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夜が明けたら

「あ、そのえびはこっちでいいよ」
「へぇー、えびにも種類があるんだ」

生えびせんソフト仕上げ
サフラン油で白肌色に
薄揚げチップスにしたものを皿に盛って

こっちには生ぷりぷりシュリンプを入れる
ピラフに入っているようなてかてか
でも何かそぐわない

間違ったのと混じってる感じがして
別に乾燥えび、出汁に使うような
レトロな乾しえびがあって

そっちに一緒にいれようとしたら
彼女に止められた。分別

「いいのいいの」
「なあ、仕事も順調みたいで、
そういう話を聞くのも悪くないな」

しみじみなっていると父親が現れて、

「これ、美味いんだぞ。食ったか?
何だ、食べてないのか。今やってやる」
「いや、お父さん、いいよ」

赤い、にんにくのような形の
球根みたいなたまねぎ
紫の筋が入っている

冷蔵庫の卵を置くところに乗っかっていて
それには手をつけずに
そのまま冷蔵庫の中を見ると

ああ良かった、チョコレートケーキ。
半分位抉り取られて
真ん中から食べたんだな。

作り方おかしくて、
シェフの腕の見せ所の
いろいろな濃さの配合の
チョコレートソース。

まんべんなく少しずつグラデーションして
チョコ色を織り成していくはずが
レシピではそうなっているんだけど

その通りにしても薄すぎたみたいで
上手く折り合いがつかない
味見もしてないからどうかなと思いつつ

一応、ティラミス風に焼き皿に入れて
ラップして冷蔵庫に入れておいたけれど
食べてくれたんだな。

彼女は朝一でシャワーに駆け込み
俺に寝起きの汚い顔を見せないようにして
顔を合わせるまえに
最後くらいは綺麗な顔でおはようを

俺の自宅。俺はひとり、彼女は上の階で寝て
彼女は夜遅くに帰ってきたらしい
全然気づかなかったけれど

もう俺は遅いんよ
新しい彼女と付き合う事になって
でも、どっちを選ぶ?っていったら
名残惜しいな

湯上り彼女。洗い髪をしたたらせて
肌のうぶな匂いが湯気に乗って鼻に来る
首の開いた黒いTシャツ

なまめかしい首から胸元にかけては
白いタオルをかけている
ほおが血気良く熟れた桃みたいに
白肌と赤色のバランス

こんな近いからだの距離
俺のふところ、こんな間合いに
彼女が立つのもこれで最後

この朝は、二人にとって
どういうひとときであるのだろうか?
ほおを摺り寄せるのがいいのか?

彼女に対して感じる初々しさ
それが、さびしい

この朝は、とても洗われたように
すーっとしている
すかしている。神様

すがすがしい。うすい、うすい
力が抜けて、抵抗感がない
二人の肌は垢にまみれない。鈍くない

この朝は、はじめての朝だ
二人に朝が訪れた
二人の夜はもう終わり。おはよう

貞節な彼女。節度
彼女のこえ。さよなら
彼女の肌触り。

俺のケーキ
カッパえびせん
えびは二種類区別して。まぜないで

二の腕オリンピック金メダル
たぷたぷして。ふわりとして

彼女はうつむいて
もう、俺のことを、見ない
彼女の目は、俺の姿を確認しても
それは物理的に
道に散らばる石を見るように
同等にそのように見る
見えるけれどみえてない。みない
目が、決定的に

ひとつの会話がさらさらしている
さらさら さらさら
夜が明けたら

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