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中富千尋助教、九州奨励賞受賞!🏅✨~第71回西日本生理学会~

 さる11月6日(2020年)、マナビ研究室メンバー中富千尋助教が西日本生理学会にて九州奨励賞を受賞した。まことに喜ばしい。共に研究に携わった小野も自分の受賞のように喜んでしまった。(小野堅太郎)

 2020年4月から九州歯科大学生理学分野で彼女は研究を再開したわけだが、折角なので、受賞に至るまでの思い出を小野から見た視点で紹介してみる。中富先生からの視点での記事は別で書いてもらいます。

 生理学分野の研究室は生化学分野と隣同士で、互いの大学院生とよく顔を合わせる。中富先生と初めて会ったのは、当時彼女がまだ生化学分野の大学院生であった頃であった。本学解剖学分野で口唇口蓋裂の研究をしておられる中富先生と新潟大学時代に結婚されており、大学院を「基礎研究」分野に選択していることからも「基礎研究が好きなんだろうな」と思っていた。なにか研究のことで「視床下部」関係のことを相談されたので、1か月ほど脳切片を使用した実験を行ったが、うまくいかなかったように思う。

 2020年1月、長年一緒に口内炎疼痛の研究をやってきた人見涼露講師が、出身校である日本大学歯学部に戻ることが決まり、研究室のポストが一つ空くことになった。誰か補充しなければと考えていたところ、新任の生化学分野の古株教授から「うちの大学院にいた中富さん、どうですか?」と話があった。大学院を無事修了したものの、研究職に就かず、歯科医師として働いているという。「え、基礎の大学院行ったのに臨床してるの?」と驚いた。

 まず、旦那さんの方の中富先生に話を持っていくと「わかりました。妻に話してみます。」との返事。電話で連絡をもらい、直接話すことに。研究が心底好きなようだが、出産・子育てが重なった大学院生活に疲れており、初めはなんとなく断られそうな雰囲気だった。色々話しているうちに笑顔が見られるようになり、最終的には快諾の返事を得た。

 ちょっと不安だったので、「応募用紙を出す前に中身を見せてもらえるかな?」と締め切り日に書類を見せてもらった。締め切りは5時。4時くらいに彼女は子供をベビーカーに乗せて現れた。中身を見てみると、「あれ?これ何?」研究業績の論文に不規則な番号が書いてある。教員採用において、業績確認のために本学では業績目録に振った番号と同じ番号を文献に記すことになっている。しかし、目録番号と論文の番号が合わない。「え!これ違うんですか!」と彼女。応募用紙の書き方について、正直まちがいようのない詳細な記述があるのだが、かなり独自の解釈をしたようである。慌ててバタバタと、締め切り時間前までに修正を行った。

 後日、エレベーターで旦那さんの方の中富先生に会い、「奥さんの書類、大変でしたよ。」というと、笑顔で「ああ、すいません。独特な読み方をしたらしいですね。家でもよくあるんですよ。」と言われた。

 2020年4月1日になり、中富先生が出勤してきた。感染症対策で大学はごった返していた。「中富さん、吉野先生とYouTubeやってるんだけど出演してよ。」というと「え?なんか面白そうですね。いいですよ。」と即答だった。実はその前に、大学院生全員から出演を断られていたので助かった。

 実は、生理学分野のもう一人の教員、氏原泉先生も4月いっぱいで退職することが決まっていた。旦那さん(小野がよく知る後輩)が石垣島で勤務しているため退職となったのであるが、感染症の関係で石垣島に入れない。氏原先生は自分の机を片付け終わっていたものの、研究室に来て院生の指導や研究データのまとめを自主的にやってくれていた(結局、7月まで引っ越せなかった)。中富先生は、普通、気を使うところだと思うのだが、氏原先生が研究室にいるにもかかわらず、氏原先生が使っていた机に、パソコンなど自分の仕事道具をどしどし設置して堂々と使っていた。氏原先生は、「いえいえ、いいですよ」と笑っていた。

 中富先生は、就任後から水を得た魚のように実験をしまくっていた。ぶわーっと仕事をして、5時過ぎにズバーっと子供を迎えに行き、仕事の続きを終わらせるとベビーカーを押してバタバタと走り去っていく。小野も昔はそんな生活をしていたので懐かしい。

 TRPA1というワサビの辛さを感じるのに必要な分子がある。この分子が口内炎の痛みに関与することを見出した(Nodai et al., 2018, J Dent Res)。この関与に関してより強い証拠を得るため、遺伝子編集により、その分子機能が欠如したTRPA1ノックアウトラットを入手した。組み替えた動物にはホモ(完全欠損)とヘテロ(半分欠損)かをPCR法にて判別するのであるが、プライマーの設計がおかしいと言い出した。論文はちゃんと読んだの?と確認すると「はい」という。遺伝子組み換えをしたキリン(株)の先生に彼女がメールで質問すると、その先生も質問の意味が分からないということで電話がかかってきた。問題が解決しないようなので、小野が設計を確認したところ問題はなかった。中富先生は遺伝子情報をWordに張り付け、その検索機能にてプライマー配列を読み取っており、行変えされている部分がヒットしないためプライマー位置が判別できていなかったのだ。キリン(株)の先生には謝罪し、遺伝子解析ソフトの使用を彼女に勧めた。

 研究室の劇物管理について事務から依頼があったため、中富先生に薬品整理をお願いした。リストを作成してもらったが、やたら数が少ない。おかしいと思って、何をやったかを追跡調査した。どうやら事務から提示された劇物資料が長くて読みにくかったらしく「食品安全性管理」なるサイトを発見し、それが読みやすかったので使用したとのこと。「食品安全性管理」にはナトリウムやカリウムといった食卓に普通に並ぶようなものもリストされており、「摂りすぎると害になるもの」であった。劇物(わずかな量で生死に関わる物質)とは全く関係がない

 賞をとることは、研究者として業績となるため、研究費獲得や昇進において大変重要である。「賞は取ったことあるの?」と聞くと「一回もありません」という。なら、若手研究者の発表の場である西日本生理学会で奨励賞に応募したらどうだ、と勧めた。研究がまとまった院生が一人いるのでその子に出させようと思っていたが、奨励賞は年齢制限があり、中富先生は応募する最後のチャンスだという。発表2日前、「発表するんじゃないの?一回ぐらい見てあげるよ。」というと「えー、なんかやる気がわかないんですよね。」と机に顔を伏せる。「賞をとることは大事だよ。頑張らないと。」というと「すいません。忘れてたんですけど、私、他に2回賞を取ったことがあったんですよ!」という。

 万事、このような感じなのである。

 さすがにやる気を出してくれて、発表前日は徹夜で練習し、当日には立派な発表をやってくれた。ここには悪い話しか書かなかったが、中富先生は研究者として大事なひらめきがある。今回の発表研究でも新仮説を出して証明してくれた。今後も頑張ってほしいです。受賞おめでとうございます。

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(以下中富です)
↑↑多少事実に反する部分もある気がしますが…(; ・`д・´)
ほぼ真実なので返す言葉がないでーす…(´・ω・`)
もともと忘れっぽくておっちょこちょいな性格なのですが(旦那からは「おっちょこ」というあだ名で呼ばれている)、根気よく付き合ってくれてる小野先生に感謝です💛多分これからもいろいろやらかします。
色々あったけど受賞できて良かったです!また研究頑張ります♪

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