ニューロンは有機羊の夢をみるか: 神経回路の基本構造 #00085
コンピューターは、シンプルな電子スイッチ(トランジスタ)の組み合わせにより演算しています。一方、脳などの神経系はニューロンを素子とし、複雑な入力・出力系を持っています。頭蓋内のわずか1.3kgほどの組織がなぜ高度な演算が可能なのかを解説します。(小野堅太郎)
神経回路の最小単位は「ニューロン」です。普通の細胞とは異なり、樹状突起という長い枝を伸ばしたトゲトゲのような細胞形態をとっています。
この樹状突起は他の神経からの出力を受け取る入力場で、シナプスプートンというイボのような小さな出っぱりで神経伝達物質を受容します。受容体が活性化すると細胞膜のイオンチャネルが開き、膜電位を変化させます。このような電位変化が樹状突起のいたる所でバラバラに発生し、細胞体に集まってきます。
細胞体に集まる電位変化は、大きさ、陽性陰性、到達時間は様々です。これらが合算された総合的電位変化となり、ニューロンそれぞれで規定される電位(閾値)を超えると「活動電位」が発生します。活動電位発生の細胞膜メカニズムについては過去記事・YouTube動画を参照してください。
この活動電位は神経「軸索」を伝導します。軸索の末端は分岐して複数のニューロンの複数のシナプスブートンに接続します。活動電位がシナプスに到達すると細胞内にCaイオンが流入し、神経伝達物質の開口分泌が引き起こされます。その神経伝達物質が、接続するニューロンのシナプスブートンで受容され、電位変化を引き起こすわけです。
神経回路がより複雑な情報処理が可能なのは「抑制性ニューロン」が存在することです。「興奮性」だけでなく、次のニューロンの興奮を「抑制する」作用(シナプス後抑制)があるおかげでより高度な情報処理が可能となっています。他にも以下のような神経回路があります。
シナプス前抑制:興奮性シナプスに別の興奮性入力が入ると抑制が起こる。
脱促進:興奮性ニューロンを抑制することで抑制性に作用する
脱抑制:抑制性ニューロンを抑制することで興奮性に作用する
フィードバック回路:抑制性ニューロンを介して自身を抑制する。
フィードフォワード回路:抑制性ニューロンを介してあらかじめ興奮性入力を抑制する。
反響回路:興奮性入力を自身に戻して増強させる。
さらに、シナプスブートンではたくさんの入力が続くと、反応を増強させます。これは、学習に関与していると考えられています。
そんな神経経路の複雑で大量の組み合わせにより脳は構成されています。脳では各機能が領域によって分けられます。この区分は脳組織の神経構造の違いに一致しており、機能が「モジュール化」されていることを示します。これを一般的に機能局在といいます。機能の中には、感覚や運動に関わるものは、口や手や足など体部位が含まれます。ですので、いくつかの機能領域はさらに体部位局在を有しています。
補足・訂正
動画の最後で、心や意志の話に入ります。かなり長い議論になってしまったため、別の動画として公開させていただきます。