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社会経済的地位と再分配選好

「Encyclopedia of Evolutionary Psychological Science」からの学び

社会経済的地位(SES)が低い人々は、経済的再分配(富の再分配)を支持する傾向があります。なぜなら、再分配は彼らに直接利益をもたらすからです。しかし、その関係は単純ではありません。貧乏であっても再分配政策に反対する人が多くいます・・・。なぜなのかを深く掘り下げます。

SESと再分配選好の関係

  • 低所得者: 生活に困窮しているため、再分配政策によって生活水準が向上する可能性が高いと考えるため、再分配を支持する傾向があります。例えば、生活保護や最低賃金の引き上げは、低所得者層の生活を直接的に支援する政策です。

  • 低学歴者: 高収入の仕事に就く機会が限られているため、再分配によって教育機会の平等化を求める傾向があります。例えば、高等教育の無償化や奨学金制度の拡充は、低学歴者の社会進出を支援する政策です。

  • 無職者: 失業手当などの社会保障制度の充実を求める傾向があります。また、雇用創出政策による再分配を期待します。

SESと再分配選好の関係が弱い理由

  • 楽観主義

    • 将来の経済状況について楽観的な見通しを持つ人は、再分配の必要性を低く見積もる傾向があります。「自分は今は低所得だが、いずれは高収入を得られるはずだ」と考えている場合、再分配政策の恩恵を受ける可能性は低いと考えるためです。

    • 特にアメリカでは、自己責任論が根強く、努力次第で誰でも成功できるという「アメリカンドリーム」の思想が浸透しています。このような社会では、低SESの人々でさえも、将来に対する楽観的な見通しを持っています。

  • 新自由主義的思考

    • 再分配は政府による市場介入であり、経済の効率性を損なうと考える人もいます。彼らは、再分配によって高所得者の労働意欲が減退し、結果的に経済全体が縮小してしまうことを懸念しています。

    • 彼らは、自由競争と自己責任を重視し、政府の役割は最小限に抑えるべきだと考えています。

  • 政治の複雑さ

    • 税制や社会福祉制度は複雑で、専門家でさえ理解が難しい側面があります。そのため、低SESの人々は、再分配政策の内容を十分に理解できず、自身の利益に繋がる政策を支持できない場合があります。

    • 例えば、累進課税制度は、高所得者ほど税負担が大きくなる仕組みですが、低SESの人の中には、この仕組みを理解していない人もいます。

  • システム正当化

    • 人は、自分が属する社会システムを肯定的に捉えようとする心理的バイアスを持っています。そのため、現状の経済的不平等を正当化し、再分配の必要性を認めようとしない場合があります。

    • 例えば、「努力すれば誰でも成功できる」という信念を持っている人は、低SES層が貧困なのは努力不足が原因だと考え、再分配に反対します。

  • 経済的成果への当然の権利意識

    • 努力や能力によって経済的成功が決定されるべきだと考える人は、再分配によって経済的成果が再配分されることに抵抗を感じます。彼らは、再分配は努力した人が報われない不公平な制度だと考えているのです。

    • 例えば、「自分は一生懸命働いて財産を築いた。それを再分配によって奪われるのは納得できない」と考える人がいます。

今後の研究課題

  • 上記の要因が、それぞれの状況において、どの程度影響を及ぼしているのかを、より詳細に分析する必要があります。

  • 特に、個人の属性や置かれている状況によって、どの要因が強く影響するのかを明らかにすることで、より効果的な再分配政策を立案することができます。

結論

低SESの人々は、再分配政策の恩恵を受ける立場にありながら、必ずしも再分配を支持するとは限りません。

その背景には、楽観主義、新自由主義的思考、政治の複雑さ、システム正当化、経済的成果への当然の権利意識など、様々な要因が複雑に絡み合っています。

より効果的な再分配政策を立案するためには、これらの要因を深く理解し、多角的な視点から議論を進める必要があります。

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