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水が生命を作った:#00072

 イオン結合した分子は、どうして水の中ではほどけてイオンになるのか。これを電離といいますが、この現象により水中でいろんなイオンが出会うことになります。その秘密は水分子の特殊な性質にありました。(小野堅太郎)

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 何気ない水ですが、ヒトに関わらず、生命の多くは水がないと乾燥した陸上では生きられません。水蒸気でもダメ、氷でもダメです。液体である水が必要です。「生命は海から生まれた」とはよく言われますが、海にある「水」が大事でした。

 水分子は水素原子2個と酸素原子1個が共有結合した分子です。共有結合とは元素の最外殻を回っている電子を互いに共有し、安定化したかなり強い結合です。ただし、水分子の形は「くノ字」に曲がっているため、1分子の場所によりわずかな電位差が発生しています。こういった分子を「極性分子」と言います。同じく液体の油ですが、これは極性を持たない「無極性分子」です。水はさらに、水素結合という弱い結合を行います。ですんで、水分子同士は水素結合で引き寄せ合うので、「水滴」のような粒状の形態をとります。無極性分子の油は、そのままベシャーと流れて「滴」を作りません。

 さて、「くノ字」に曲がっているので水は隙間だらけです(目で見てわかるものではありませんが)。ですので、物が水に溶けると(電離:イオン化)、加えた体積分より少ない合計体積になってしまいます。そのため、実験では溶液を作る際は、「溶質を溶かした後に、水で最終的に体積を合わせる(メスアップ)」ということをします。また、水に溶けないような物質も極わずかに溶かし込むことも可能です。二酸化炭素は無極性分子で本来は水に溶けませんが、水分子の隙間に入り込んで「炭酸水」ができます。なんでも溶かし込んでしまうのが水の凄いところです。

 水は冷やすと氷になります。通常、固体になると分子配列が整うので体積は小さくなり、物質密度は上がります。しかし、水はさらに隙間だらけになって、体積が増えてしまいます。つまり密度が下がるので、氷は水に浮くようになるわけです。地球は過去に何度も氷河期を迎えていて生命は大量絶滅しています。しかし、海が氷で覆われても、その下には水が存在しますので、いくばくかの生命は生きながらえることができたわけです。

 植物の誕生により、大気を占めていた二酸化炭素は消費され酸素が放出されるようになると、酸素から大量のATP合成ができる動物は陸でも生活できるように進化してきます(呼吸器の進化)。とはいえ、水から独立することはできず、体液(血液)という原始の海の組成成分を体に蓄えます。乾燥して水分が失われると、何とかして「水を飲む」ことをしないと生きていけません。昆虫も水を得るために様々な方法を深化の中で獲得しています。原始の海と同じくNaCl(塩)も必要です。

 生命は化学反応の中から生まれてきました。そのためには、水という触媒が必要でした。そのためには、太陽から程よく遠く、程よく近く、程よい惑星の大きさが必要だったわけです。動画の後半では質問があったので、そもそも論を語っています。生命の神秘を少しでも感じていただけたら、幸いです。

00:05 水分子について
01:48 極性分子とは
05:05 水分子同士の結合
07:00 イオン結合が水中でほどける
09:40 水は隙間だらけ
13:57 そもそも論の質問タイム

補足・訂正

 全地球凍結(スノーボールアース)の回数に関しては、諸説あります。地球上の生命は、絶滅と繁栄をそのたびに繰り返しています。

動画クイズの答え

 答えは、塩です。古代ローマにおいて、軍隊において給与を塩で渡していました。当時はラテン語で塩はサラリーウム(salarium)と呼ばれていました。後に貨幣が開発されててお金が渡されるようになるわけですが、サラリーウムが略されてサラリー(salary: 給与)となったと言われています。ちなみに、サラリーマンは和製英語ですので、海外では使えません。

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