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「竹取物語 僕が書いたような物語」(『作家と楽しむ古典 古事記 日本霊異記・発心集 竹取物語 宇治拾遺物語 百人一首』より)

忙しい先生のための作品紹介。第57弾は……

森見登美彦「竹取物語 僕が書いたような物語」(『作家と楽しむ古典 古事記 日本霊異記・発心集 竹取物語 宇治拾遺物語 百人一首』河出書房新社 2017年)
対応する教材    『竹取物語』
ページ数      33ページ
原作・史実の忠実度 ★★★★☆
読みやすさ     ★★★★☆
レベル       ★★☆☆☆
生徒へのおすすめ度 ★★★☆☆
教員へのおすすめ度 ★★★☆☆

作品内容

 本書は、「池澤夏樹=個人編集 日本文学全集」シリーズで執筆した作家たちが、担当した作品の解釈を語る一冊です。今回紹介するのは、第3弾で『竹取物語』の訳を担当した森見登美彦が『竹取物語』を振り返る章です。(森見登美彦訳「竹取物語」については、前回のnoteで紹介しています。https://note.com/manavin_kokugo/n/n51c5cfc0543d)

 本書は2016年に開催された連続講義を書籍化したもので、全体を通してインタビューのような形式で書かれています。本章では『竹取物語』の作品全体の紹介から始まり、続いて原作とその訳を比較しながら、訳す際のポイントとなった部分が説明されていきます。

 途中には「現代語訳ワークショップ」という項があり、示された原文を自分ならどう現代語に変えるかを考えた上で森見氏が作り上げた訳を読むことができます。最後には講義らしく「質疑応答」の欄が設けられ、『竹取物語』の解釈にまつわる10個の質問に答えています。

おすすめポイント 『竹取物語』のキャラクター論

 森見氏の語る『竹取物語』の特徴は、具体的な記述を取り上げてキャラクターの性格を分析しているところです。「キャラクターを立てる」という節では、訳す際にその人物の人となりを表せるような台詞を考えたことが書かれています。このことからも、物語全体の流れよりもキャラクター像の明確化に着目したことが分かります。また、五人の貴公子については、各登場人物に対する森見氏の好き嫌いも書かれていて、アニメや漫画の推しキャラを語っているような面白さがあります。

 そして、竹林が好きで大学院でも竹の研究をしていたという森見氏が、『竹取物語』の作者について「やっぱりこの人は竹が好きですね」と言っていることも独特の分析です。個人的には『竹取物語』では竹よりも月やかぐや姫の存在に目が行ってしまいますが、それは今までに読んだことのあるかぐや姫に関する作品分析に影響されている部分があります。表題に竹を含める作者には、確かに何らかの竹に対する愛着があるのかもしれません。

自分が興味をもてるものに注目して楽しんで読むという肩肘張らない古典へのアプローチが、この章のお気に入りポイントです。

活用方法

 本章は、『竹取物語』についての新たな視点が得られるような内容で、しかも話し言葉を用いた読みやすい文体で書かれています。このことから、教科書で取り上げられている『竹取物語』の文章の、解釈を学ぶ授業の参考資料として適していると言えます。例えば本書では帝について、「世の中の摂理の代表みたい」な存在で、「半分は人間ではないような書き方」であり、訳すのが難しかったと、正直な感想が書かれているのが印象的です。古典研究でも帝は「地球の象徴」的な存在としてよく話題に挙がりますが、森見氏の分析はそれらに比べて親しみやすいので、中高生が古典の解釈に触れるのにも適したレベルです。そのため本書は、『竹取物語』の解釈の入門編として手軽に扱えそうです。

 また、「現代語訳ワークショップ」を参考にして、古典作品の現代語訳に挑戦してみることもできるでしょう。原文の内容に大幅な加筆修正を入れることはなく、細かいニュアンスを表現するために台詞や地の文の言い回しに工夫を加えるような森見氏の手法は、高校生の現代語訳の活動に活かせそうです。

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