台湾のIT大臣の対談が面白かったけど長かったので興味深いところを抜粋

これを読みました。

おもしろかった。でも長くて、ちょっと硬めの日本語訳だったので読むの大変だった。

自分のためのメモとして、おもしろかったところを抜粋しておこうと思う。

コードは法則という話

コードはLawです。Lawといっても、法律ではなく、法則のようなものです。コードは、何が起こりうるか、何が起こらないかを決定する、サイバースペースにおける物理の法則のようなものなのです。

私たちが自然の物理法則を覆せないように、ヴァーチャルな世界ではプログラムによる法則が絶対だ(但し天才ハッカーがハックしない限りは)、みたいな話。

直接民主主義的だなーと思った話

政府が、システムの修正やパッチと呼んでいるものでしか対応しないのであれば、以前からある偏見や間違ったコードを修正するのには十分ではないでしょう。一年に一回、もしくは4年に一度の投票や選挙の年だけに、3ビットだけアップロードしているようであれば、偏見を修正するのには十分ではありません。

誰もが自由にフォーク、つまり代替ビジョンを開発し、24時間のサイクルの中で融合することができれば、魔法のようなことが起こる。それは、少数の市民テクノロジストが土木技術者のような役割を果たせることになります。なぜなら彼らのコードが人口の半分以上の人に使われることになれば、これらのコードは、高速道路や一般道路と同じような役割を果たすことになるからです。またさらなるメリットとすれば、誰もが異なる未来を想像することができるようになります。

数年前、本来日本は議会制民主主義なのに、SNSの出現以降、直接民主主義的になっててそれは問題なのではないかという話があった気がするのだけど、今の台湾は政策の施行まで一気にやっちゃってるような勢いを感じる話。政府と国民の間に信頼関係があるからできるのだろうか。

ちなみに本文に直接民主主義という言葉は出てきません。自分が勝手にそんな印象を持っただけです。ご注意ください。

何十年もの教育実験から自己動機づけ学習に至った話

台湾では昨年からの新カリキュラムでは、子どもたちが自分たちでプロジェクトを設定して問題解決型学習で構造的な問題を解決していくように、アドバイスしています。

(中略)

子供が例えば気候変動に関心を持った時に、紙の教科書が教えてくれるファクトや考えに頼るのではなく、気候変動に興味を持っている様々なサークルの先生にリーチし、そこから学ぶことができるようになりました。問題を理解して解決したいという強い思いがない事象に関して、いくら教科書で教えてもあまり意味がないからです。

自己動機づけ学習の考え方が、新しいカリキュラムの核心です。台湾では過去何十年にもわたって代替教育、実験的教育、家庭教育などの様々な教育実験を行なってきました。その結果として自己動機づけ学習のカリキュラムが始まりました。これらの教育実験はすべて合法で、過去10年にわたり台湾の若者の10%までは、公式のカリキュラムに縛られず、自分でカリキュラムを選択することができるようになっています。

うらやましいしかない。我々は何十年も差を開けられているようだ。

情報を絞る理由

フィーチャーフォンを持つことで私は、この携帯電話からの入力帯域幅を意図的に制限しているわけです。このことによってこのデバイスはおそらく、ユヴァルが先ほど説明したような私の好みにあう情報や、逆に新しい興味の対象外の情報を判断するような十分なデータを集めることはできないでしょう。それは技術的用語では「混合意志」といいますが、私の時間や私のコミュニティの中から「混合意志」を見つけることができなくなります。

(中略)

これは医療用マスクをつけているようなものです。マスクが細菌やウイルスから我々を守ってくれるように、わたしを(無用なレコメンデーションから)守ってくれます。また例えばFacebook Feed Eradicatorと呼ばれるプラグインをインストールすると、Facebookアプリやウェブサイトから不要なFacebook自動フィードを削除してくれます。

(中略)

