かれている。

【各種サワー】
 ・酎ハイ
 ・レモンサワー
 ・グレープフルーツサワー
 ・カシスサワー
 ・シークワーサー

……以下省略するが、こんな感じで味のバリエーションが書き連ねられているわけだ。当然、チューハイ好きのぼくは「酎ハイ」を選択し、その旨を店員さんに伝える。それを受けて店員さんも「はーい! ご新規さん、酎ハイ一丁いただきましたー!」と元気な声をあげる。

だが、しばらくして出てきたグラスのそれを、ひと口ぐいっと飲み込むと、喉を通過する液体は我が愛しきチューハイ様ではなく、レモンサワーの野郎だったりするわけだ。

それはアンタが注文を間違えたのだろう。もしくは店の側が注文を取り違えたのかな? そう思われる方も多いだろう。

断じてそんなことはない。

なぜなら、こうした間違いはこの店だけに限ったことではなく、どこの居酒屋でもしょっちゅう体験しているからだ。

と、このように書きながら皆さんと一緒に真相を探ろとしているのかというと、まあそんなことはなくて、すでに謎は解けている。つまりこれらの店では、このレモンサワーがチューハイなのである。

あ、やっぱりわかりませんか。もう少し説明が必要ね。

問題は炭酸にある。本来「チューハイ」というものは、あまり風味の強くない甲類焼酎を炭酸水で割ったもののことを指す。余計なフレーバーなど必要としない。炭酸水が何で出来ているのかを説明するのはバカみたいな話だが、それをわかってない店が多いのであえて説明しておく。

炭酸水とは、水と炭酸ガスに圧力を加えて飽和させたものだ。だから炭酸水自体は何の味もしない。当たり前の話である。そのため、こうした単なる炭酸水で作られたチューハイを「味気ない」と感じて好まない人も多いわけだが、わたしはむしろこのソリッドさにこそ、“酒飲んでる感”があるように思えて、たまらなく愛おしいのだ。

では、なぜチューハイを頼んだはずなのに、レモンサワーが出てきてしまうのか?

いろんな店に行って、いろんなチューハイを頼んでみてわかった。いかなる理由があったのかというと、そもそも「店に常備してある炭酸が炭酸ではない」のだ。

特定の企業、特定の商品名を出したくないので、ここはちょっと言葉を濁すが、焼酎を割るため用に最初から炭酸に甘酸っぱいレモンシロップを混ぜてあるやつが売られてるでしょ? 犯人はアレなのだ。ソリッドな酔っぱらいの世界を知らない居酒屋は、アレをチューハイ用の炭酸として認識し、かつ常備しているもんだから、チューハイを頼んだはずなのにレモンサワーが出てきてしまうのだ。

では、メニューに「酎ハイ」と書いてあるのに平気で「レモンサワー」を出すような店で、あえて「レモンサワー」を頼んだら何が出てくるのか?

そんな当然の疑問に答えを得るために、ぼくは好きでもない「レモンサワー」を頼んでみた。酸っぱい味は苦手だけどレモンサワーを頼んでみた。

すると、酎ハイを頼んだときとまったく同じ味の甘酸っぱいレモンサワーが出てきて、唯一の違いは輪切りにしたレモンが浮かんでたことだった。

違いはそこだけかよ!

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