我々の意識脳は、異なる情報を調整する役割を持っていると言われています。その調整のためには十分なスペースが必要です。たとえいい情報であっても大量に入ってこないようにする必要があるのです。

タンさんは、

- タッチスクリーンは中毒性があってそれが好きじゃないから
- 「混合意志(AI用語?)」を取得されないため&無用なレコメンドを避けるため
- 無用な情報やスパムに、感情を翻弄されないため
- 脳の適切な働きを維持するために、脳にスペースをあけておくため(情報を入れすぎない)

といった理由でスマホを持たないらしいけど、最後の「脳にスペースをあけておくため」ってところが気に入ったので抜粋。

『異なる立場から共通の価値観』

台湾では、学識者だけでなく、日常の実務家も含めて、多くの人が中国式の権威主義的なデータ管理が必要だと主張してます。一方で、ヨーロッパで主流の思想を主張する人もいます。ヨーロッパでは国家が監視するのではなく、個人のプライバシーを保護することが重要だとする思想が主流です。GDPR(EU一般データ保護規則)に代表されるような社会インフラを構築すべきだという考えです。また、アメリカに見られるような「データは石油のような資産で、そこから価値を抽出すべきだ」という考え方を主張する人も多くいます。

台湾ではこうした異なる考え方が併存しているのです。

今回の対談で最初に、婚姻の平等の法律化の話をしました。内縁の関係も合法化するという話です。私たちは常に、異なる立場から共通の価値観を引き出すという「イノベーション」に取り組み、成功してきています。こうしたイノベーションこそが、持続可能な真のビジョンであり、7世代先の人類の利益のために働くということなんだと思います。

身体と立場と無益な物語からの解放

痛みに最も近い人たち、本当に苦しんでいる人たちに力を与えるためにコーディングを続けると、彼らは(社会のためにコードを書く)シビックハッキングの意味においての「ハッカー」になることができるでしょう。彼らは、身体からの制限も、社会的立場からの制限からも、さらには何も生み出さないのに無自覚に繰り返してしまう「物語」からも、自由になれるのだと思います。

古い物語から解放された彼らは、新しい物語の織り手となり、サピエンス系のすべての人にとって、より良い運命を決定することができるのです。

感想とまとめ

流れとしては、ハラリさんが「これって大丈夫なの?」と問題提起し、タンさんがそれにポジティブな応答をするといった感じで、ここの抜粋もタンさんの発言ばかりになってしまった。

ハラリさんは話題の歴史学者で哲学者みたいだけど、やはり過去に学ぶ人なだけに、過去の事例から未来を心配するようなとこあるんですかね。

一方、タンさんはひたすらキラキラしてて、テクノロジーを信じてる感じがした。それは今の台湾の政府と市民の関係が良好なせいもあるんでしょうか。

タンさんはこの対談の中で、ゼロサムゲームを超えていくといった発言もしてるのだけど、それもテクノロジーだけじゃなく人間を信じてる感じがして、とても共感ポイントの多い人だった。自分も今ノンゼロサムゲーム的なポストコロナの世界を書いてて、この共感度をどう言葉に表したらいいのかわからない。

ともかく、テクノロジーを信じる技術者はポジティブな人種なのかもしれないなと思った。

ところで、さっきの抜粋の中にも出てきた「混合意志」って言葉。タンさんいわく技術用語らしい。英語ではなんと言うのだろうと無性に気になって、この動画を確認したら、どうやら“blended volition”と言うらしい。

ググってみると、ベン・ゲーツェルというAIの権威が生んだ用語っぽい。

そしてさらにベン・ゲーツェルさんをググったら、こんな記事が出てきた。

2016年の記事。タイトル見ただけで、タンさんの思想や今の台湾と結びつきそうな話。

抜粋しすぎで怒られるかなぁ?でもオープンな記事だし。怒られてから考えよう。

ちなみにこのYouTubeを翻訳したもののようです。“blended volition”もこの英語字幕から見つけました。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?